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第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第七十九節

キミが私を救ってくれた



「…」

無言で病室に入る

真凛は一瞬だけ私のことを見ると寝返りをうつみたいに顔を逸らした

「真凛、あのね…」

「…」

返事はない、止まりそうになる声を無理やり絞りだす

「真凛に…言いたいことがあるんだ」

「…」

「私は…真凛にバンド、辞めてほしくない これからも、真凛とバンドがしたい」

「…」

口に出すのも怖い言葉を、想いを音にした

例えそれに応えがなかったとしても、たとえそれを拒絶されたとしても構わない

私はこれから… 真凛を巻き込む


一世一代の私の盛大なわがままに


 真凛からの返事はなかった

顔も見えないからどんな表情なのかも分からない

ただ静かな彼女の吐息はどこか震えているみたいで…

「ごめん、真凛がどうしてピアノが弾けないのかほんとは薄々気が付いてた…」

「…」

告げる、私からは絶対に言わんとしていたことをはじめて口にする

「真凛の叔父さんのこと…ニュースで知って」

「…」

「それなのに何もしなかった… 何かできないかって考えて、何もできなかった」

私は、真凛のことから目を背けた

気が付かないフリを見て見ぬフリをしていた、かつて私がいじめられていた時にみんなからされたように…

本当に最低だ…

「だから…ほんとはこんなこと、真凛に言える立場じゃないことも分かってる… 最低だって真凛に言われても仕方ないって思う」

「…」

真凛から拒絶してほしいわけじゃない

今までみたいに笑い合えるならそれに越したことはない…けど


「それでも私は真凛に逃げてほしくない」


「…………」


一瞬、真凛が私の言葉に反応した

何かを言おうとしてすぐに口ごもった

「真凛がどうしてピアノが弾けなくなったのかは分かったよ でもだからってバンドを抜けるなんてそんなの… 私は許さない」

強い言葉だ

私の人生の中でここまで誰かに強く出たことはなかった

震えそうなかすれそうな声と言葉を虚勢で保った


「…蓬がどう言おうと関係ないじゃん 私はもう弾けないんだって」

「弾けるよ 少なくとも私が知ってる真凛ならこんなところで諦めたりしない」

これまで私が見てきた小林真凛とういう女の子は陽キャで明るくて誰からも好かれる存在で、でももしかしたらそれは彼女が必死に取り繕ってるだけの表情だったのかもしれない

例えそうだったとしても…

「真凛は強くてまっすぐだってことを私は知ってる」

「なに、それ… 何にも分かってないじゃん 私は… 最初から弱かったんだよ!中学の頃、クラスでいじめられてでもあんな大したことないことで教室に居られなくなってそれでっ!」

泣き出しそうなそんな声で真凛は叫んだ

その姿は今までで一番弱々しく見えて…

まるで助けを求めているみたいなそんな表情をしていた

「……私は、蓬が思ってるほど強くない 私は、誰になんて言われようと… もう、ピアノは弾けない…」

「…分かった」

声を上ずらせて叫ぶように吐き出すように呟いた真凛の言葉に私はただ一言、そう呟いた


「なら、ピアノが弾けなくてもいい だからバンドだけは辞めないで」

「なに、言って…」

「なにってそのままの意味だよ ピアノが弾けなくても大丈夫、でもいつか真凛がまた戻って来られるように…私達とバンドは続けてほしい」

「…そんなの、無茶苦茶じゃん…」

真凛のいう通りだ

ピアノが弾けなくてもいいからバンドにいてほしいなんて要求が破綻してる

そんなの自分から提案した私が一番理解してる、でも…

「これは私の…わがままだから」

「っ…」

私の願いはただ真凛とバンドがしたいだけ

だから真凛が居てくれるならキーボードとしての真凛なのかただそこにいるだけの真凛なのかなんてどうでもいい

「言ったよね バンドを抜けるのは許さないって でもピアノを、キーボードをするかしないかは真凛の自由だよ」

「…でもそんなんじゃ、私がいる意味なんてないでしょ」

俯きながら真凛は言った


少しだけ困惑したような、本当になにを言ってるのかなにを言われてるのか分からない様子だ

「たしかに意味はないかもね… でも真凛がいないと綾乃がMCするときに、困ると思う」

「…」

「それに天城くんは真凛がいないとつまらないだろうし、大倉くんだって… 真凛がいてくれないとまたギスギスしそうだし…」


どうしてそこまでして真凛にバンドに居てほしいのか、その答えを一つずつ言葉にする


「やめてよ、そんなこと 言われたって… 私は…」

「真凛が嫌だって言ったってやめないから 真凛がバンドからいなくなったってまた戻ってきてくれるまで何度でも言うから」

俯き、わなわなと首を振り続ける真凛の手をとる

「…っ どうして…どうしてそこまでするの?」

「なんて言ったらいいのか分からないけど…」

真凛の目を見る、嘘も偽りも誇張すらなくただ思った言葉を口にする


「真凛が…好きだから」


「へ?」


「私は真凛のことが好き、他の誰でもなく真凛とバンドがしたい…」


「……」

視界が交差する、真凛の瞳が私の瞳と重なり合った

「…私、蓬みたいに…強くないよ…」

「…私だって、真凛が思ってるほど強くないんだよ」

そのきれいな瞳に彼女は涙を浮かべた、それが悲しみからくるものなのかあるいは違う感情によるものなのかは分からないけど

「…いいの? ピアノが弾けなくても…なにも…できなくても」

「うん… いいんだよ 他の誰がなんて言おうと私がそれでいいんだから… それに」

もう一度、真凛の手を強く握った… 今度こそ、離さないように


「私は、真凛がまたピアノを弾けるようになるって… 信じてるから」


その言葉を聞いた彼女は静かに頷いて…


「…うん …うん 私も…蓬と… みんなと… バンド、したい」


震えた声でそう呟いた


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