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第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第七十五節

キミがいたから私は変れた

「その…色々ごめん」

「あ、いや その…落ち着きましたか?」

「まあ…うん…」

しばらくして落ち着いた私は仕切りの向こう側にそう呟いた

ベットに横たわった私の手は今もまだ握られていた


「どうして桜水なの?」

ふいにそんな言葉を口にしてた

「えと… 私、一年生の頃に色々あって… 今年の文化祭でもその…色々あったんです」

「色々っていじめとか?」

「まあ…はい…」

一年の頃、学年全体でいじめが多発していたことは知っていた

でも私の周りではそういうことはなかったから、自分には関係ないとそう思っていた

あるいはあったけど気が付かないフリをしていただけかもしれないけど…

「それで…なるべく知ってる人がいなさそうな所に行こうかなって…」

「そうなんだ…」


自分とは違って前に進もうとしている、改めてそれを知って胸の奥が少しだけ寒くなる

「高校に入ったらッ少しは変れれるかなって、そんなことも想ったり…」

「高校デビュー…みたいな?」

いつか雑誌の片隅で見つけたその言葉が脳裏を過った

中学校まで地味だった子が高校に入って垢ぬけてまるで別人みたいになるそんな漫画やアニメみたいな話

けれど彼女はそんな大したものじゃなくてと言って続けた

「私には中身まで変えられる勇気はない…のでせめて見た目だけでもって思ってて」

「でも変ろうと思えるだけすごいよ… 私なんてまだ高校も決めてないし…」

思わず溢した本音にしまったと思った

さっきまで泣いてた理由がそんなことだと思われたらどうしようかと思う(事実なので釈明の余地はないんだけど…)


「なら一緒に桜水に入るとか…なんて… すみません忘れて下さい…」

彼女からの戦闘は意外なものだった

最後のほうが小声なうえ早口でよく聞き取れなかたけど一緒に同じ高校に入らないかってそう言われたのは確かだった

「ほんとすみません… 私と違って社交的だし気配りできるし空気読めるのにこんなこと言って… そもそも高校受験なんて人生で大事なことなのにこんな軽々しく誰かの進路に口出しするなんて…ほんとすみません…」

仕切りの向こう側から豪雨の如く降り注ぐ謝罪に若干引きつつも私は問いかけた

「ほんとに…いいの?」

「その… あんまり本気で考えないでくださいね ほんと一時の気の迷いとかかもしれないですし… あ、えと… でも一緒に桜水にいけるならそれはそれで… うれしいかも… です」


彼女の言葉で私の心は決まった、桜水に行くそして彼女みたいに自分を変える


それから私は桜水に進学するために全てを変えた

受験勉強をはじめながらちゃんと授業にも出席するようになったし他人と積極的に話すようになった

勉強の合間にファッションや流行を頭に叩きこんで話し方や人との接し方の自己啓発本も読んだ

メイクの練習、一年以上弾いてなったピアノも何かに使えるかもと再開した


月日は巡り三月、私は無事に受験に合格した

あとで気が付いたことだけど偏差値的には厳しいけど定員割れで合格率はほぼ百パーセントだったらしい

それから四月までの半月で髪を染めてメイクを練習しいよいよ迎えた入学式


私はついに高校デビューを果たした


けどそこに私の知っている彼女はいなかった

当然だ、名前も知らなければいつも仕切り越しだったから顔も知らない

そもそも本当に桜水に入ったのかさえ怪しかった


でもその時は訪れる


入学式のあと教室の座席表に見慣れた名前を見つけた

蚊帳ノ蓬… たしか同じ中学の生徒だもしかしたらと思って彼女を探す

そして声をかけようとして息を呑んだ

彼女の姿は中学の頃とまるで違っていた

同じクラスになったことは一度もなかったけどそこそこ有名人だから知っている

長い髪をバッサリと切ってメガネもやめてまるで別人だった…

それから彼女のことが気になって話しかけるチャンスを伺った

わざと彼女の席の周りをうろついたりもしたけどなかなかその機会は訪れなくて…

仕方なく新入生歓迎のあと彼女の跡をつけて音楽室までたどり着いた


くれぐれも尾行してたことがバレないようにわざとらしく演技をする

「あれ? もしかしてまだ誰もいないかんじ?」

独り言には大きすぎたかもしれないけどこの声は彼女にも届いていて…

「やっぱ早すぎたか~ ん? あれ誰かいるじゃん! 一年生?」

彼女の返答次第で全てが決まるそんな機体と不安から心音が上昇した


「ええっと あっ はい」


返事にもみたないようなその一言で確信した

目の前にいる彼女こそあの時の仕切りの先の彼女だと

すぐにでも再開を噛みしめたい思いを留めてまずは相手の出かたを見る

「なになに君も軽音部見に来たの?」

「まあ その……」

怯えたように彼女は答えた


もしかしたら私のことに気が付いてないかもしれない

ほんとうは同じ中学から進学したこともあの時、保健室であった出来事も全部話したかった、けど私にはその勇気がなかった

もしも彼女が忘れていたらどぷしようってそう思って…

「やっぱそうだ 同じクラスの ええとなまえなんだっけ?」

口にしたのはそんな中途半端な言葉だった

ここまでなんとか高校デビューして頑張ってきたのに…

自分の努力を無駄にしたみたいで後悔した、けどまだや立て直しは効くはずだ


「んで名前ってなにちゃん? アタシは小林真凛だよ~ てかごめんね同じクラスなのに名前覚えてなくて いつも窓際の席にいるかわいい子ってとこまでは思い出したんだけどさ アタシバカだから人の名前あんま覚えられないんだよね~」

打ち明けるタイミングを逃したなら最初からやり直せばいい

出会いからやり直すみたいに私は自己紹介をした

一瞬戸惑ったあとでいや、そんなことはと呟いてから彼女は言った

「蚊帳ノ蓬です」

知ってる、その名前はずっと前から知ってた

中学の頃、少しだけ噂で聞いたことがある名前だ

あんまり良い噂じゃない、ただのデマだったけど周りからそんな噂を流されても負けなかった強い、私なんかよりも強くて勇気のある女の子

だから私は少しだけ…彼女に憧れた

「あ、そうだカタノちゃんだ」

無理やり話の流れを作ろうとしてわざと彼女の名前を聞き間違えたフリをした

けど彼女は視線を落としてただ戸惑っているだけっだった


「カタノちゃんはさなに希望なの?」

思ったような話の流れが作れなくてまたしても軌道修正

「ええと 一応、ギター です」

「え! マジ! 超意外なんだけど」

本当に意外だった

中学の頃はほとんど人前に立つようなことなんてしてなかった彼女がバンド、それもギターをはじめようとするなんて…

彼女も変ろうとしてるんだなとそう思うと胸の奥が熱くなった

「あ、いやすみません」

更に俯いて彼女はそう言った


「なんで謝るの? かっこいいじゃん」

「あ、その 私ごときがギターやりたいなんて 未経験ですし 音痴だし」

「音痴は関係なくない?」

「すみません」

私の言葉に蚊帳ノちゃんは申し訳なさそうに答える

その姿はまるで誰かに言い訳するみたいで…


気が付いたら私は彼女の顔に触れていた

特に意味があったわけじゃない

「な、なんですか あ、いやすみません」

「いや 顔、ちっちゃいなーってさ いやちがうんだけどね」

なにをしてるんだ私は…と思いつつ咄嗟に誤魔化した

そして…

「私さ 結構、思ったこと口に出すから嫌な思いさせてたらごめん でもね私が言いたかったことはキミがギター弾くのが間違ってるとかおかしいとかじゃなくて ほんとに凄いなって思ったの 蚊帳ノちゃんていつも自分の席で本読んでるけどそんな大人しい子がこんなあたしみたいな人しかいないところに来たのってすごい勇気がいることだと思ったし それって今の自分から何かを変えようとしたってことでしょ だから私はキミを嗤わないしもし馬鹿にするやつがいたら本気で怒る だから その 諦めないで」

気が付いた時には言葉が溢れていた

あの時から伝えたかった言葉、ずっと言いたかった言葉が堰を切ったみたいに止まらなかった


「……」

全部言ったあと彼女は口ごもっていて

余計なことを言っちゃったかなって後悔して…

すぐにでもこの場所から逃げ出したい…そう思っていたそのとき…

あの子が入ってきた


『どうしてそんな顔するの?』

『どうしてその子にはそんな◆◆で話すの?』

『どうして私のことを◆◆くれないの?」


『どうして…私のことを×××の?』


水面に絵具を溢すみたいに


私の心の中をそんな●●が濁らせた




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