第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第七十四節
人はなんのために弱く生まれてくるのか?
私と彼女との不思議な交流はそれから何日か続いた
お互いに顔を合わせることはなく、私が保健室に行くとパーテーションが閉じていた
それから朝から夕方までアニメの話をして過ごした
月日は経って十二月…
「高校ってどこ行くとか決めた?」
私は何気なくそう尋ねた
中三の十二月、本来なら受験に向けた最後の追い込みが始まっている頃だけど当然のように私はまだ何もしていなかった
具体的な志望校も決めていないし、一応受験勉強ほしていたけど三年生になってほとんど授業に出ていないから学力に自信はなかった
でも…
「私は桜水を考えてて…」
パーテーションの向こうからの返答に私は少しだけ驚いた
馬鹿にしてたわけじゃないけど彼女も進路なんてまだ何も決まっていなんじゃないかってそう心のどこかで思ってた…
「そう、なんだ すごいねちゃんと考えてて」
「そんなこと、ない、です… ほんと最近、やっと決めたぐらいなので…」
心のどこかにうっすらと影が生まれた気がした
劣等感ってものかもしれない
今まで同じ速度で歩いてきたとそう勝手に思い込んでいた彼女において行かれるような
いつまでも過去のトラウマに取り残されて前に進めない自分への憤り
「あの…」
「…あ、ああ ごめん…」
そんなどうでも良いことを考えたせいで私は黙り込んでいたらしい
そんな私を心配するような声が薄い仕切りの向こうから聞こえた
「もしかして何か気に障るようなこと、言ってましたか? だとしたらすみません、私ってほんとに空気読めなくて…」
「そんなこと…ないから」
申し訳なさそうに謝罪する彼女の言葉をなんとか否定した
悪いのはこんなことを考える自分なんだ
そもそもこんな質問をしたのだって私だしそれに…
自分でも気が付いていなかった
二年生のあの頃から弱くなっていたことに
もうずっと前から精神的に限界だったことに
でも私自身が無自覚だったから…私は今この時まで
自分が泣いてることに気が付かなかった
「あれ、おかしいでしょ… なんでこんなところで泣いてんだろ…」
悲しい言なんてなかった、哀しいこともなかった
辛いこともつらいこともない
さっきまで彼女と話していてあんなにも楽しかったのに
それなのに急に自分だけ置いていかれるようなそんな気がしたから…
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、うん… ちょっと待って…」
必死に涙を止めようとするけど止まらない
それどころか胸の奥が冷えてそれと対をなすように目元が熱くなっていった
次第に顔全体が濡れ始めてどこからなにが出ているのかさえ分からなくなっていく
「えっと… その…」
「ごめん…」
荒くなる呼吸を悟られないようにするので精一杯で上手く言葉が出てこなかった
自分でもわけの分からない感情の濁流に押しつぶされそうになって
いや、もうその波に流されてしまっていて…
どうすることもできないからベットの中で蹲った
できるだけ声が洩れないように
彼女に迷惑をかけないように
これ以上、おいていかれないように
でも保健室のパーテーションなんてただの薄い仕切りでしかなかった
でもその薄い仕切りだったからこそ
その温かい手が私の手をそっと包んでくれたんだ




