表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
128/178

第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第七十三節

鳥籠の中にだって空はある


その先、その果てにある景色を見つけるには


自分から羽ばたかないといけないだけでね…


時計の針は少しだけ進んで十一月、私の生活は変っていない

朝起きて、学校に行って、保健室に逃げ込んで、それから…なにもしない

気が付いた時には文化祭も音楽祭も終わってた

自分のクラスの順位も分からなかったし興味もなかった

伴奏で一位だったのが笹川さんだったって話しは噂で聞いたけど…

無気力なまま時間だけが過ぎていって目前には高校受験、不安ばかりが募っていく


「…失礼します」

いつも通り保健室に入ったけど先生は居なかった

「そういえば、今日は就学旅行なんだっけ…」

二年生の修学旅行、三泊四日のそれに保健室の先生も同行することになっている

事前にベットは適当に使っていいって言われていたからいつも通りベットに潜る

けどその日は隣のパーテーションが閉まっていた

違う… ここ最近、ベットはもう一つ埋まっていた

三つあるうちの一番窓側、けどその日は真ん中のベットはが埋まっている

気になって窓側のベットを見てみる

特におかしな所はなくて試しに腰をおろすとベットが大きく傾きかけた

「うわっ…」

思わず声が洩れる

どうやら片側の足が壊れて不安定になってるみたいだった

静かな保健室の中に私の声は思ったよりも響いていて…

「そこのベット、壊れてますよ」

「あ、えと、すみません 起こしてしまって…」

パーテーション越しに聞こえた声にそう答えた

「いえ、私も寝てたわけではないので…」

「そう、ですか…」

冷たいくて氷みたいな声に驚きつつそのままベットに入る


「いつも来てる方、ですよね?」

「え?」

唐突にささやかれたその言葉に驚く

どうして?と私が聞き返す前にその声の主は言った

「すみません、声がいつもここに来てる方と同じだと思ったので」

「まあ、そう、ですけど… でもどうして?」

「なんとなく、気まぐれです 普段は声なんてかけないですけど同じような気がしたので」

淡々と感情もなく話すその声はしかし女の子だってすぐに分かった

「同じって… 私とあなたが?」

「気を悪くしたならすみません、ただ教室に居場所がないのかなって… 私はそうなので」

最後のほうは聞き取れるかどうか微妙だったけれどたしかにそう言っていた


「私も…似たような感じ…」

パーテーション越しの声に私は答えた

「…」

僅かな沈黙けどその空白がどうしても気持ち悪くて… 私は聞いてしまった

「どうして、居場所がないの…?」

「…」

返事はない

というか言ったあとすぐに気が付いたけどだいぶ踏み込んだ話題だったなと思ってしまう

「ごめん 答えにくいよね…」

「……から」

「…あ、えっと」

「……よくない噂、みたいなのが流れて…それで…」

静かに呟かれたその言葉が耳に届く

自分と似たような理由であることに驚いた

「そう、なんだ 私もそんな感じ」

「…」


「あのさ、いつもここで寝てるの?」

話し始めた以上、沈黙が生まれることに怯えてしまう

それなのに距離の縮め方も話題の振り方も分からなくて変なことを聞いてしまった

「まあ、その 寝てます」

「そう…だよね…」

会話が続くわけもなく今度こそここで話しは終わってしまう… そのはずだった

「でも、ベット硬くて… あんまりよくは寝れないかも…です」

「あ、うん それは私も思った… 保健室のベットだからしょうがない気もするけど…」

意外な返答だったけど向こうから話してくれたことを素直に嬉しく思った

「そう、ですよね」

「学校、来るの辛くない?」

「たしかに辛いですけど… ちょっとと特殊な事情で家に居場所とかなくて…」

「そっか… でもされなのに学校くるなんて偉いね」

心からの賞賛、けどもしかしたらそれは私が誰かに言ってほしかった言葉なのかもしれない…

そう思いながら体勢を変えると今度は正面から言葉が届いた


「すごいなんて…そんな 私はただ逃げてるだけなので…」

「でも逃げることだって大事だと思うけど」

なんとなく彼女の言った『逃げる』という言葉を否定してはいけない気がした

たぶん私にも逃げている自覚があるから

そして彼女が私と似ていたから…なんだと思う

「そう、なんでしょうか」

「分からない…けど『自分じゃどうにもならないって分かっているのに逃げないで立ち向かうのはただの自殺行為』、なんじゃないかな?」


思わず口に出たのはハマってるアニメで使われたセリフだった

そのセリフをはじめてきいた時は『立ち向かうのは勇気では?』と思っていたけど違った

本当にこのセリフで伝えたかったのは『勇気』と『無謀』は違うということ

自分の実力を過信せず弱くてもそれに劣等感を抱いても自暴自棄にならずちゃんと自分で考えて、自分の意思で次に繋がる選択や答えを導き出さないといけないそんな意味が込められていた

アニメのセリフをそのまま使ったのは若干、厨二感があるけど…

どうせ深夜帯のアニメだし知ってる人は少ないだろうとそう思ってたんだけど…


「クライマギナ…」

「えっ?」

突然、そのアニメのタイトルが聞こえてきて驚いた

「今のってクライマギナの… すみません、忘れてください」

「あ、ううん その、続けて」

彼女が途中でやめたその言葉の続きが気になってしまった

だから急かすようにそう言った

「あの… クライマギナ… さっきのセリフって七話で敵の小隊を一人で引き受けようとしたアスナにキリヤさんが言った言葉…ですか?」

「あ、うん… 知ってるの?」

「まあ、はい… クライシス作品は大体のシリーズ追ってて、今回のクライマギナは戦闘描写がだいぶ機械的でSFらしくないですけどロボットアニメなのに女の子が主人公だったり適度な百合要素もあって好きです…」

「ガチじゃん…」

早口に語られたその言葉はさっきまでの冷たい感じはまるでなくて、それどころかこっちが少し引いてしまうぐらいの熱量だった

今までこんな風に話しができる相手なんてどこにもいなくて…

彼女との出会いは私にとって運命のように感じた…だから

「すみません…なんか色々話してしまって…」

「誰が好きなの?」

彼女の返答を待たず自然と次の話題を振っていた


「あの… えっと… キララちゃんとか…」

「あーそっちかー 私はオルカ・イシューなんだけど…」

「あ、キリヤさんの元後輩で恋人だった人ですよね、今は革命軍東軍の軍隊長でキララちゃんたち解放軍やアスナたち公国軍と敵対してるけどアスナがピンチの時には手を貸してくれたり… 七話から八話でのコロニー防衛戦で封印機体だったライノールに搭乗したときは最高でした…」

「やばい、めっちゃわかる」

今までにないぐらい会話が弾んだ

ストーリーの展開についてや考察、キャラクターの裏話まで私が知らなかったことまで彼女はなんでも知っていた


「でもあのときキリヤが止めてなかったらアスナ一人で全部倒してたんじゃないの?」

「たしかにハーゲンティの暴走まかせなら勝てたと思います けどその場合、事前に革命軍と結んでいた無血規定に抵触してまた別の戦闘になりかねないというのをキリヤさんは分かっていたんだと思います」

お互いに時間なんて忘れてアニメの話しばかりしていた

そのおかげかは分からないけど彼女と話している間は波のように押し寄せる不安も凪みだいに落ち着いていた


「あ、もうこんな時間…」

「そういえば、お昼も食べてなかったんだっけ…」

壁にかけられた時計を見るともうすでに午後一時を回っていた

本当に時間なんて忘れてお昼ごはんすら食べてなかったなんて…

「すみません、私はそろそろ帰らないとなので…」

「そうなの!?」

「この後、病院に行く予定で…」

どこか申し訳なさそうなその声に私は大丈夫、気にしないでとだけ伝えた

「また、明日も来る?」

「たぶん、来ます…」

「そっか じゃあまた明日…」

はじめて誰かと別れるのが名残惜しいと感じた

自分でもそんな風に感じたことに驚きつつ彼女に悟られないように言った

「また、明日…」

呟くように、溢すように彼女はそう言って保健室を後にした

  

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ