第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第七十一節
人が最も残酷になるとき、それは正義という名前の狂気を手にしたときだろう
その正義を形作る真実が嘘で覆われていたとして誰がその正義の責任を負うのだろうか
「また学校に来てるよ…」
「ほんと、よく登校できるよね…」
「俺たちのこと裏切ってたくせに…」
「どうせ自分だけ目立てればいいとか思ってたんでしょ…」
「早く消えてよ ていうか目障りだから死んでほしいんだけど」
「てかさ… 自殺とかしてくれねーかな? そのほうがおもしろいじゃん?」
そんな言葉が耳元に流れてくる
学校にいる間は聞こえるか聞こえないかそのギリギリぐらいの声で悪口を言われた
もう、その言葉が現実なのか幻覚なのか、その区別さえつかなくなっていた
具体的にどれぐらいの期間、それが続いたのかは分からない
少なくともあれから一か月はこの状況が続いていた
「なあ」
「…」
ある日の英語の授業、その途中で後ろの席の男子に声をかけられた
「これ、前の奴に回してくれないか?」
「…」
無言でその髪を受け取った
中が見えないように綺麗に折りたたまれている
女子の間ではやっている手紙の折り方だった
「仲は見ないでくれよ」
「…」
私は終始無言のまま前の席の子にその手紙を渡した
授業中の手紙の交換は最近、このクラスではやっている遊びみたいなものだった
先生にバレにように手紙を回す、それ自体は昔からある行為でやったことがある人も多いだろう
実際、私も小学生の頃は仲の良い友達とよくやっていた
でも今は違う
教室中で飛び交うその手紙は私を経由することはあっても私の手元で開かれることはなかった
私以外のクラスメートは手紙を受け取ると中を確認してすぐに次の人に回している
『中は見るな』やむをえず私を経由して手紙のやりとりがある時は必ずそう言われた
中身なんて気にならなかったし今更、仲間外れにされてることに何も感じなかった
それなのに… その日の私は渡された手紙を開いてしまった
『ほんと小林なんなんだよ 自分が目立ちたいから伴奏やってそれで俺らの練習バカにしてたとか…』
『それなー てかお前のピアノこそへたくそだっつーの』
『あれでコンクール優勝とかやっぱ親?のコネなんじゃね?』
「なに…これ…」
そこに書かれていたのは自分への悪口…違う、そうだけどそうじゃなかった
音楽祭での伴奏は私が目立ちたいから引き受けただけ
みんなの練習を裏でバカにしていた
笹川さんの指揮をバカにしてた
笹川さんをいじめてた…
なにひとつ見に覚えのないことが書かれている
練習をバカにしたことなんてないし伴奏を引き受けたのも先生からの推薦があったから
それなのに…
まるで真実が嘘で書き換えられるみたいに小林真凛という人間の言動が塗り替わっていた
「あーあ ばれちゃったか…」
教室のどこからかそんな声が聞こえた
他の誰も反応してないからもしかしたら幻聴なのかもしれない
でも…手のひらの上に残された手紙にははっきりと悪意の籠った文字が残されている
何もかも嘘だと夢か幻覚んだとそう否定したいのに…
目の前にある状況証拠も物的証拠でさえもこれが現実だと肯定している
『死ね』
手紙の端に記された小さなその文字に気が付いた時、私の心はついに限界を迎えた
「…うっ …っおぇ」
眩暈と吐き気がして急いでトイレに行こうと立ち上がったその時
私はその場に吐瀉物を撒き散らした
「うわっ マジかよ…」
「ほんとなんなの…」
「マジで迷惑…」
そんな言葉が聞こえてくる
大勢の前で醜態を晒してしまった私は口元を拭うことすら忘れて泣き出してしまう
「…ごめんなさい」
ざわつきは消えなかった
「…ごめんなさい …だから…ない…で」
好奇の目が私を刺した
「…ごめん…なさい お願い…だから…見ない…で…」
その言葉は誰にも届かなかった




