第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第六十九∓69.5節
その旋律は運命を変えた
「私が…手を抜いてる?」
その言葉の意味が上手く租借できなくてそのままぼ音で聞き返した
「あの…すみませんそういうつもりじゃないんですが なんていうか小林さんなら今の私たちのクラスが良くない状況ってこと分かってる気がして…」
「…」
彼女の言っていることは概ね合っていた
今のままだと音楽祭で優勝どころか三位以内にも入れないそう感じていた、それでも練習中になにも意見を出さなかったのは…
「音楽って誰かと競うものじゃないでしょ?」
「それは…そうかもしれませんけど…」
「クラスのみんな、練習の時も楽しそうで… 絶対に優勝するぞとか言ってたけどほんとはそこまで勝ちにこだわってないんじゃない?」
『音楽に優劣はない』それは自分にとって憧れであり最も尊敬するピアニストである叔父の言葉だった
今までもこれからも真凛にとって音楽という存在の在り方は変わらない
そしてそれが誰にとっても正しいものなのだとそう思っている
「それに私なんてただピアノ弾いてるだけだからなに言ってもウザがられるだけだよ」
「弾いてるだけ…ですか」
「そうそう こういうのはちゃんとやってる人が言わないと… 意味がないんだよ」
私にとってピアノを弾くのは息をすることや何かを食べること、目を閉じて眠ることと変らない『あたりまえ』のことだった
もちろん伴奏を引き受けた以上、ちゃんと練習もしてる
けどそれは伴奏を任されたとか自分から引き受けたとか関係なく『あたりまえ』のこと
私はただ『あたりまえ』のことしかやっていない
そんな私が音楽祭のために努力しているみんなに口出しするなんておこがましいにもほどがあるってそう思った
だから私は間違えた… いや間違えていたんだ
自分を信じて疑わなかった 誰かの考えや教えを自分のものと偽った
相手の立場になって考えたことなんて一度もなかった
だから私は…
彼女の陰りに気づくことができなかった
「そう…ですね 私達にこんなこという資格、ないですよね…」
この日以来、私は彼女(詞姫)と話すことは一度もなかった
結論から話すと私達のクラスは音楽祭で優勝できなかった
順位は七クラス中六位…
正直、妥当な順位だったと思う
私が笹川さんと話したあの日以降もクラスの練習状況は変わらず途中から何人かの生徒は諦めムードになっていたのだから無理もない
けど伴奏と指揮は学年で一位と三位になったので最下位という最悪の結果は免れた
音楽祭が終わった直後は実行委員を中心に泣いている子も多かったけどその空気感にはついていけなかった
そんな感じで音楽祭は幕を閉じたわけだけど今思うとこれが全ての始まりだったんだろう
一週間後、私へのいじめが始まった
69.5
私にとってピアノは人生そのものだった
コンクールでいい成績を納めるのが『当たり前』、そうでなければ私に存在価値はない
それなのにピアノを辞めたのは諦めたのは彼女がいたからだ
神童、現代のモーツァルトとまで噂された少女、叔父が有名なピアニストらしくどうせただの七光りだろうと高をくくっていた
それなのに…違った
彼女はまさしく天才だった
同じ年齢で同じ舞台で戦っても到底、勝つことなど無理な相手…
妬みや嫉妬よりもあの頃は尊敬が勝っていたと思う
彼女の演奏はそれぐらい魅力的だったから
それなのに…
「あの…」
声をかけられる
振り返ると同じクラスの〇〇がいた
「なに?」
「少しお話、いいでしょうか?」
「忙しいんだけど」
おどおどした態度で鬱陶しいから構わないことにした
もとからあまり好感の持てるタイプじゃないってのもある (アレを思い出すから)
速足で立ち去ろうとするけれど〇〇は囁くように言った
「小林真凛、彼女のことどう思いますか?」
足が止まる
それ以上先に進めなかった
まるで頭の中を除かれているみたいな気持ち悪さがあった
「どうって なにが?}
「彼女のこと好きですか? 嫌いですか?」
「別に気にもとめてないけど?」
あくまでただのクラスメートでしかないとその質問自体に興味がないとはぐらかした
けれど彼女には全てお見通しだったらしい
「好きだけど嫌いなんですね」
「…なにが言いたいの?」
本当に最悪…なんていうか生理的嫌悪感を感じる
それもこれも全部アイツらのせいだ…
「気を悪くさせてしまったのならすみません… ただその…」
「だからなに?」
もじもじと本題に入らないからついに怒鳴ってしまった
静かな廊下に響いた声が想像より大きくて思わず口元に手をあてた
「……」
「すみません… その…」
彼女は大きく息を吸って吐いた
それを何度か繰り返してからようやく言葉を口にした
「小林真凛に…復讐…しませんか?」
「は?}
これが私の始まり
人生において二度目となるいじめの加害者
そんな私の次なるターゲットに選ばれたのが小林真凛だった…




