表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
121/177

第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第六十七節

始まりは何気ない一言だった気がする


あの時から私は何もかも間違ていたんだ

『小林真凛が実は陰キャだった』なんて言ったらどれくらいの人が信じるだろうか?

恐らく今の彼女を知る人は誰も信じないだろう

それぐらい真凛は見た目も性格も何もかもが陽キャそのものだ

じゃあどうして真凛は陽キャになったのか?(なれたのか?)その理由を観るとしよう

これは小林真凛の夢であり彼女が実際に体験した過去のおはなし


 小林真凛は比較的裕福な家庭に生まれた

父は高校教師、母は介護施設で働いていたが真凛が生まれえると同時に退職した

父方の祖父は元自衛隊員、叔父は税理士と極めて優秀な家系

そしてもう一人の叔父は天才ピアニストである小林成実こばやしせいじである

真凛自身も幼いころから音楽を中心に多くの英才教育を受け、なに不自由なく伸び伸びと成長した

なによりピアノの才能は秀でており小学生の頃から多くのコンクールで優勝していた

そんな彼女にとってはじめて転機が訪れたのは中学二年の音楽祭、そのピアノの伴奏を任されたところだった


「私がピアノですか?」

教務室(職員室)に呼び出された真凛は担任から言われたその言葉に目を丸くした

「ええ 十月にある音楽祭で小林さんに伴奏をお願いしたいのだけれどどうかしら?」

「その… 私なんかじゃ… 部活とかもありますし…」

渡されたプリントを強く握った

音楽祭は文化祭の前日に行なわれる合唱コンクールのことだ

真凛が通う中学は県内屈指のマンモス校で全校生徒は千人近く在籍し、各学年七クラスは存在する

音楽祭は体育祭、文化祭と並ぶ一大イベントでどのクラスも優勝を目指して練習を行なう

特に伴奏と指揮を務める生徒の責任は重大で必然的にクラスのリーダー的な役割までさせられるのだ

吹奏楽部に在籍しパートリーダーまでやっている真凛にとってそんな大役までするのは荷が重すぎた


「もちろん無理にとは言わないし小林さんの自由だけど…」

「すみません せっかくですが…」

「内申点にも多少はプラスにはたらくと思うのだけど」

内申点という言葉に真凛は反応した

正直、内申点は重要だ

父や叔父と違って勉強の才能がない真凛にとって高校受験は大きな壁として待ち構えている

けど内申点の高さは推薦や私立高校の併願受験、それ以外にもあるに越したことはない

思考が揺れる


「あ、真凛! 教務室呼ばれるなんてどったの?」

「ああ、うん… ちょっとね」

部活に戻ると同じ吹奏楽部の安斎知夏あんざいちなつに声をかけられた

結局、すぐには答えがだせなくて考える時間をもらうことになった

「なんだよー アタシと真凛の仲じゃんか」

「うう… それがさー」

それから知夏に音楽祭の伴奏を勧められたことを話した

やや人見知りで消極的な面がある真凛にとって知夏は中学に入ってはじめてできた友達だ

クラスも違うしただ同じ部活に入っているというだけの接点なのに自分のことを気にかけてくれる

だから知夏にならなんでも話すことができた

「伴奏に選ばれた!?」

「うん… まだ決まりじゃないけど…」

「うんうん 真凛なら選ばれるかなーとは思ってたんだよねー」

知夏は腕を組みながら頷いている

「え、いや わたしなんてそんな…」

「いやいやなにをおっしゃいます だってピアノのコンクールで優勝してんでしょ!?」

「それは… 昔の話だし…」

知夏はそんなことないと迫ってきた(近い…)

たしかに知夏の言う通りそこそこ大きなピアノのコンクールで優勝したことはある

だけどそれは小学生の頃の話だし中学で吹奏楽部に入ってからはピアノを弾く機会も減っていった

「でもさ内申点も稼げるんでしょ? ならややるべきでしょ!?」

「そう… なんだけど…」

内申点とか関係なくやらない理由なんてないはずだ

だって人に頼られた、必要とされたのだから…


それから部活中もずっと考えたけど答えは出なかった

下校時間になって後片付けを済ませて音楽室を出た

「きゃっ」

「うわっ」

考え込んだままとぼとぼと歩いていたら階段を降りた先で誰かとぶつかった

「ごめんさい! 大丈夫ですか?」

「えと こっちこそごめん…」

ぶつかった相手は手に持ったノートを地面にバラまいている

けど地面に散らばったソレに目もくれず必死に謝っている

「ほんとにごめんんさい! 私、ほんとドジで…」

「いいよ ほんと大丈夫だから それよりノート拾うの手伝うよ」

「あわわ ありがとうございます!」

地面に額が付く勢いで頭を下げながらノートを拾っている

まるで小動物みたいな小さくてかわいらしい女の子だ

彼女に目を奪われそうになりつつも拾ったノートを見つめた


「最上…さん?」

「あ、えと… そのノートは友達ので… 私、ゆうき…結城彩羽ゆうきいろはっていいます…」

拾ったノートの名前を呼んでみたら違った

結城彩羽、そう名乗った少女は全てのノートを拾い集めると立ち上がった

「あの…ほんとにありがとうございました ぶつかったのは私なのに…」

「いや、ぶつかったのはお互い様だし… ていうかノート多いね」

謝る姿を見てるとなんだかかわいそうに思えてきてなんとか話題を変えようとした

すると胸に抱いたノートの束に視線を落として彩羽は言う

「その… これは私のじゃなくて これから先生の所に持っていくもので…」

「教務室に持ってくの? 一人で?」

一人で持っていくには多すぎるノートの束に少しだけ驚きながら真凛は聞き返した

「はい… ほんとはその… 友達が手伝ってくれてたんですけど 今、トイレに行ってて

でも下校時間のチャイムが鳴ったので 怒られると思って…」

「それで一人で持ってこうとしたんだ…」

「はい…」

彩羽の回答に頷きつつもどうしたものかと悩む

このまま彩羽を無視するのはなんとなく気が引けるし…


ノートの束を抱えて歩き出した彩羽に声をかけようとしたら後ろから足音が聞こえた

自分の背中を追い越したその人影は彩羽に近づくと声をかけた

そして彼女からノートの束を受け取ると並んで歩き始めた

「友達と会えたんだね それじゃ私は帰るから…」

すれ違いざまに声をかける

隣に立っていた少女はこちらを睨みつけた

「誰?」

「あ、えと…」

特別目つきが悪いわけじゃないむしろ普通にしていればかわいらしいはずのその少女の眼光はしかし鋭く、謎の威圧感があった

「その 私がぶつかって… それでノートを拾うのを手伝ってくれたんだよ」

「…」

隣の少女は何も言わずに立ったままだ

「じゃあ そういうことだから…」

空気が重くていたたまれなくなった私は足早にその場を去ろうとした


「彩羽のこと 助けてくれて ありがとう」


「へ?」


そんな言葉が聞こえたような気がして振り返るけど二人はもういなくなっていた


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ