第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第六十五節
心からの賞賛と心にもない軽蔑
アンプの微調整とチューニングをする
さっきの一言で変なスイッチが入ったのか大倉くんはやる気満々だ
私はというとメイリンちゃんに聞かれて恥ずかしくないようにせめて楽器の状態は万全にしようと微調整を行なう
天城くんはゆるんだハイハットのネジを閉めたりシンバルの角度を確認していた
綾乃はスマホで歌詞を確認している
真凛は目を閉じたまま動かなかった
それぞれがそれぞれの意思で演奏に向き合うみたいに感じる
そして綾乃の合図と共に演奏が始まった
音が止まる
それぞれの呼吸の音がかすかに聞こえる空間に小さな拍手が響いた
「すごいです! これが蓬たちのライブなんですね!」
目を輝かせながらメイリンちゃんが言った
「ありがとう メイリンちゃんにそう言ってもらえるとちょっとだけ自信でたかも…」
そんなふうに言ってもらえてはじめて自分の演奏に自信が持てた気がした
「綾乃の歌も良かったですヨ!」
「うん ありがとう でもメイリンちゃんに比べたらまだまだじゃないかな?」
珍しく自信なさそうに綾乃が呟く
それを聞いたメイリンちゃんは綾乃の手をとって言った
「そんなことないです! 綾乃の歌はステキで心がトキメキまシタ! 他の誰よりも良いってメイリンが保障します!」
「う、うん ありがとう…」
メイリンちゃんの気迫に綾乃が若干引いている
でもメイリンちゃんの言葉がお世辞や冗談じゃないことは伝わってくるし綾乃も褒められたことには嬉しそうだった
私たちが話している側で片付けをはじめていた天城くんはメイリンちゃんに近づくと
「ちなみに俺らは?」
大倉くんのほうを手で示しながらそう言った
メイリンちゃんはしばらく考え込んでいる
それから
「ええと天城君?のドラムは迫力がすごかったデス! あとベースは…良く分からなかったです…」
そう言ってメイリンちゃんは申し訳なそうに大倉くんを見つめている
また大倉くんが怒るんじゃないかとヒヤッとしたけど彼はメイリンちゃんのことを見ると
「そうか…」
とだけ呟いた
「そういえばもうこんな時間! 急いで片づけないと…」
「ほんとだ とりあえずギター置いてくるね」
時計を見るといよいよ帰らないとマズイ時間になっていた
私はギターを準備室に片づけると綾乃たちと一緒に机をもとの位置に戻し始めた
「それで? ワタシにはなにも無いわけ?」
「感想ですか? それなら『何もない』が答えですよ」
周りに聞こえないほどの小さな声とため息まじりにメイリンは言った
「なにそれ?」
「あなたなら言わなくても分かると思ったんですが…」
今度は大きなため息と共に彼女は言った
「まったく弾いてすらいないのに感想なんて言えるわけないじゃないですか…」
「……」
なにも言い返せなかった
そもそも反論する気すらなかったのかもしれない
だってそのことは… 自分でも理解していたから
「そんな調子でよくも私に勝負を持ちかけたものです」
「……」
彼女の言葉からは怒りというよりも呆れに誓い感情が溢れていた
「本当に何も言い返さないんですね」
「なにをいっても無駄だから…」
「そうですか なら最後に一つだけ…」
擦れ違い、蓬たちのほうに向かう彼女は耳元に囁く
「あなた、始めから負ける気で挑みましたネ?」
その言葉があまりにも真理を突いていたから
今度こそ本当に心の声でさえ黙ってしまった




