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第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第六十四節

雨の音 別れの匂い 紫陽花の◇

次の日からライブに向けた練習が始まった

演奏する曲は前回のライブで演奏した曲ともう一つ…

「龍弥、ここのリズムってこれであってる?」

「リズムは合ってるが少し早いな テンポに余裕を持たせたほうがいい」

「オーケー」

そういうと天城くんはさっきと同じフレーズを少しだけゆっくりと叩いた

それを聞いた大倉くんは無言で頷く

「あの… 私も ここの譜面なんだけど…」

「そこはチョーギングだ 弦を押し上げるようにして弾く」

「こう…かな」

言われた通りに三弦を押し上げてみる

初めてだからか綺麗な音は鳴らなかったけど大倉くんはもう少し強く押さえたほうが音が安定するとだけ言って綾乃のほうに向かった

「朝霧は何かあるか?」

「私は大丈夫だよ でも龍弥からみてどう? 歌い方とかおかしくない?」

「さあな 技術面では悪くないとしか言えない 表現とかそういうのは小林に聞いたほうが早いだろ」

そう言って大倉くんはキーボードの前に立った真凛のほうを指さした

「そんなこと言われてもワタシにだってわかんないよ その曲、あんたが作ったんでしょ?」

「何度も言ってるが作ったのは俺じゃない ただネットにも上がってないだけだ」


私たちが次のライブで演奏するもう一つの曲…

それは大倉くんが選んで用意した曲だった

『annotator』譜面と音源の入ったファイルにはそう書かれていた

一体どこでこの曲を用意したのか誰が作った曲なのかなにひとつ大倉くんは教えてくれなかった

(もしかしたら大倉くんも分からないのかもしれないけど…)

ただ曲自体はすごくよくてたぶん恋愛について書かれているだろう歌詞も良かった

失恋と別れを連想させながら再び前を向こうという感じの歌詞

ありきたりのようで言葉の選び方が秀逸なまるで文学作品のようなイメージ

聞いた瞬間、満場一致でこの曲に決まったのだけれどただ一つ、問題があった

それは楽譜も歌詞も最後だけまだ未完成だったことだ


「んで最後のほうはどうするか決まった?」

「まだ考えてる途中だ部分的なアレンジぐらいなら俺にもできるが作詞はな…」

休憩中、天城くんと大倉くんの二人はそんな話しをしていた

「なるほどねー たしかに龍弥は作詞ってガラでもないか」

「そういうお前はどうなんだ?」

「できたらやってるさ まあこの中でやるなら朝霧さんか蚊帳ノ参じゃない?」


急に名前を呼ばれて私は飛びのいた

「私!? 普通にムリなんですが!?」

「朝霧さんは?」

「私も自信ないかな… 真凛はどう?」

天城くんのムチャぶりをサラっと躱しつつ真凛にパスを出した

意外と綾乃も狡猾だなと思いつつもこれで真凛が引き受けてくれたらなと期待してしまう

しかし

「ワタシもパス 他にやることあるし それより蓬がいいんじゃない? 中学の頃文芸部だったし」

「え!?」

「そうなんだ ならやっぱ蚊帳ノさんが適任みたいだね」

「あ、えと…」

思わぬ真凛からの流れフレンドリーファイアってやつかなで続きの歌詞を書くことになってしまったのだった…


(そういえば真凛に文芸部だったって話したことあったんだっけ?)


休憩も終わり私たちは練習を再開した

それまでの個人でのパート練習や確認ではなくバンドとして合わせての練習だ

前回やった曲はそれぞれの技術が向上したおかげかライブの時よりもだいぶ良くなってた

『annotator』についてはまだできてないところも多くて音もバラバラだった

そしてなにより真凛はまともに弾けていない様子だった

練習中もなにか考え込んでるみたいで上の空だしいつもと違って口数も少ない

それと気のせいかもだけど朝から一人称が『アタシ』から『ワタシ』になってる

まるで何かを演じてるみたいに…


「なあ」

大倉くんが何かを言いかけたその時だった

音楽室の扉が開きまるで図ったかのように彼女は飛び込んできた

「呼ばれてないけど来ちゃいマシタ! 蓬のフィアンセ、ユゥ・メイリンです!」

太陽みたいな明るさの笑顔を私は直視できなくて顔を逸らした

一方で綾乃はメイリンちゃんが来たことに喜んでるみたいだったし天城くんは特に気にもとめていない様子だった(意外とドライ)

一番心配だった大倉くんはというと顔wしかめつつも特に何も言わなかった

「蓬~ 練習があるとはいえ一緒にいられないのは寂しいデス」

「あ、そのごめん…」

当然のように私の腕に抱きつくメイリンちゃん

まだ会って数日しか経っていないのに毎日こんな感じなので慣れてしまってた

「それとメイリンが蓬のフィアンセってこと否定しなかったのはウレシイです」

「それは違うからね!?」

突然の登場にツッコむのが遅れたけど私とメイリンちゃんはそういう関係ではないのだ

「なんでアンタがここにいるの?」

それまで黙っていた真凛がやっと口を開いた

「おや あなたもいたんですネ」

「そりゃいるに決まってるでしょ」

どこかトゲのある二人の会話、まさに一触即発といった感じだ

「まあまあ二人とももうすぐライブなんだから仲良くしよう、ね?」

「もちろんメイリンは仲良くしますヨ」

二人の間に入った綾乃にメイリンちゃんは笑顔で答えた

その裏でなにを考えているのかまるで探らせないほど完璧な笑顔だ

それをみると改めてメイリンちゃんが役者さんであることを分からされる


「ていってももうすぐ帰らないと電車間に合わないし一回だけ合わせて解散したほうがいいんじゃない?」

時計を指さして天城くんは言った

たしかに思っていた以上に時計の針は進んでいた

後片付けや音楽室の鍵の返却まで考えると残された時間は一度だけ合わせられるぐらい

綾乃もそうだねと頷いてマイクの前に移動した

「それじゃあ最後に一曲だけ合わせて…」

「その前に、やるなら一曲目のほうだ『annotator』は対バンでの切り札になる対バン相手になる転校生がいる状況でやるわけにはいかないだろ」

綾乃の言葉に重ねるみたいに大倉くんは言った

メイリンちゃんを気にしたのか綾乃が口ごもっているとメイリンちゃんは

「ダイジョウブですよ そちらにとってその曲が切り札なら敵であるメイリンに見せる必要はありマセン」

自分は気にしないそんなニュアンスでメイリンちゃんは言った


それから彼女は一言、それにと付け加えて言った


「小細工程度デハ負けませんから」



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