第三章 コミュ障陰キャぼっちでもライブはできますか? 第六十節
落とした影を拾う者とは
月曜日、ただでさえ憂鬱な曜日だけどその日は普段以上に憂鬱だった
メイリンちゃんとの婚約騒動、それ自体は一旦落ち着いた
けれど私のことを探しに来てくれた真凛や心配してくれていただろう綾乃達とはちゃんと話しができていないままだった
学校に来るまでの電車でも真凛とは会わなかったし他のみんなとの連絡もとりあえず無事を伝えただけで…
学校で何か言われるんじゃないか? もしかしたらもうバンドには自分の居場所が亡くなっているかもしれない…そんな不安で頭の中が埋め尽くされていった
電車を降りて重い足取りで学校に向かうせめて朝のHRギリギリに教室に入ろうかとせめてもの抵抗をすることを選んだけど
「おはよー てかよもちなにぼーっとしてんの?」
しかしそれ絵裏も打ち砕かれた
「あ、えと 宇佐美さん!?」
振り返るとそこにはクラスメートで真凛の友達の宇佐美さんが立っていた
いちも彼女は遅刻ギリギリなんだけど今日に鍵って早く学校に来ていた
「なーに驚いてんのさ そんなにあーしがいるのがマズいの? あのテンコーセーちゃんに怒られるとか?」
「そういうのじゃないですけど…」
まるでゴシップを掴んだ探偵みたいに宇佐美さんは迫ってきた
それを全力で否定する気力すら持てなくて私は力なく呟いた
それをきいた彼女は顎に手をあてながらしばらく考えこんで言った
「その反応… どっちだ…」
「あ、えと…」
「うーん 反応的にはガチっぽいけど。あーしの女の勘がそれを否定してる…」
「あの?」
宇佐美さんはまだ勘ぐってるみたいだけどちゃんと説明しないと
私とメイリンちゃんが結婚するなんて噂がもしも校内に広まればメイリンちゃんに迷惑がかかる(彼女にとっては好都合かもだけど)
「でもまさかあの楠杏奈の娘がテンコーセーだったなんてなー」
「それってどういう…」
ドラマや映画をあまり見ない私にも分かる名前に驚いた
というかその娘が転校生とはいったい…
私が困惑していると驚いた表情で佐藤さんは聞き返した
「もしかしてよもちってあの子の正体、まだ知らなかったりする?」
「あ、うん 一応、詳しくは知らない…かな…」
宇佐美さんの表情はそれから驚きや困惑、疑心を宿した表情に見えた(気がする)
「あーっと なんて説明したら良いんだろこれ…」
なにやら言いかけた言葉を飲み込んだらしい宇佐美さんはそれから押黙ってしまった
「あれ? 蓬ちゃん?」
教室の前で立ち止まっていると中から声をかけられた
私に話しかけた相手、この教室、この学年、もしかしたらこの学校を代表するかもしれない美少女、朝霧綾乃だった
「あ、その…おはよう」
「おはよう この間は大丈夫だった?」
「あ、うん 心配かけてごめん…」
心配そうに問いかける綾乃になんとかそう伝えた
ほんとはメイリンちゃんとのこととか真凛のこととか言いたいことも聞きたいこともたくさん会ったけれど上手く言葉にできなかった
「ううん 大丈夫だよ たしかに心配はしてたけどとりあえず蓬ちゃんが無事でよかった それにメイリンちゃんのこともあのまま蓬ちゃんが追いかけなかったらどうなってたかわらないし… だから、ありがとう」
ありがとうなんてそんなこと言ってもらえるようなこと私はしていない
むしろ勝手に行動したせいで迷惑をかけて心配させてしまった
そんな思いが言葉になろうとしたところで教室の外が騒がしくなった
野次馬のような人だかりができている
これまでの流れからその理由がなんとなく分かろうとしたところで歓声が一気に高まった
「おはようございマス」
野次馬をかき分けて教室に入った少女は誰にでも届くような声で言った
「お、おはようございます…」
教室の中の何人かが返事をした
彼女はまるでアイドルがファンサービスをするみたいに一人一人に声をかけている
それから私と綾乃のそばにやってきた彼女は他の生徒たちにするのと何ら変わりないように言った
「蓬、それに綾乃もおはようございます」
「あ、えと おはよう」
「おはようメイリンちゃん」
にっこりと微笑む彼女はまるで太陽のようにまぶしくて憂鬱に感じていた気持ちが楽になっていくような気がした
「メイリンちゃんちょっと聞いてもいいかな?」
「どうかシマしたか?」
「間違ってたらごめんね もしかしてメイリンちゃんてテレビに出てた?」
言葉を選ぶようにして恐る恐る綾乃が聞いた
しばらく沈黙が流れたそれに対してメイリンちゃんの答えは…
「ハイ! でてましたヨ!」
次の瞬間、教室中から歓声が巻き起こった




