あいつだったら、いいと思う⑤
『……筒井? 本当に?』
「なんだそれ。俺の偽物に会ったことあるのか、お前」
『はは。そういうんじゃないけど、びっくりしてさ。この前、俺が聞いてもそっけなかったのに、何で今日になって別の陸上部員を経由してまでアドレスを教えてくれる気になったんだ?』
「あのときは、必要性を感じなかっただけだ」
『なら、今は緊急を要してるってことだな。……何があった?』
携帯の向こうで、在里の声が真剣みを帯びる。つられたように、俺もそこで一度言葉をきり、小さく息を吐いた。
何かあったのは、お前のほうだろ。そう責め立てたくなる気持ちを抑え、俺は手短に用件だけを告げる。
「今からお前と会って話したい。どこにいる?」
『今から? 自宅近くの公園にいるけど』
「名前は」
『足高公園』
「……そこに、墓地は?」
『あるよ』
――足高公園墓地。
空狐とのおちゃらけたやり取りの中で、かろうじて得ることができた唯一の情報。ユキの母親だと思っていた女性が眠る墓地の名前が在里の口から出てくる。
単なる偶然とは、もう思えなかった。
***
足高公園へと向かうバスの中。後方の席を陣取った俺は、背負っていたデイパックを膝の上に抱えると即座に携帯を取り出した。ユキがもそりと顔を出すのを視界の隅で捉えながら、先程まで在里と連絡を取るために使っていたレインを再び立ち上げる。
送信先を変えて、僅かに震える指で文字を打っていく。在里に会うまでに、最後の確認をしたかった。
なにぶん、気まぐれなキツネなので、真面目に答えてくれるかどうかはわからないが。何かをして、気を紛らせたかったというのもあるのかもしれない。
『ユキのおかあさんは』
『ありさとそうまですか』
長い時間が過ぎる。いや、実際は一瞬だったのか。
やがて、世界の出来事のほとんどを知っているらしいカミサマのようなキツネの答えが――文字として、届く。
『おめでとう』
『がんばって』




