22話『鳴き声はコンじゃない』
遅れました。
タイトルでお分かりかと思いますが、狐の登場ですよ!
「……来る場所を間違えたか?」
いや、間違うも何もないのだが、場所が問題なのである。
「風俗街ってやつだよな……」
王都でもこういうもこのはあるらしい。というか、初めて見たので他は知らない。
建物も綺麗で、雰囲気が違うのを感じながら歩いていると、娼婦の女性から声をかけられた。
「そこのアナタ、どうかしら?」
チラッと、スカートを捲りながら誘惑してくる。服も露出が多くて扇情的だが、俺にはフィエナが居るのでお断りだ。
「残念だけど、用事があるんだ。」
「あら、残念だわ。せっかく可愛い子を見つけたのにー……」
その後も、やたらと誘惑されつつ進んで行った。だが、そこで穏やかとは思えない言葉が聞こえてくる。
「そっちに行ったぞ、追え!」
「ちょこまかと動き回りやがって……!」
なんだ?犯罪者の現場か?と、思いながら路地裏に目を向ける。
すると、
「くぁん!?」
俺に飛び込んできた黄金色の動物。
追いかけ回されていたのは、子狐でした。
「おい、坊主。その狐を渡せ。」
「……どうして、この子を追っていたんだ?それを教えてくれたら渡すよ。」
特に何も無いならいいが、もしも、この子狐を利用して悪さをするつもりなら、モフモフの味方になろう。
そして、終わったら森にでも帰してあげればいい。
「おい、いいから渡せ。死にたくないならな。……あの方の為に、早くしなければ……」
独り言のつもりで言ったらしいが、はっきり聞こえていた。どう考えても、ペットとして連れていくようには見えないので、抵抗させてもらおう。というか、理由を話せない時点で黒なのは分かっていた事だ。
「死にたくは無いが、この子も渡せないな。」
ぴょんと上に跳ぶ。
毎回空中戦闘に使っていたが、逃げるのに使わせてもらおうじゃないか。
「なっ!?あいつ飛んでるぞ!」
言葉のニュアンスで、浮遊してると勘違いされてるのが分かるが、教えるつもりはない。
そして、適当に宿とは反対の方向に進んでいく。そのまま戻ってしまうと、バレる可能性が高まるからだ。まあ、どうせ顔は知られているので遠くない内に来るとは思うが、少しでも時間稼ぎはしておきたい。
「この辺まで来れば問題ないよな。」
さっきまでは普通に帰ろうかと考えていたが、『空間魔法』の存在を思い出した。正確には転移の事を、だ。
俺達が泊まっている部屋、ベッドの目の前をイメージする。そして、転移と念じた直後、一瞬にして視界が切り替わった。
「……むにゃむにゃ……」
シエラがむにゃむにゃ言ってる。何か喋ろうとして口が動いているのだが、所詮は寝言なのでハッキリ喋れないのだろう。
そんな感じで、誰も起きていない様子。
俺と連れてきた子狐を生活魔法で綺麗にした後、俺が出た時のままのスペースに入り込む。
2人は寝相がいいようだ。
子狐はどうするのかと思ったら、俺とエニファの間に入っている。ここで寝るらしい。
娼婦やら妙な男達を見た事で精神的に疲れた俺は、すんなりと眠る事が出来た。
一応、当初の目的は達成だな。
☆
――ペロペロ
なにやら、首筋の擽ったい感覚と共に目覚めた。音的には舐められたとしか思えない。
「一体誰が……ああ、お前か。」
拾ってきた子狐だった。
懐かれたのだと思うが、普通に可愛いのでそのままにした。ペットを飼うとこんな感じになるのかもしれない。
ついでに、ステータスを見ておこう。
追いかけられていた理由が分かるかもしれないし、名前が分からないと子狐としか呼べないという問題がある。
『神眼』発動。
―――――――――――――――――――――
ステータス
名前:シャルロッテ
性別:女
種族:△狐
年齢:15
職業:****
レベル:8
HP ****
MP ****
STR ****
VIT ****
AGI ****
DEX ****
INT ****
【所持スキル一覧】
通常スキル
魔法スキル
武術スキル
ユニークスキル
耐性スキル
補正スキル
エクストラスキル
職業固有スキル
【称号】
―――――――――――――――――――――
一瞬画面に砂嵐が起こり、戻った時には変な表示に変わっていた。
神眼にもバグなんていうものがあるらしい。
まあ、名前がシャルロッテだったり、女の子で15歳というのが分かった。
……え?15歳?
どう見ても、子狐にしか見えない。もしかすると、狐は長命だったりするんだろうか。
だとすれば、言葉が理解出来る可能性も。
「シャルロッテ」
「!?」
反応は、した。
だが、この驚きようはなんだ?
更に、少し離れて警戒し始めたシャルロッテを見て考える。
名前を呼ばれて警戒する理由?
その名前を呼ぶのが嫌いな人だったり、嫌な思い出がある?
どうもしっくり来ない。
可能性があるのは、初対面の相手が、自分の名前を知っている。という事に対してだ。
そうだとするなら、警戒を解くのは簡単だ。
試しに、自分の目を指差し、こう言う。
「鑑定したんだよ。」
結果は……
――スリスリ
やっぱり分かるようだ。
すぐに力を抜いて、こちらに近づいてきた。知能が既に人と同じレベルな気もするが、気にしない。しないったらしない。
すると、横で寝ていたフィエナがモゾモゾと動き始めた。
「……ん〜……おはよ、ナギサ。」
ほぼ目を閉じたまま挨拶してくるフィエナだが、目を開けてシャルロッテを確認すると、首を傾げている。
「おはよう。この子は……あー、2人が起きたら説明する。」
「……分かった。」
シャルロッテを撫でたり、フィエナと話したりを続ける事5分。
2人は割と早く目を覚ました。
という訳で、説明タイム。
「昨日の夜、ちょっと散歩しに外へ出たんだけど、その時に――」
「え、ちょっと待って。昨日の夜?」
「ああ、そうだけど?」
何か問題でも?という感じで言い放つ俺。
実際、やましい事がある訳じゃ無いので、誤魔化す必要は無い。
「うー、いや、また後でその話は聞くよ。」
「そ、そうか。それでだな……」
後で聞くのかよ。
そうは思いつつも、シャルロッテを連れてきた経緯を話し終えた。勿論、風俗街の話は端折った。
「まあ、こんな所だ。でさ、勝手に持ち込んだ事に巻き込みたくないし、俺だけ違う宿に移ってもーー」
言いかけた俺の唇を、フィエナが人差し指で止める。これ、実際にやられると、指の感触が直に伝わって恥ずかしい。
「……それは、必要無い。気持ちは嬉しい。でも、私達に手伝わせて。」
チラッとシエラとエニファを見れば、2人共頷いている。なら、そうしよう。
「何か、他にあるか?」
すると、エニファが挙手をする。
「あの、主様。誰が狙っているのか、分からないんですよね?どうするんですか?」
ふむ、それは……それは、だな。
「…………考えてなかった。」
てへぺろ。
……マジすんません。
「……ん、やっぱり。」
「変な所抜けてるもんねー。」
さすが、よく理解していらっしゃる。
敵の情報無しのまま、諦めるまで返り討ちにし続けるというのも悪くは無い。
しかし、それではいつ終わるのか全く予測不可能だ。
ならば……
「敵に教えて貰えばいいよね?」
シエラの言葉にニヤッとする俺達。
少しだけ、シャルロッテが怯えてる気がした。
☆
俺達は今、街を歩いている。
「クァン!」
今のは、シャルロッテのものだ。
よく知る「コン」という鳴き声は嘘だった。
高い声だが、シャルロッテは鳴く事が少ないので、うるさくは無い。
「それにしても、2人で歩くのが懐かしく感じるな。実際は数日前の事だけど。」
「……ん、1日が、濃い。」
確かに、女神だったり、神狼だったりと、普通ならありえないメンバーで旅をすれば、起こることも普通じゃないからな。
そうそう、街を歩いている事についてだけど、話し合いの結果で決まった。
誘き出すにはどうすればいい?
そんなの、シャルロッテを街に連れて行って、公開しちゃえばいい。
その後、宿に戻ってきた俺達は、襲撃に備えて準備をするのだ。
なんと、ここまで数分の会話で終わってしまった。当たり前だろう、難しい事は何も無い。
ついでに、今、2人で歩いている理由を話そう。
朝、話し合っていた時に、エニファとシエラがシャルロッテを撫でようとしたんだ。
すると、シャルロッテは、
「くぁ……」
怯えた様子で、俺の後ろに隠れてしまった。
よく知らないが、犬が天敵だったりするのかもしれない。
そして、フィエナには怯えないので猫は大丈夫みたいだ。
結論、別行動しよう。
2人は反対したが、俺とフィエナの組み合わせ以外は出来なかった。
俺が連れているのだから、2人は近づけないし、フィエナに任せても俺以外近づけないという状態になる。だから仕方ない。
「何かしたい事あるか?」
「……美味しいもの、探す。」
そう、手を繋いでいたとしても、決して、デートなどではないのだ。
☆
「2人だけデートってズルいよね。」
「仕方ないですよ。羨ましいとは思いますけど……主様に迷惑はかけられません。」
渚沙達が仲良く食べ歩きをしている頃、シエラ達は話しながら服を見て回っていた。
ただし、内容は渚沙の事が殆どである。
「それにしても、1人10万は多過ぎると思わない?渚沙君、お小遣いみたいな感じで渡してきたけど……」
「さすが、主様ですね。その辺の男達とは格が違います。」
「えっと、それで済ませて良いのかなぁ……?」
残念ながら、エニファに渚沙を否定するという選択肢は無い。もちろん、誤った道に進むなら全力で止めるつもりではあるが。
なお、二人の会話を聞いた人達の反応がこちら。
「なんだその男……化け物か?」
「くっ、お小遣いで10万なんて……俺の給料はその半分程度なんだぞ!?」
「羨ましい……肌も綺麗で男もいるなんて……」
「はぁ、旦那にもそのくらいの甲斐性があればねぇ。」
「む、無理言うなよぉ……」
シエラ達に声をかけようとしていた男二人は、渚沙の財力に戦慄し、化粧の濃い女性は煙草を吸いながら嫉妬する。
溜息をついた40代の女性と、それに涙目な旦那さんには、頑張れとしか言えない。
「あそこ、服屋さんですよ?」
「あ、ホントだ。可愛い服を見せて、渚沙君を驚かせなきゃ。」
エニファは狼であるが故に、可愛い服やアクセサリーはよく分からない。
しかし、渚沙に喜んでもらう為にオシャレを頑張ろうと、気合を入れている。
しかし、2人が超絶美少女である事を忘れてはならない。渚沙以外の男に興味が無くとも、常時、誰かしらに見られている。
これだけ人の多い所で普通に歩いていれば、ナンパされるのは必然と言えよう。
「君達、とても綺麗だね。僕と食事にでもどうかな?」
ほら、この通り。
身なりがいい金髪のイケメンが、2人に近づいて来た。
「………さっ、行こうかエニファちゃん。」
「?はい。行きましょう。」
シエラは見なかったことにしているが、エニファに関しては、何とも思っていない。
だが、金髪もその程度で諦めない。
「ちょっと待ってよ。君達に話しかけてるんだ。」
仕方なくシエラが振り返る。
この男は、さっきの話をきいていなかったのだろうか。
「私達には好きな人が居るから、そういう誘いはお断りだよ。」
「気にしなくていいよ。そんな男よりも、楽しませてあげるから。」
この段階まで来れば、エニファにも理解出来る。
「あなたに主様の何が分かるんでしょうか?とにかく、邪魔しないで下さい。」
エニファに邪魔と言われて笑みを引き攣らせる金髪だが、しつこく話しかける。
「そう言わずにさ。さっきの話、聞こえてきたんだけど、君達に寂しい思いをさせるような奴なんだろう?そんなクズはほっとけばいいんだよ。」
その言葉に、2人がイラッとしているのはお分かりだろう。
「いい加減にしてくれる?君の事はどうでもいいけど、渚沙君を悪く言うのは許さないからね。」
どうでもいいと言われた金髪は、段々顔を赤くさせている。怒っているらしい。
「この僕に、どうでもいいだと!?調子に乗るなよ!貴族の力を使えば、お前らの男なんか簡単に殺せるんだぞ!」
2人が初めて見せた笑顔。
しかし、怒っているのがよく分かる顔だった。
「渚沙君を殺す?出来るとは思わないけどさ……」
「その前に自分が死ぬことになりますよ?」
それを聞いた金髪は、恐怖を感じたらしく、少し冷静になっていた。
「な、なんだと?そんなにその男は強いのか……すまない、僕が悪かった。」
……驚く程の棒読みだった。
しかし、何かされた訳でもないので、2人が攻撃するのは犯罪になる。
「まあ、いいけどさ。一応言っておくけど、渚沙君に何かしようとか考えない方が良いよ。」
金髪は「分かった」と言っていたが、絶対に分かっていない。
「主様に怒られてしまいますね……」
「あはは……やっちゃったね。」
出来れば馬鹿な事を考えませんように。
そう思う2人。
ちなみに、服はしっかりと買っていた。
狐、可愛いですよね。
野生のは間違っても触れないですけど。
最後の金髪男は、ボコりたいけど法律的にダメですから。何もされてないですし。




