19話『能力任せは格好悪い』
ちょっと遅くなりました!
エニファの事が少し出てます。
あと、アース・スターノベル大賞に応募したんですけど、見てくれる人増えますかね?
あと、どのくらいで王都に着くのだろう。
「……する事、無い……」
その気持ちは分かるぞ、フィエナ。
朝の攻防を終えて、朝食を摂り、出発してから5時間が経っている。
出発したのが7時なので、もうお昼時だ。
しかし、今通っているのは森の中にある道なので、抜けてからにしたい。
一応言っておくと、馬車を引いてるのがエニファなのは変わっていない。夜に話した時、やりたいと言っていたし、他の移動手段も無いのだ。
なので、女の子に馬車を引かせてもセーフ……だと思いたい。狼だからいいだろ。
「そうだよねー、フィエナちゃん。面白い事でも起きないかなー?」
「おい、それは洒落にならないからやめてくれ。とんでもない事になったらどうするつもりだ。」
俺の右側に座ったフィエナに、シエラが話しかけているが、それにツッコミを入れていた。
席順としては、右からシエラ、俺、フィエナだ。反対側にも席はあるのだが、俺の隣をどちらが座るか話し合った結果、無理じゃなければ3人で座るという結論になったらしい。
実際に3人座っているが、隙間はほぼない。いくら2人が細くても、常に肩が触れ合うくらいには狭くなる。普通は2人で座る席なのだから。
そういえば、エニファの事で分かったことがある。
まあ、シエラから聞いた話なので、俺が気づいた訳では無いのだが。
種族が?になっていたり、能力が普通だった理由は、神獣特有のものだそうだ。産まれた際、最初から大きな力を持たせると、母親にかかる負担が大きくなり、ステータスやスキルが子供に奪われてしまう事もあるという。
なので、産む際は種を施し、1年ほどで発芽するらしい。……種や発芽という呼び方は、研究者が考えたものなので、気にしない方がいい。
それよりも、どうやって種が育つのか、というのが重要だ。本来の場合だと、母親の余剰魔力を吸収し、種族やスキル、ステータス等の情報を得るのだ。魔力にそこまで情報が含まれている、というのが驚きである。
ちなみに、余剰魔力というのは、魔力が最大値になっている場合に、体に纏うような形で溢れている魔力の事だ。
で、どうして重要かというと、だ。
エニファの場合は、何らかの原因で、母親とは1年経たずに離れてしまった。
なのに、こんなタイミングで発芽したのはおかしいだろう。
そこで、1番有り得るのは、俺の魔力が発芽させた、というものだ。
シエラ曰く、理の覇者の影響で、魔力の質が神に近くなった可能性があるんだとか。
あるいは、俺の体がシエラの本気によって作られたものらしいので、それが魔力の質に影響を与えているかもしれない。
俺の魔力は、最大値が多く、その分余剰魔力も多い。その大量の魔力をエニファが吸収して、発芽に至ったのではないだろうか。
ただし、母親と同じスキルやステータスではないので、あまり強くはならなかった。その代わりに『ステータス自動成長』が出て、俺の栄養たっぷりとも言える魔力を、常に吸収出来るようにしたのだろう。
これが、シエラから教えてもらった情報と、俺なりに考えてみたものだ。
「魔力を吸収……まあ、余剰魔力だけだから、そこまで早くは成長出来ないんだよな。」
俺がボソッと呟いた言葉に、シエラが意地の悪い笑みを浮かべる。
「そうだね。更に言うなら、近くにいないとダメだしね。……抱きつくみたいに。」
それくらい近くじゃないと、ダメらしい。
というか、掘り返さなくてもいいんじゃないかと思う。どうせ今日の夜は一緒なんだし。
……こっそり、ベッドから抜け出したらバレないだろうか?
「……森、抜けたみたい。」
「それなら、もうすぐ昼飯だな。」
どう返すか迷っていた所で、フィエナが話を変えてくれたので助かった。
『主様、ちょうど良さそうな場所があります。止まりますか?』
『ああ、頼む。何時間も歩きっぱなしで疲れただろうし、ゆっくり休もう。』
馬車が止まったので、さっそく昼食の準備をしようと思う。適当に魔法で平にして、その上にシートを敷く。
「料理、ですか。お手伝い出来そうに無いですね……」
人の姿になったエニファが来ていたが、落ち込んでいた。
変化する時って、黒い魔力に包まれて見えないんだけど、服はいつ現れているんだろうか。
魔力で作ってるのか、それとも、服も変化に含まれているのか……あ、服と含ってダジャレで言ったんじゃないぞ。
というか、落ち込む必要は全くない。
俺以外、全員まともに料理した事ないんだから。そういう俺も、スキルが無ければごく普通の男料理しか作れないだろうけど。
「……お昼は、何作るの?」
「卵ふわとろの親子丼だ。」
朝は、ハムとチーズ、マヨネーズを挟んだサンドイッチを食べた。日本に居た時、それを朝食にしていたので、同じものを食べようと思ったのだが、マヨネーズがやたらと美味くなってしまった。加工していないのに。
きっと、混ぜ方とか、割合が良いんだよな、うん。
それはともかく、朝は軽めだったということもあり、昼はガッツリ食べれる丼物にしたのだ。
作り方は普通の親子丼と同じようにやっていく。ただし、火加減や卵のふわとろ具合は、料理スキルのおかげで凄い事になってるが。
いざ、実食。
「ちょー美味しいよ!」
「……モグモグ……」
「あ、主様!美味しいです!」
うん、美味い。
食レポとか出来ないし、美味いとしか言い様がない。というか、フィエナに関してはずっと食べてる。
エニファは、初めて料理と呼べるものを食べたんだから、仕方ないとしても、シエラは言い過ぎだと思う。料理スキルがあるとは言っても、普通の作り方なので、極端に美味しくはなってないはず。
そこからは、後2時間くらいで王都に着くとか、エニファは冒険者ギルドに登録出来るのか、なんていう事を話つつ食べ終えた。
……フィエナだけは黙々と食べていたが、よく食べる女の子っていうのは、いいと思う。
「ちょっと、素振りでも……」
食後の運動をするために、俺が立ち上がって黒薔薇を抜き放つと、何故か、3人ともこちらを見ていた。
「なんで見てるんだ、気になるだろ。」
「だって、急に言い出すから。」
まあ、確かに、急ではある。
その理由は、時々襲ってくる魔物達を倒している時、ステータスに振り回されている気がしたからだ。
最初の速さですら、慣れるまでに時間がかかったというのに、更に上がってしまった。別に悪いことではないが、強敵との戦闘があるかもしれないし、何より格好悪い。
そんな訳で、素振りから始めてみようと思ったのだ。
「まあ、なんとなく体を動かしたくなったんだよ。気にすんな。」
だが、そんな事を言っては余計に格好悪いので、適当な言葉で誤魔化す。
「……気にはしないけど、見てる。」
「そこは変わんないのかよ。」
まあ、良いけどな。
まずは『身体強化』と『魔刃』を使って、戦闘時と変わらない状態にする。
次に、軽く振ってみる。
――ビュン
ん?ちょっと違和感があるな。
3人に見られているので、少し緊張しているのかもしれない。
「スー、ハー……」
深呼吸をしてから、もう一度振る。
――ヒュッ!
今度は上手くいった。
音が出ている方が迫力はあるが、振った時に速かったのは2回目の方。速いのに音が小さいという事は、それだけ剣筋に乱れが無いという事なのだ。
納得のいく音になった所で、本格的に始めよう。『天駆』を発動して、空中に立つ。
本当は、地上で本気の素振りでもしようと思ったのだが、それでは面白くない。なので、いつかのサイクロプス戦のように跳び回ってみることにした。
そこで、見てて楽しいものを考える。
「あ、そうだ。」
いい事を思いついた。
魔石を取り出した俺は、複数の付与を施し、空中に浮かべた。
「あの魔石、なんでしょう?」
離れたところからそんな声が聞こえてきた。
それは、すぐに分かる。
「ゲームスタート!」
次の瞬間、魔石から火の球が飛んできた。
……俺だけに。
もちろん跳んで避けるが、それでも追いかけてくる。そして、次々と球は増やされていく。
これは、空中戦を考慮した訓練でもある。
付与したのは、火魔法と、それを俺の魔力を察知して追尾する機能。そして「ゲームスタート」で始まるようにした。止まることは無い。
永遠と追いかけっこをするだけでは意味が無いので、増えていく球を黒薔薇で斬る。かなり小さいので、正確さも重要だ。
速度が出るように付与したので、俺が全力で移動しても追いかけてくる。音を置き去りにしているのにも関わらず、だ。
常に100個近くある球を、次々と斬っていたのだが、始めてから20分程で消えてしまった。よく見ると、いつの間にか魔石から魔力が無くなっていた。そこまで大きくなかったせいだろう。
まあ、速さには慣れたので問題ない。
満足して下に降りていくと、3人が近づいてきた。
「どうだ?面白かっただろ?」
笑顔でそう言った俺だったが、フィエナの顔が赤い気がする。
「私は見えなかったけど、多分、2人は見えてたんじゃない?」
あ、しまった。
見えるかどうかは考えていなかった。
「速かったです!なんとか見えましたけど、ちゃんと見えたのはフィエナさんだけかと……」
でも、見えたんだな。
フェンリルなのが理由か?いや、目がいいのかは知らんが。
それにしても、やはり、先程から顔の赤いフィエナが気になる。
何故か、更に近寄って来る。
「……真剣な顔が、カッコ良かった。」
顔が至近距離に……
「んっ!?」
思いっきりキスされた。
「「あー!」」
2人の声が聞こえるが、それどころではない。
キスはキスでも、舌を絡めてくるし、纏う雰囲気がやばい。
口を離すと、それを嫌がるかのように銀の糸が……
「よし、出発しよう、それがいい!」
シエラとエニファに見られていたのが恥ずかしくて、そう言った俺は馬車に乗り込む。
渋々、といった様子ではあるが、準備は出来たようなのでエニファに合図をする。
「……やっぱり、2人部屋にしたい……」
フィエナが小さく呟いた声は、俺以外には聞こえなかったのだろう。そして、俺も聞こえないふりをしておいた。
☆
つい、やってしまった。
先程のナギサの様子を見て、我慢しきれずにキスをしてしまったが、少し落ち着いている。
何故、そんな行動に出たのか?
その理由は、ダンジョンでの事を思い出してしまったからだ。
黒薔薇を振るうナギサの顔が、シグマから守ってくれた時のものと重なって、愛おしく感じていた。
ハーレムになったとしても、私が1番ならいいかと思っていたのに、今となっては独占欲が強くなっている。
「……やっぱり、2人部屋にしたい……」
そう呟いてしまうのも仕方ないだろう。
四人部屋にすると、この疼きが解消できないのだから。だが、自分も賛成してしまったので、今更だめとは言えない。
「……もっと、積極的にいく……」
いかにすれば求めてくれるか。
考えている内容が、時々口に出していたのに後から気づいた。
しかし、フィエナが口に出していた言葉を、全部聞いて、戦慄していたナギサには全く気づく様子は無かった。
「「……どうすれば良いんだろう……」」
全く違う方向にではあったが、奇しくも同じ言葉を発する2人。仲がいいのは間違いない。
いや、設定考えるのに時間かかりますね。
それと、フィエナちゃんがあっさりハーレムを認めているので、少し独占欲を……