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米国騒動 ~西棟、孤軍奮闘1~

ストック枯渇状態でプロットまとめと執筆を同時に行うのは悪手と思い知っている今日このごろです

6月16日22時29分(JST-13) ワシントンD.C ペンシルベニア大通り1600番地 

ホワイトハウス 西棟 “シチュエーションルーム”


「大統領!これは決して賛成できません!!」

「ではどうするというのだ?この問題で先んじて行動したのはあの日本だぞ?そして中露に欧州も具体的な行動を開始している。今や動いていない主要国は…合衆国だけだ。」


数機の大型モニターが三方の壁に埋め込まれ、中心には長机が置かれた窓のない地下の部屋。

モニターや机の大きさにしては思いの外狭いこの場所は今、椅子に座る権力者、壁際に立つ側近、そして時たまスーツや軍服を着た関係者によりごった返していた。

この部屋が使われるのは、例えば軍事作戦の実施とその推移を見守るとか、秘匿性の高い議題を扱う会議とか、世界をひっくり返す企みとか…つまるところ、超ハイレベルなお話をするためだ。よって、ここに集う面子も非常に高い地位にいる人ばかりである。

例えば、上座に座る老齢で線の細い白髪の男性…マット・キングス米国大統領がいい例だろう。

さて、そんな場所では喧々諤々な意見交換が行われることも稀によくある。今の場面がそれだ。

今回の議論の主役は二人。珍しく声を荒げ、椅子を弾き飛ばそうとするほど前のめりになっているアダム・サリンスキー大統領政策顧問…今は大統領補佐官…が一人。

その相手、アダムを見下すように見つめて勇ましい反論を行うのは、大きくギラついた目とニヤつく形が癖になっている口と濃い青ひげ、そしてそれらを補完するように鍛え上げられた体躯を持つ初老男性のスティーブン・オルブライト副大統領だ。

議論は更に熱を帯び、お互いの身振り手振りも徐々に大きくなっていた。


「確かに、我々は後手に回っています。ですが、武力を前面に押し出せばいらぬ圧力を与えて不測の事態を招く恐れもあります!どうか、再考を…」

「逆だよ!”帝国”とやらは、今回現れた異次元物の集団の中で一番好戦的というではないか!?であれば、我々の”力”を見せることは今後の交渉にも有利に働くのではないか!?」

「攻撃を受けたら!?公人だけではなく国民に被害が出ればどうなるかはお分かりでしょう!?」

「はっ!政権への批判を心配してくれるとはね!君は非常に優しい”共和党員”なんだな!?」

「あなたのような危険人物は、我が党でもお断りだ!」

「やめないか!!」


白熱した議論が脱線し、個人攻撃の応酬となり始めたところで大統領と同じくらいの年齢の男性…ただし、こちらは小柄ながらガッシリとした健康そうな見た目…が2人を制した。彼はウェントワース首席補佐官。首席補佐官というのは、言ってみればホワイトハウスの番人だ。1000人を超える職員全てを統括する最高の管理職であり、政権によっては首席補佐官が大統領の次か同等と言えるほど発言力が強くなることもある。

そんな地位にふさわしく、彼は軌道修正を行ったというわけだ。

アダムと副大統領は、大統領に顔を向けて短くではあるが無礼を詫びる。

2人の激論を黙して眺めるだけだった彼は、手振りで気にしなくて良いことを伝えた。

そして、大統領はすぐに右隣に座る、勲章を大量につけた軍服の男…ブライトン・ベッカー統合参謀本部議長に声をかける。統合参謀本部議長は、陸海空海兵隊全ての米軍を統括する、軍人の”頂点”である。

ベッカー議長は大統領からの質問に軍人らしい自信を感じさせる態度を見せながら、はっきりとした断定口調でわかりやすく返答を返した。


「…ベッカー。彼らの戦力評価は?」

「日本からの情報によれば、こちらの現代兵器に対応可能な戦力は有していません。」

「見る所、鉄鋼は相応に発達しているようだが…本当に大丈夫か?」

「はい…DIA隊員が”サンプル”の回収に成功しています。分析結果によれば、技術レベルはせいぜい20世紀初頭程度との話です。」


ベッカー議長の話が終わると、その隣に座る男性…ナイト国防長官がすぐさま補足をする。綺麗な金髪に整った顔で年齢を感じさせない彼は、無駄に優雅な手振りにより大統領に強く意見を述べた。


「大統領。軍及び国防総省は、この警護作戦に絶対の自信を持っています。どうか、承認を。」


その様子に、ベッカー議長は物言いたげな視線を送った。アダムはそこに、この政権の複雑さを垣間見た気分だった。

従軍経験のある副大統領と国防長官が手を組んで、異次元的現象への対応の主導権を奪う。大統領の承認を求めるあたり最低限の理性は保たれているようだが、承認せざるを得ない状況を作り出してから承認を求めるなど、合法的なクーデターに近いとアダムやベッカー議長は考えていた。

大統領は20秒ほど黙る。その後、机の上に軽く手をおいて唸る。さらにその後に、一人の顔を見て質問をした。


「…アダム。やはり君は反対かね?」

「…はい。帝国は内部情報のほぼ完全な秘匿を今なお保ち続けています。他の異次元物は、帝国の情報を持ち合わせていません。問題なく対応可能という評価判断は、尚早であると考えます。」


アダムは質問に対して端的に自身の立場と理由を述べる。しかし、彼にはもうこのあとの展開が予想できていた。

今の質問は、最後に意見を聞くことでアダムの”顔を立てよう”としてくれた、大統領の気遣いなのだ。


「…承認しよう。アダム、交渉の取り仕切りを頼む。一緒に来てくれ。」


こう言いながら大統領はゆっくりと立ち上がる。それを見たこの部屋で椅子に座る者たちは、一斉に立ち上がった。

最高権力者である大統領が立つとき、誰も座らないのが礼儀だ。

大統領と首席補佐官を先頭にして部屋をあとにする。

呼ばれたアダムもその後に続き、大量の資料を脇に抱えながら退出した。


地下から地上へ進むに連れ、すれ違う人が増えてきた。

シチュエーションルームがあるホワイトハウス”西棟”は、大統領を始めとして、政権幹部やその部下などのスタッフ1000人以上が働く。さらに来訪者や報道関係者も非常に多く、上階は人でごった返す。

この様相を見たものは、世界の覇権国家たる合衆国中枢がこんな雑多なのかと驚くだろう。

狭くはないが、この人数を完璧に処理できるほど広くもないのが現実だ。


一番行き交う人が多いであろう1階まで来たとき、アダムは視線を感じた。

その方向に顔を向けると、視線の主は大統領本人だった。

好々爺という表現が適している、朗らかな表情を浮かべながら、彼はアダムにそばに来るように手振りをした。

アダムは素早く大統領のもとへと駆け寄る。

大統領の横まで来ると予想通り、彼は先程の”戦端”を気にかけていた。


「…君はオルブライトと本当に反りが合わないな。」

「大統領…先程はお見苦しいところを…」

「良いんだ。君の言わんとすることも、一理ある。」


大統領はアダムの肩に手を置きながら、彼の心労をねぎらった。そして、賛同も示す。

しかしアダムは、それに微妙な感情を抱かずにはいられなかった。

もちろん大統領はそれに気づいていた。


「…”なぜ、助け舟を出してくれなかった”という顔だな。」

「いえ…その…」

「疑念が全く無いわけではない。しかし、全く動かない状況というのも、そろそろ限界だ。その状況判断が僅かに勝った。悪く思わないでくれ。」

「お気遣いは不要です。私は大統領のご決断を支持します。」


アダムは、大統領の心遣いに感謝を述べつつ、職務を全うする意思を、非常に硬い真面目な表情と言葉で示した。

大統領は満足したように頷き、ある部屋に入った。アダムはそこで初めて、円形の部屋、”オーバルルーム”まで来ていたことに気づく。

その状況に、アダムは何故か不安を感じていた。



23時09分(JST-13) ホワイトハウス 西棟1F 次席補佐官室

「副大統領を罵倒したのか?」

「…成行きでな。」

「怖いものなしだな。」


大統領執務室での5分間のミーティング後、アダムは一人の男の部屋で話をすすめる。

彼はアーノルド・フェラー次席補佐官。目鼻立ちは強く強調され、美形ではあるが少し威圧感も感じさせる顔の作りでありながら、

人好きする雰囲気をまとう不思議なユダヤ系米国人。このルックスであるから、DCでは有名な”できる遊び人”だ。

ホワイトハウススタッフのNo2であり、ウェントワース補佐官の右腕と言える。

ちなみに、アダムはその素性をよく知っている。自身がシカゴの法律事務所で働いていた頃の同僚として。


アダムはここに政権側のスタッフとして、省庁と”交渉”の内容を協議するための骨子をまとめに来た。

が、フェラーの興味は”地下室”での舌戦だ。30分も経っていない出来事が、ここで働く人間の3割に知れ渡っている。

アダム自身それなりにDCで働いて経験を積んでいるが、この話の拡がり方は気味悪さを感じずには居られなかった。特に、自分がその渦中であればなおさらだ。

しかし、フェラーはアダムの心中などお構いなしに話を続ける。

しかもその内容は、彼の立場からすると非常に危ういものだった。


「…まあ、俺が言うのもなんだが、あいつは1回罵倒してみたいよ。」

「本当に次席補佐官が言って良いことじゃないな。」

「だから一言断ったろ?」

「…なんで”下院の腫れ物”を副大統領にした?」

「分かってるくせに。選挙に決まってるだろ?”バイブル・ベルト”で勝てる民主党員は貴重なんだよ。」


本音を振りまくフェラーに、アダムはこれ幸いと自身も率直な疑問をぶつける。

だがその返答は予想通りのものだ。選挙。民主主義国家で避けて通れない”お祭り”だ。

右だろうが左だろうが、アイビーリーガーだろうがレッドネックだろうが、それらが”有権者”である以上、票を得られなければ彼らはただの人だ。

そのためだったら何が何でもあらゆる手を下す。悲しいかな、政治とはそういう世界だ。

自分たちの政党が勝てる可能性の低い地域で、圧倒的に支持を集める党員がいる。それが今の副大統領というわけだ。

アダムとてその世界で生き抜いてきたから当然の摂理として理解している。

だが、今夜の彼はその現実に妙な居心地の悪さを感じてしまっていた。

フェラーは彼の心情を…察するような男ではないが、多少気を使ったような言葉をかけた。


「まあ、耐えるんだな。どうせ2期目はない。」

「…本気で言ってるのか?」

「…知ってるくせに。”大都市圏で勝てる共和党員”のお父さんによろしく言ってくれ。」


アダムはフェラーの言葉に眉間にシワを寄せる。自身の親しい人物も、大枠で見れば同じものだ。

その事実が何故か嫌になる。働き詰めのせいで疲労が溜まっているのだろうか、と彼は目を押さえつつ、フェラーの言葉に左手を揺らして雑な意思を表した。

フェラーはその様子を見ると、座っている椅子の背もたれに身を投げだして、天を仰ぐようにため息を吐いて愚痴をつぶやく。


「しかし、気づいたらお前も俺より微妙に上の立場になりやがってよー…」

「…無駄話はやめるぞ。俺はあと20分以内に交渉案をまとめて、ウェントワースに承認を貰って、国土安全保障省に出向くんだ。時間は全く無い。」


勝つためならなんでもする。出世こそが全て。それがワシントンDC。

アダムへの父親への言伝、そして愚痴というフェラーの一連の言動は、それを如実に表しているだろう。

野心と野望渦巻くこの街で相応のキャリアを積んできたが、今夜はなぜか居心地が悪いと感じるアダム。

彼はその謎の感情をかき消すようにメモ帳にペンを走らせた。


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