↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/110

他領訪問~東方領~ 下命、作戦名”東征” 12

7時41分 エルニア王国東方領都ローディウヌ 西門

「いいか!?これより門を全て開け放つ!まずは”老人、女、子供”からだ!」

「白旗は準備したな?これを掲げてないと攻撃されかねない。」


若い守備兵が、領都の商会が用意した幌車の中を確認しながら全体に声を掛ける。

同時に別の守備兵は、その幌車の上にしっかりと白旗を付ける。

その周りに集う市民の表情は様々だ。領主の圧政から逃れられるという希望、圧倒的な武力を持つ日本という存在への畏怖、極一部ではあるが、王国の行く末を案じる警戒などなど…


領都守備兵西門警備班長のイワンは、それらの領都開城に向けた準備を注意深く観察する。

開城の手はずでは、開門後に庶民が領都を出る。その第一陣は、飢餓により衰弱している子供や、万が一に市街戦の様相になった場合に抵抗する力を持たない女性に老人となっている。その後、順次武装を持たない庶民が領都の外で前線を敷く自衛隊に”保護”されるという流れだ。

市民を攻撃しない、というのは日本側から口酸っぱく言われており、念の為として降伏を表す白旗を掲げるようにした。


イワンが見る限り、その準備は大分進んでいるようだった。

そもそも、ダンが領主への謀反を企てる話をした時、技術組合も商業組合も両手を上げて歓迎して協力を申し入れてきた。この領都では、はるか遠い日から旧来の主に期待はなく、新しい主を求めていたということだろう。理解はしていたが、その様子を眼前で繰り広げられると苦笑いしかおきない。と、彼はつい先日の様子を回想する。


イワンは西門の脇を見る。そこにはフードを深くかぶった何者かが佇んでいた。

姿見から少女のようだが、何故か存在を”消すよう”にそこでじっとしている。

しかもその消し方が絶妙で、彼女の目の前を幾多の人が行き交うが、誰もその姿を見ようとしない。というより、見えてないに等しいのだろう。イワンでさえ、なぜ見つけられたのかが解らなかった。

が、それはすぐに答えが出た。彼女がイワンに視線を送ってきたのだ。

つまり、存在感を消している人間が、わざわざ隊長格の彼に気づくように気配を送ったと考えるのが妥当だろう。

イワンはその事実に、彼女の正体を正確に思い描くことができた。

彼は足早に彼女の元へと近づく。


「…貴様が”四肢”か?」

「はい、さようですが?」

「…職人街や庶民街の掌握は完了した。今は衰弱している者を集めている。」

「ええ…見ればわかりますよ?」

「…」


イワンの直球な声掛けに全く動じない。まるでそれが当然だとでも言いたげだ。

彼はその様子から、彼女が見た目通りの少女ではないことを深く理解した。

だからこそ、現状を端的に報告したのだ。

しかし、それさえも切って捨てられるような返答をされては、言葉に窮してしまう。

イワンは気を取り直して、段取りを確認する。


「と、とにかく、彼らは日本が保護してくれるということでいいんだな?」

「はい。そう聞いています。」

「…なあ、なんでお前そんな他人事なんだ?」

「…ああ、すいません。私こういう話し方なんです。」


思わずイワンは彼女の態度を諭すような事を言ってしまう。しかし、彼女はそれにもさらりと答えるだけだ。恐らく、この手のやり取りを今までに幾度となく繰り返しているのだろう。であれば、流石に学習してほしくもある。

しかしながら、それは彼女のこの性格が不変のものであることを物語る。

様々な性格の部下を束ねる立場のイワンは、それを無理に変えることは無駄だと理解していたので、目下の状況を処理することに戻る。


「まあ、いい…もうじき完了の報告が来るだろう。そしたら」

「連絡ですね。わかってます。」


…やはり、調子は狂う。ただ、彼女はそれで一旦会話を終えたとまた黙った。

イワンも同じく黙る。実際、今は待ちしか無い。

少し気まずい沈黙は幸運にも長く続かなかった。イワンの副官が彼の元を訪れたからだ。


「イワン隊長!対象者の馬車への収容完了しました!」

「うむ、ご苦労。では、貴」

「こちらヌスミ22、西門の準備完了。指示を乞う。オクレ。」


イワンが言う前に、彼女は報告を行っていた。彼らには見慣れぬ道具を扱い、流暢に内容を述べる。彼女の耳に付けられた黒い粒のようなものからは、人の声らしき音が漏れ聞こえる。イワンが初めてする無線機に目を奪われていると、報告が完了したようだ。


「…了解した。合図はこちらで行う。オワリ。」

「…」

「…?」

「…いや、どうなんだ?」


イワンが言葉を待つが、彼女は一切答えない。しびれを切らした彼は、彼女に催促する。

そこでも彼女は表情を変えずに淡々と答えた。


「…いいですよ。門を開けてください。」

「あいよ…おい、やるぞ!!」


極々短いやり取りだったが、小さくない疲労感を感じつつも、イワンは部下たちに大声で号令を出した。



7時53分 宮城県亘理町 ”宮城戦闘団” 第二防衛線(作戦指揮所側)

「もうじき、前方の門が開くと…」

「いよいよか。大型を用意しろ!」


若い自衛隊員の報告に、細目の気難しそうな隊員が頷いて声を上げる。

指揮所からの報告で、作戦が第三段階へと移行したことにより、最悪の場合は最前線で矢面に立たされる防衛線を構築する部隊は緊張感を持ちながら慌ただしく準備を進めていた。

しかし、指揮所からの通信で、”かぐや姫は微笑んだ”とも伝えられた。これが、内部協力者により対象地域の掌握が完了したことを示している。つまり、最悪のケースは回避されたようだ。

この辺りには、東北方面輸送隊第309輸送中隊を中心に、第6後方支援連隊や第9後方支援連隊などの輸送小隊から編成された部隊が複数展開する。

ずらりと並ぶ73式大型は、付近の農道を走るにはギリギリの幅員だ。


「対象に変化あり!門が開きます!!」


偵察隊から報告が上がる。前方数百mほどにある、鉄枠に木材の重厚な城門が、ゆっくりと動き始めた。しばらくすると、その開口部から領都内部の様相が見え隠れし始めた。

城門が半分以上開いたところで、かなり薄汚れた荷馬車が一気に飛び出してくる。

数は4台。それを見た偵察隊は、さらに報告を続ける。


「開門を確認!同時に多数の幌車!」

「白旗は?」

「…えー…はい!確認できました!白旗確認!」

「よし、要救護者の保護を行う!!」


偵察隊の確認により、彼らが行動を開始するときが来た。細目の隊員が号令を出すと、73式のエンジンが一斉に掛けられる。そして、狭い農道を走るために細心の注意をはらいながら、領都から出てきた荷馬車の元へと近づいていった。


73式の車列の先頭が、彼らの元へと到着する。すると、荷馬車の先頭から小柄で屈強な老人が降りてきた。彼はノシノシと車列へと近づいてくる。

先頭の車両に乗る門倉は無線にて待機を命じる。そしてすぐに73式から降りて、老人の元へと進んだ。


「隊長の門倉です…えーと、あなたは…」

「わしか?ムスタだ。ローディウヌ技術組合の代表である。」

「…よろしくお願いいたします。」


いわゆるドワーフ。その姿見に、門倉は戸惑いを隠せない。おとぎ話の存在のような人物が目の前にいるのだから無理も無いだろう。

ムスタはそんな彼の態度を露にもかけず、話を進めてきた。


「…で、弱っとる者をかき集めたんだが、助けてくれるか?」

「はい。もちろんです。では、後ろにあります大型…あの鉄製幌車へ移送します。」

「わかった…ん?鉄製?…」


門倉は後ろの73式を指さしながら依頼する。

が、ムスタは彼のある言葉に引っかかり、73式を穴が空くほど凝視し始めた。

そして、じりじりとにじり寄る。門倉はその様子を見つめるだけだ。展開が全く読めないのだ。

73式の眼の前まで来たムスタは、おもむろに腕を大きくあげる。

そして拳を作ると、73式の車体に勢いよく振り下ろした。


「え、あっ、ちょ!?」

「な、な、なんだこの鉄は!?」

「た、叩かないで!!」


門倉は慌ててムスタを制する。しかし、現役の自衛隊員でさえも抗えないほどの腕力で、なおも73式の車体を叩き続けた。流石に他の隊員も車両から降りて、門倉に加勢する。

しかし、ムスタにとっては、それは些細なことだった。


「ど、どうしとるんだ!これはどうやっとるんだ!?」

「お、落ち着いてください!!」


どうやら、車体に使われている鉄に心を奪われたらしい。

要救護者の代表でもある彼を無碍にもできず、かといって備品に傷をつけられるわけにも行かず。必死になだめる門倉たちだが、その言葉はムスタに通じない。

その喜劇は、程なくして荷馬車から降りてきた彼の弟子により叱責されるまで続いた。

その後は、救護者の移送を問題なく開始できたので、まあ、平和と言える光景だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。