↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/110

他領訪問~東方領~ 困惑する行動力

21時11分 エルニア王国エルパレス 国王宮殿4F 国王執務室

「なるほどのぅ…」

「はい。よって、私めが国王の名代となり、日本国の行動をしかと見届ける所存です。」

「うむ、それは結構…」


カーリン王女は、国王に先程の中田副大臣との会談内容を報告する。

もちろん国王にも東方反乱の報告は上がっている。その一報を聞いた時の国王は、それは呆れた表情をしていた。

国王は、王女の報告に黙して聞き入り、日本国の状況に賛同と理解を示した。傍らにいる主席王宮政官は、日本が軍事行動を起こせる”根拠”に対して憤りを隠せないというのも予想補範囲内だ。


国王は、報告を聞き終えると、了承の旨を示す発言をする。しかし、なにか”物足りない”という表情を浮かべていた。国王の元でその統治を担う一翼であり、そして娘としてもその性格をよく知る王女は、それを見逃さなかった。

王女は国王に慎重に話しかけた。


「…なにか、思うところが?」

「まあの…しかし、ローディアの阿呆は、王都で何を見ておったんじゃ…」

「見ていないのか、覚えていないのでしょう。そして、”誑かされた”様子もあると。」

「…急進派か。全く、冷静な判断を欠いた奴等はろくなことをせんのう…」

「おっしゃるとおりです。」


国王という”存在”にのみ、国体の根幹を見出す国王急進派。ホランドの起こした騒動では彼に利用されるだけで、決して小さくない勢力にもかかわらず、具体的な行動は全く起こしてこなかった。しかし、国王が平民と肩を並べて、同じ釜の飯を食べるというあの出来事以来、その思想根幹である”国王”の存在に危機が迫っていると思いこんでいるようだ。

現在掴んでいる情報を踏まえて、王女は東方領主が彼らに”生贄”にされたと見ている。相手は人としての最低限の知恵と、文明人としては手に余る自己顕示欲を持つ愚図だ。おだてられた結果、今のように木に登ってくれた。


王女は国王に質す。王国としては、最高権威である彼の判断が不可欠だ。


「して、陛下。どうされるおつもりで?」

「うむ…王国内の騒乱ではあるが、我々が東方領征伐に行くことは不可能。であれば、日本の出方を見るしかあるまい。」

「…そうですか…」

「不安かの?」

「…ええ、正直に言うと。」

「儂もじゃ。なにせ、彼らがどうやって戦うのか、我々は知らんからの。」


王国の立場は苦しい。兵を出すにも、進軍経路は皆無。それに相手は東方領。士気がどれほどかに関わらず、王国の軍事力の根幹を占める彼らを相手にするには、他領も動員しなければ討伐は不可能。となると、日本の協力が不可欠となる。

これを了承する可能性は正直低い。そもそも、王国にその動員をかけるだけの国力がない。


かつて栄華を極めた母国の現状に、そこにいる面々は悲哀に溢れた表情だった。

しかし、国王だけは様子が異なる。先程からの思案顔をさらに険しくして、ぶつぶつとつぶやいていた。

かと思えば、王女に突然質問する。そしてすぐに思案へと戻る。


「彼らのからくりで、日本の国政長と対話か…そう言えば、日本側には国防関連の長も同席するんじゃったかの?」

「はい、そう聞いております。」


王女やクロム卿は少し嫌な予感がしていた。国王の人柄を知る数少ない人物である彼らは、国王が意外と”突飛もない”発想"をすることをよく理解していた。

武力や魔法は月並みで、策略や搦手を一切使わない現国王は、その特徴のなさから”平凡王”と言われている。その世間一般の評判は、王女とクロム卿が必死に抑えつけているという事実があることはあまり知られていない。


「彼らが何をするか、大まかには聞けそうじゃな…」


ほら見たことか、と王女とクロム卿が目を合わせる。

そして、国王の次の発言により、彼らは約束の時間に遅れることとなる。



5月25日 0時24分 エルニア王国エルパレス 王宮広場

「…遅いな。」

「ええ、流石に…」


王女たちを迎えに来た反田一尉は、部下の音谷陸曹と暇を持て余す。

あたりは電灯がほぼ存在しない。宮殿広場には、街灯として魔力光柱があるが、明るさはガス灯程度で全体を照らすには力不足だ。


反田一尉がため息を吐きながら王宮に目を凝らすと、普段は政官が出入りする通用口のような小さい扉…正面玄関などの荘厳な扉に比べてだが…から数名の人影が出てくるのが見える。


2名ほどは鎧に身を包んだ王宮の近衛兵。その後ろに続くのが、目的の客人だ。


「お、来たようですよ?」

「ああ、見えた。さて、お仕事の時間だ。」


音谷は反田に声をかけ、反田も反応を返す。二人は姿勢を正し、出迎え準備を整える。

王族が使わないであろう小さな門から一行が出てくる。服装も普段のような豪華さはなく、目立たないように最新の注意を払っているようだった。

反田たちの元へ到着すると、王女は開口一番、反田たちに謝罪する。


「申し訳ない!内部で調整が難航して!」

「いえ、お構いなく。時間的には余裕がありますので…」


反田はそつなく返答する。もとより余裕を持っったスケジュールを組んでいるし、国の立てる計画は遅れることが常なので、何も問題は無い。

むしろ気になるのは、王女の帯同者だ。


「…ああ。私以外にも何名か帯同することになった。大丈夫だろうか?」

「…ええ、”上”からは、王女殿下以外にも3名前後は増えるだろうと想定していたので、恐らくは問題ないと思います。」

「であれば、非常に助かる。では、参ろうか。」

「はっ!」


こちらも反田の言う通り問題ない。王女は安心した様子で、乗車準備を始める。

音谷が業務車4号のドアを開けて、王女に対して乗車を促した。

しかし、最初に乗ったのは王女ではない。王女は傍らにいるローブを深くかぶった老人を先に通した。


「さ、”ヴィッセ様”から…」

「う、うむ…これは珍妙じゃのう…」


老人は車両に乗るのが初めてなのか、少し困惑しているようだった。

この様子に反田は違和感を覚える。しかし、老人の顔はフードの奥で覗き込むわけにも行かず、明かりの乏しさに時間のなさも相まって、結局その正体まで理解は及ばなかった。



1時06分 埼玉県秩父市 白泰山検問所(王国側) 臨時通信拠点

「王都より、カーリン第一王女殿下一行をお連れしました!」


一行が到着し、反田一尉が報告する。音谷がドアを開けると、やはり最初に降りてくるのはフードをかぶった老人だ。続いて王女、そしてクロム卿が降りる。

3人の目の前には、大人の背丈程ある天幕が2つ連結されていた。自衛隊が指揮所として使用する業務用天幕(一般用)を使用している。


付近には自衛隊員の他に、霞が関から派遣されたと思われる役人が、それぞれの役所の防災服を羽織って走り回っていた。あたりは煌々と照明が焚かれ、王女たちは、初めて目の当たりにする拠点にやや当てられているような様子だった。


反田一尉に促され、王女たちは天幕の中へと入る。内部はさらに度肝を抜かれたようだ。見たことのない設備の数々、状況を示す液晶モニター。折り畳み机に、パイプ椅子…

反田一尉は、その様子にふと気づいた。そういえば、このような場に来た王国人はそう多くないことに。であれば、あられもない表情を浮かべるのも無理はないだろう。


程なくして、連結された奥の天幕から中田副大臣が現れた。中田は王女たちに近づく。それに気づいた王女は、再び遅れたことに対して謝罪を述べた。


「ナカタ様、遅くなり申し訳ない。人員の調整に時間がかかってしまった。」

「いえ、お構いなく…では早急で申し訳ないのですが、面通しをした後にすぐ事前打ち合わせを行います。」


中田は務めて穏便に話す。そもそも予定はまだ破綻していない。

ただ、事前に”こちら側の用語”などをある程度説明しておかなければ、円滑な会合が難しい。故に、その打ち合わせを入念に行いたいので、余裕があるとは言えなかった。


「えー、そちらは主席王宮政官のクロム卿ですね。ご無沙汰しております。」

「はい。ナカタ様とは初回の実務者協議以来ですな。」

「ええ、そうですね。」


王女との会話の後、中田はクロム卿と握手して挨拶を交わす。手短に終わらせて、あとは最後の人物だけだ。


中田はその老人と思しき人物の前に立つ。老人も、それに呼応して顔を上げた。すると、中田の頭上にある照明により、フードの中が光に照らされて、その顔をはっきりと認識することが出来た。中田はそれを見ながらお決まりの口上を述べようとして、視界に入った顔と自身の記憶が結びついた瞬間に、言葉に詰まってしまった。


「…さて、そちらは…え?」

「うむ、貴殿とは初対面じゃのう。よろしく頼む。」


完全に沈黙する中田。一方で、国王は全く意に介さずに彼と握手をしようとする。中田はそれを見て我に返り、老人の手を慌てて握った。

中田は動揺を抑えながら、老人の正体を確認するため、簡潔に質問をした。


「…も、もしや、国王…」

「……そうじゃよ?」


中田の質問に少し黙った後、さも当然のような雰囲気で返答した国王。

国王はその返答と同時にフードも取り、そこにいる全員が、彼の顔をしっかりと確認できるようになった。

国王の姿は、先日の王都での支援活動の様子が報道で流れたこともあり、大体の日本人が知っていた。もちろん、この場にいる官僚や自衛隊員が知らないはずもない。

結果、全員の時が止まった。国王が来るなんて、聞いていない。

中田の傍らにいる私設秘書は化物でも見たように目を見開き、彼らを案内した反田は違和感の正体にやっと気づき顔を伏せて唸った。


一番最初に気づいたため最初に正気に戻る事ができた中田が、かろうじて言葉をひねり出す。ただ、文章を構成するまではもう少し掛かりそうだ。

国王はその様子を楽しむかのように、さらに茶目っ気溢れる返答で場を和ませようとする。


「え、あ、その…」

「…すまんのう。急に押しかけたりして。」

「い、いえ!?滅相もございません。しかし…」

「以外、かの?まあ、儂は悪戯好きじゃからのう!」


朗らかに笑う国王を、再び思考が停止した中田は見つめることしか出来ない。ここにいる全員がそうだ。今この状況で、そんな気遣いはいらない。王女とクロム卿もほれ見たことかと国王に視線を送る。

流石に国王もふざけが過ぎたと感じ取り、短く咳払いをして話し始めた。


「さて、ナカタ殿。事態は切迫しておるようじゃ。すぐに事前打ち合わせを行おうぞ。」

「えっ!?あ、はい…」


中田はそれにそっけない返事を返すしか出来ず、ぎこちない様子で天幕の奥へと案内した。

国王が居なくなった天幕では、少しして正気に戻った者からそれぞれの業務へと戻った。そして、防衛省官僚の一人が、事務担当首相秘書官として内閣官房に出向している先輩官僚へすぐさま一報を入れた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。