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支援物資問題 ~高貴なお方~

15時26分


「…じゃあ、魔法の共同調査は1ヶ月後の開始を目標に準備をするということで…いい?」

「うん、大丈夫。」

「よし、えーと…健康調査、地質調査、建築物調査、魔法調査準備…調査研究に関する打ち合わせはこのくらいかな。王国側はなにかある?」

「いえ。特に無いわ。」

「そう、よし…じゃ、次は政治的な打ち合わ」

「会議中の所、失礼致します!ネルケ嬢がお見えになりました!」


久慈屋たちが中心となる分野の打ち合わせが終わり、頭の痛い政治的な話に移ろうとしたところだった。”衛兵”が部屋を訪れた。一人の女性を案内してきたらしい。

久慈屋は怪訝に思った。なぜ、この場に新しい人物が連れてこられたのか?

その女性はフードを被っており顔を見ることはできない…が、なぜか覚えのある雰囲気を纏っている。

もしや…ふとジルを見ると、久慈屋と同じ考えに至ったのか目線を送ってきた。

その間に衛兵は退出した。女性は一番”上座”の席へとまっすぐ進むと、こちらへ向きなおりフードを外した。その瞬間、リリーとアミナはすぐさま起立をする。それを見て久慈屋たちも立ち上がり、姿勢を正した。そして、礼儀正しい挨拶を行った。


「カーリン・エルン第一王女、ご無沙汰しております。」

「…ええ、クジヤ博士、そしてウィンストン博士も。」

「はい、我々のためにわざわざご足労頂きありがとうございます、王女殿下。」

「…やはり、ウィンストン博士のほうが”なめらか”ですね。」


そりゃあ、本物の貴族家出身であるジルと比べられたらたまらん。と思う久慈屋だが、そんな態度は全く表に出すことができない。眼の前にいるのは第一王女。国王の長女であり、現在は王政の実務責任者となっている正真正銘の権力者なのだ。

久慈屋が思う、対日本対応責任者の”適任”は彼女だ。なにせ、かなりのポーカーフェイスで表情を読むことは難しく、思考や判断は冷静沈着、そして的確な答えを出す。威を振りかざして利を取ろうとする荒手は使わず、事実と謀略を静かに巡らせて、最大限の実をもぎ取っていく。本物の政治家だ。

実際は、対日本に関する統括責任者は第一王女なのだろう。が、その立場故に、まだ遭遇してから1ヶ月足らずの国との対応を表立って行うのは不安要素が多いとされ、アミナが責任者となっているのだ。

…これは久慈屋の推測だが、概ね間違っていないだろう。

なにぜ、彼女がここに来るのに身を隠すようなお忍びの衣装を纏い、”通り名”まで用意しているのだから。

さて、少しはこちらも感づいていることを示したほうがいいかもしれない。

久慈屋は慎重に思案しながら、しかし大胆に言葉を続けた。


「…はぁ、このような対応は縁がございません。お恥ずかしい限りです。」

「いえ、お気になさらず。」

「さて、本題に入りましょう。”警備用の通り名”を用いてまでこちらにお伺いになるのは些か気になりますので…」

「…やはり、目敏いですね。いいでしょう。全員、楽にしてください。」


そう言いながらカーリンは座った。それを見たリリーたちは静かに腰掛ける。

さあ、面倒くさい話の始まりだ。まずは対策本部の件を伝える。


「では…我々から始めてもよろしいでしょうか?」

「そうですね。お願い致します。」

「まず、日本政府で王国対応を統括する対策本部が立ち上がりました。近日中に、詳細をご報告できると思います。」

「あら、それは吉報ですね。こちらも政治的な協議を早く進めたいと思っていました。」

「ええ、理解しています。それで、今後は日本国の役人を調査時に帯同しようと考えております。」

「そうですか。役人ということですが、どういった方たちになりますか?」


やはり来た。最初の実務者協議のころから、王国はやけに日本政府の体制を気にかける節がある。ただこれはいくらか合点がいく。一つに、相手の組織形態を知らないと何も対策が練れない。もう一つに、それらの関係を把握して対応を”円滑”にする。これは社会の常識的な行動理論であり、それは”双方の世界”で変わらないということだろう。

事前に副大臣に確認しておいてよかったと思いながら、久慈屋は返答した。


「まずは支援に関わっている中心組織である総務省、国土交通省、厚生労働省の役人です…具体的には、総務省は日本国の内務や通信…情報伝達技術を、国交省は国土の管理や開発それに交通を、厚労省は医療や労働環境などの管理を行っています。」

「なるほど…支援物資の調達は総務省、輸送体制構築は国土交通省、医療支援が厚生労働省というところですかね。」


カーリン王女は組織名と簡易的な説明だけで、支援活動の”管轄”をほとんど言い当てた。やはり彼女の能力は頭一つ飛び抜けている。これは地頭の良さに加えて”国家運営”の実務を取り仕切ってきた経験ゆえのものだ。これは頼りにしたいが、侮ってもいけない。


「…ええ、大まかにはそうなります。あとは、外交関係の維持構築のために外務省も訪問を希望しております。」

「それは我々としてもお願いしたいですね。将来的には条約締結の必要もあるでしょうし、そのための準備は早いに越したことはありません。」

「では、訪問は問題なしということで?」

「はい。」

「承知しました…では、何時にしましょう?最短で次回調査時には対応可能です。」

「そうですか…リリー、次回調査は?」

「3日後です。」

「なら大丈夫でしょう。こちらも人員を揃えます。もちろん、定期的な実務者協議への道筋をつけることを目標としますので。」


まずは最初の議題が完了。これはうまくまとまった。久慈屋たちも、調査時の役人帯同に関してはつつがなくまとまるだろうと思っていた。難しいのは次だ。


「ご協力感謝致します。政府も喜びますよ。さて、続いてなんですが…他領訪問についてです。」

「はい。それも早期に実施したいと考えております。ただ、それには日本国の協力が必須となります。」

「それは問題ありません。むしろ、王国が全面的に協力していただけるのであれば、日本国は協力は惜しまないという立場です。」

「そうですか…」


カーリン王女の口が重くなった。リリーやアミナもワケあり顔をしている。予想通りの反応を前に、久慈屋は本質に正面から切り込むことにした。


「やはり、問題があるのですね?」

「お気づきになられてますか…」

「いえ、有事には謀略はつきものです…が、実情はかなり逼迫してるようですね?」

「…全てお話しましょう。」


カーリン王女は現状を話し始めた。その内容は、集積所で入都審査を担当していた兵と、久慈屋たちの予想を裏付けるものだった。

つまるところ、お膝元が危うい状態で、王政の中枢にいる人物が他領訪問のために留守にすると、何が起こるかわからないということだ。


「…という状況ゆえ、私はもちろん、王宮政官もすぐに王都を出ることができません。しかしながら、他領に日本国と協力する王宮令を発布するには、認定されたものしかできません。」

「なるほど…」


他領訪問には、異世界の他国のど真ん中に散り散りに出現した王国民たちを速やかに安心させると同時に、王国領が不測の行動を取らないためにも国王が発した”日本国との協力体制構築に関する王宮令”を発布する必要がある。が、その王宮令を発布できるのが、国王と王位継承順位第3位までの王族、国王の側近である王宮政官のみと定められている。国王の権威と権力を保持するために、その”お言葉”を丁重に扱う体制を築いていたが、有事の今はそれが足かせとなっている状態だった。その説明が終わる頃、流石に王女の前ということで自重していたジルが発言した。


「…王女殿下、一つよろしいでしょうか?」

「ウィンストン博士、なんでしょう?」

「そちらのリリー嬢を指名しては?彼女は王国の重要人物ですが、立場上は政からは距離があります。さらに、彼女のウェスト伯爵家現当主は、国王陛下の盟友と聞いております。名代としては十分かと…」

「もちろん、それも考えました。」


そこで王女は発言を止める。これは言いよどんだのではなく、”察してくれ”という意思表示だろう。

この案は最適解ではないかと久慈屋も思えた。しかし、それさえも難しいということは、予想以上に状況が悪いということを示す事になってしまう。ジルはあえて、空気を読まずに話を進めた。


「僭越ではございますが、”ある程度の発言力を担保した人間”の適用範囲拡大というのは、”前例を作る”という点では確かに憂慮する所が多いかと存じます。しかしながら、王国という”国体”を考えた場合、”ご決断”をされたほうが、事態も好転する可能性が高いでしょう。」

「…」

「…」


ジルの踏み込んだ発言を黙して聞く王女。その表情は硬い。

これは明らかに異常事態だ。最適解を取れない状態というのは全くもってよろしくない。

さて、ここは更に踏み込むか、一度下がるか…思案を巡らせる久慈屋の横で、ジルは軽々と一線を超えた。


「王女殿下、残念ながら全てはお話いただけていないようですね?」


19/1/27;体裁修正、語句修正

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