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他領訪問~北方領~ 愛国的な振りをする野心家

5月13日 10時46分 青森県三沢市 航空自衛隊三沢基地(三沢飛行場)

「いい年こいて、”ピクニック当日の6歳”見たいな騒ぎ方するからだろ…」

「…ピクニックってなに!?ともかく、尻尾はやめて!やるなら事前に言って!」

「わかった。”善処”する。」


”何事もなく”三沢へ着陸し、U-4を降りた久慈屋たちは目的の北方領がある陸奥市へ向かうヘリを待っていた。

しかし、アミナは先程から引き続き抗議の声を上げていた。

主に久慈屋が行った”お仕置き”に対して。

執行した久慈屋自身も少し驚いたが、思いの外”急所”だったらしい。

アミナは未だに自身の尻尾を手で擦っていた。

ただ、久慈屋は表面上理解した体を示しているが、ほとんど悪いとは思っていない。

それどころか、”滅多に乗れない車に乗せられて、テンションがおかしくなる落ち着きのない大型犬”と形容しなかったことを褒めてほしいとさえ思っている。

久慈屋はそれなりに頭にきていた。


「で、久慈屋さん。機内でできなかった話を…」

「え?ああ、はいはい…じゃあ、”北方領”の情報でもすり合わせますか?」

「そうしましょう。野原室長もいいですね?」

「ええ。」


そろそろ久慈屋たちの茶番を受け流すということを覚え始めた圃場が、”ちょっとした騒動”により進めることが出来なかった”簡易ブリーフィング”を行うことを提案する。

久慈屋も異論は全く無い。もちろん、この事態に一切関与しようとしなかった野原も同じだ。

未だにメソメソするアミナを宥め、4人で話し始めようとしたときだった。


「Mr.K(・)u(・)j(・)a(・)!」


どこからともなく呼びかけられる。

敬称と呼び名から、おそらく久慈屋が目当てだろう。

久慈屋たちは声のする方向を見る。そこには、おろしたてのように綺麗な軍服に身を包んだ長身で筋骨隆々な白人男性が、秘書の若い…おそらくラテン系…兵卒を引き連れて悠然と歩いていた。

もちろん、彼らはこちらへ近づいてくる。


「…”お客”のようですね。」

「みたいですね。嫌な予感しかないけど…」

「…”サプライズ”というやつですかね。」

「いりませんよそんなの。」


圃場が冗談めいた発言をする。彼も結構余裕が出てきたようだ。

ただ、その冗談を言われた相手である久慈屋はあまりいい表情をしない。

こんな状況でわざわざ会いに来るなんてろくな話じゃない。

それは、圃場も野原も勘付いていた。正直言って、軍人らしい行動じゃない。

軍規的にギリギリアウトだろう。

そんな久慈屋たちの感情をよそに、彼らはその歩みを止めない。

仕方がないので受け入れる方向で対応するしか無い。

アミナは、すでに被っているフードをさらに深めにしてもらい顔を見えづらくして、野原にその対応を任せて少しだけ遠ざける。

そして、軍服の彼らは久慈屋の眼の前まで来ると、綺麗な姿勢からお手本のような敬礼をして話し始めた。ただ、久慈屋は少々無礼な攻撃を先制する。


「初めまして、クジャ博士。私は司令のサリン」

「あー、通訳いりませんよ。ご存知ですよね?」

「…わかりました。直接話しましょう。」

「すいませんね、”時間が無いので”。」


久慈屋の言うことは事実だ。なにぜ、彼は向こうの大学に行っていた。

そこで今日至る”日常”をスタートさせたのだから…こんな日が来るとは思っていなかったが。

もちろん、それは彼らも周知の事実だろう。なにせ、久慈屋たちのその”日常”の中で、世界中の公的機関とも関わりを持っている。もちろん、米国政府や米軍も含まれる。ということは、久慈屋の”FBIファイル”くらいは絶対存在してるだろう。それ以上(NSAファイル)もあるかもしれない。

もっとも、三沢に入る時点で身元を保証する情報が行っているはずだ。ここは米軍基地でもある。


「米空軍三沢基地第35戦闘航空団司令のサリンスキー大佐です。」

「…日本高度素粒子研究所所長の”クジヤ”です。」


改めて、二人は直接自己紹介を行う。久慈屋の感情を隠そうともしない非礼にも、サリンスキーは一切動じていない。というより、ちょっと楽しんでいるような雰囲気もある。

予想通り、この人物は”堅物の軍人”ではなさそうだ


「今回、日本の”異次元事象”対応で三沢にいらっしゃるとのことで、一度ご挨拶したいと思いまして…」

「それは、わざわざご足労頂きありがとうございます。貴国でも、”対応”には相当苦労されていると聞き及んでおります。」

「ええ、全くです。私は愛国者です。故に、遠い異国で任務に就いているとはいえ、この自体には挙国一致でことに当たらないといけない考えております。それで…」


Another Dimension Effects…欧米では、一連の現象は”ADE”で名称が固定されつつある。米国でも同じで、帝国に関する対応を行うタスクフォースは”WADE-T”と呼ばれているらしい

…非公式なルートの情報なので、情報源は伏す。

サリンスキーの言葉は、そのような事態に米国人として何らかの協力をしたいという内容で、その上で久慈屋や、”王国”とのパイプを築きたいということだった。

…この人本当に軍人だろうか?先程から、その雰囲気が全くしない。

この人の言い方はまるで…

ある考えに至った久慈屋は、さらに”強い攻撃”を彼に与えることにした。


「…なるほど。お会いしたいですか?」

「よろしければ、是非。」

「…少々お待ちを。」


サリンスキーに断って、少し離れたところで息を潜めているアミナの元へと向かう。

アミナも近づく久慈屋に気づき、彼の言葉を聞いた。


「アミナ、”姿を見せていいぞ”。」

「え?大丈夫なの?」

「恐らく、彼は大丈夫だ。いい”コネ”になるかもしれん。あ、”パンチ”打ってもいいぞ?」

「えー、そういうの苦手だって知ってるでしょー…?」


久慈屋は、彼女に簡単な仕込みを行う。それは、一介の軍人レベルには伝わっているか怪しい情報を、発言に織り交ぜることだった。

日本と米国の関係、王国と帝国の関係。そして、彼らの言う”ADE”を踏まえた上で、それらをどう纏めるのか、そして、どう協力してくのか誠意努力するという上辺的な会話を考える。

野原も少しだけアドバイスを行い、その口上に説得力をもたせてくれた。

そして、久慈屋は”挨拶を始めるまでフードを脱ぐな”という注文をつける。

アミナは少し疑問を示しつつも、それを了承した。

準備の終わった久慈屋とアミナは、サリンスキーの元へと近づく。

そして、久慈屋はアミナを紹介した。


「…おまたせしました、彼女が日本に現れた”王国人”です。」


久慈屋の言葉を合図に、アミナがフードを勢いよく脱いだ。その瞬間、サリンスキーの表情は凍った。

彼の秘書であるラテン系の兵卒なんて小さく悲鳴を上げている。

そりゃあ、初見には彼女の”狼顔”は驚愕するしか無いだろう。

アミナはこちらの世界の人間のこういう反応に大分慣れていたので、気にせず自己紹介を行い、久慈屋たちの考えた台詞を読み上げた。


「初めまして、アミナ・フェルデンと申します。」

「…えっ、あ、さ、サリンスキー大佐です。」

「貴国には我が国と敵対していた帝国が現れたと聞いております。しかし、貴国と”王国”が現れた日本とは同盟国とも聞いております。故に、お互いに事態の解決に向けた弛まぬ努力を行って参りましょう。」

「そ、そうですね。一個人としても、賛同致します。」


予想通り。しどろもどろだ。

これでこの会話において、彼らが主導権を握ることは絶対になくなった。

見ろ、あの落ち着きのない目線を。

久慈屋はこれ幸いと話を切り上げることを提案した。


「…では大佐、申し訳ありませんが予定が立て込んでいますので。」

「え、ええ!こちらも突然の訪問で失礼いたしました。」


久慈屋の要請に、サリンスキーも慌てて頷く。動揺が収まらないて分が悪いと判断したようだ。

今度はやや焦り気味な敬礼を返して、秘書ともども足早にその場をあとにした。

…去り際に、自分の連絡先を書いたメモを渡すを忘れないあたり、抜け目はないようだ。

去りゆく二人の背中を見ながら、久慈屋はアミナに言葉をかける。


「…上出来だ。」

「なんとかね…ねぇ、私の姿で面食らわせるために、わざわざ見せろっていったでしょ?」

「ああ。だからうまくいったろ?」


久慈屋はこれみよがしな手振りでアミナに開き直る。

アミナは、多少不満があることを表情で訴えた。

狼人は、狼扱いされるのは少し好きではないのだ。

しかし、”時間がない”というのは紛れもない事実。久慈屋たちは急いでヘリが駐機さている場所へ向かう。その道中、久慈屋は圃場に例の軍人の話を聞いた。予想は付いているけど。


「圃場君、サリンスキー大佐の素性は?」

「39歳で大佐に就任した気鋭の軍人で…イリノイ州知事の長男です。」

「ああ、あの。もう直辞めるという話ですね。」

「…父親は2028年を目指して、息子は後を継ぐと…」


圃場の情報に、野原が追加情報を加えて、久慈屋はその裏側を全て見通す。

よくある話だ。父親は68歳で、政治家としてはあと1回大仕事をできるかどうかという年齢だ。

であれば、大統領を目指すのは不思議じゃない。ただ、二期努めた州知事の仕事も投げ出せない。よって、息子であるサリンスキー大佐にそれを託そうとしているという内容だ。

次の大統領選挙は2028年。準備には2,3年かかるから、今は辞職準備中だろう。

彼は軍人としては大佐にまで上り詰めている。ここで今世界的にホットな話題に関わることができれば、彼の履歴書に箔がつく。州知事選挙は愚か、未来の国政選挙にも非常に役に立つだろう。あの愛国的発言もそのための”演説”に近い。

だからこそ、軍人らしさを感じなかった。あれは、愛国者というよりただの”野心家”だ。


「つまり、どういうことなの?」

「父親と自分の将来を補強するために、この問題を通じて”功績”と”コネ”を作りたいんだよ。」

「…うへぇ…」

「面白いだろ?俺らの世界。」


こちらの世界の”システム”が理解できないアミナは、久慈屋の判りやすい説明に嫌な顔をする。

彼女は平和な学者タイプで、政治的な駆け引きに苦手意識を持つ。

久慈屋はそんな彼女に理解を示す手振りで答えた。



ヘリのローターが駆動を始め、あたりに暴風と轟音が巻き起こる。

…また、打ち合わせができなかった。大丈夫なのだろうか?



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