米国騒乱 ~事例:アマリロ~ 2
15時58分
「いいぞ!出せ出せ!」
CH-47が轟音をまき散らしながら宙を舞う。非戦闘員一行を乗せている。
離陸を確認した兵卒2人が、轟音の合間を縫うように大声で話していた。
「最後の非戦闘員だ!」
「大佐に報告!」
避難対象が全てこの地を離れた。これは作戦のフェーズ移行を示す。兵卒の一人は先任大隊長のいる指揮所テントへと走った
16時14分
16時8分に、アマリロに進軍する帝国一派への迎撃作戦が開始された。開始と同時に攻撃ヘリアパッチ4機が速やかに離陸。10㎞を数分で移動し、帝国の軍勢と対峙した。
攻撃は、まずアパッチで敵の機甲車両と思われる対象と、一部敵兵を排除。その後アパッチ部隊は後退し、M1129ストライカーなどの砲兵力でさらに打撃を加え、歩兵部隊を最後に前進させ敵を完全無力化するという段階に分かれている。
アパッチ4機は編隊を崩さず、静かにその照準を合わせる。
全員がその時を待った。
「撃て!」
号令と共に射出されたのは対地ミサイルだ。ミサイルは一直線に帝国の軍勢中央まで飛翔し、機甲車両と思われるものに当たると同時に炸裂。大爆発を起こした。
ミサイルの射出はなおも続けられ、敵の進軍は明らかに止まった。
「効いてるな!」
「ああ!あの得体のしれないヤツもここまでは届かないらしい!」
アパッチ隊の隊員は、その様子に確実に手ごたえを感じていた。先ほどから照明弾のような軌跡が帝国の軍勢から出ているが、アパッチの位置までは明らかに届いていない。
「そのまま撃ち続けろ!」
「くらいやがれぇえ!」
確かに効果を上げている攻撃に、アパッチ隊の面々は興奮状態になる。さらなる攻撃を、打撃を与え、得体のしれない敵を退けるんだ、と。相手の打撃も届かないのであればなおさらだった。
「もう少ししたら後退するぞ!あとは砲兵に任せるんだ!」
アパッチ隊の責任者が全体に号令を出す。全員が戦闘にのめりこみつつある状況を是正しようとしていたのだ。そのうち、一番若い隊員が徐々に前に出始めた。それを見た他の隊員が、なんとか復旧した無線で注意を促した。
「フランク!下がるな!近すぎるぞ!」
「大丈夫だ!奴ら反撃できないんだよ!」
フランクはさらに前に出る。それと同時にミサイルを撃つ。当たれば必殺の攻撃は麻薬のようだ。だが相手に変化が出てくる。広めの間隔で散らばっていた軍団が、徐々に密集し始めたのだ。そしてそれは徐々にある形になってくる。円陣だ。
その中心には、機甲車両が複数台固まる。
「…なんだ?」
かなり近くにいたフランクは、その様子が手に取る様に見えた。陣形を築いた帝国の軍勢は、微動だにしなくなった。しかしよく見ると何かを祈りを捧げているような態勢を取っている。しばらくすると、陣形全体が発光を始めた。
「ぜ、全隊!距離を取れ!」
アパッチ隊の隊長は号令を出す。何せ相手は得体のしれない魔法を使役する。どのような攻撃が来るかわからない。実際、最初に電子機器に異常をもたらす光を放たれているのだ。
「フランク!距離を取れ!」
「あ…り、了…」
一番突出していたフランクは、その発光に目を奪われて行動が遅れた。やっと正気に戻った彼は、後退する行動をとる。だが、帝国の方が動きが早かった。
発光がひときわ強くなったかと思うと、円陣の中心にあった機甲車両の砲身が真上を向く。そのまま大量の赤い霧と共に何かを数発射出してきた。
「おいなんだありゃ!」
「なにか飛んできたぞ!?」
射出されたものは赤い霧を尾に引きながら、徐々に黒い霧へと変化する。赤と黒のグラデーションの霧をまき散らしながら、宙を右に左にと飛び交いだしたのだ。
そのうち2つの塊が、後退しようとしていたフランクのアパッチに近づく。
「う、うわぁああ」
「フランク!」
フランクのアパッチは2つの赤黒い霧に絡みつかれた。フランクはパニックになりながらもなんとか飛行体制を保とうとする。だが、無線で聞くその音声の背後には桁た魂アラーム音。機器に異常が出始めているようだった。そのうちきりもみ状態になり、フランクのアパッチは高度を保てなくなり始めた。
アパッチ隊の面々はフランクを助けようと思考を巡らせる。だが、帝国はさらなる手を下す。赤黒い霧がさらに複数射出されていた。それが向かう先はもちろん…
「…こっちに来るぞ!?」
16時27分
「おいどうした!?」
「わ、わかりません!アパッチ隊が混乱しているようで…」
「くそっ!偵察兵で状況を確認しろ!」
最初は効果を見せていたという報告が上がってきていたが、相手が陣形を築いているという報告を最後に状況が変わった。たまに入る無線は混線と怒号と悲鳴が入り混じり、状況が判然としない。
大隊長は目視による偵察に切り替えた。そして指揮所テントから飛び出す。自身の目と耳でも状況を確認したいという考えからだった。テントから出た直後辺りを見回す大隊長。その視線はアパッチ隊が居るはずの方向に向けられた。
しばらくすると、低い重低音があたりに響き始める。大隊長は怪訝な表情を浮かべた。音の発生源を注意深く見ると、黒い点が現れる。そしてそれは徐々に大きくなり、その姿を現した。
「た、退避!」
空を舞う力を無くした鉄の箱が、指揮所のあるエリアまで舞い戻る。だが、その速さは着陸するものではなかった。地面にたたきつけられたそれは、爆炎と共に鉄くずへと変わった。
「…アパッチが落とされた…?」
爆炎に包まれたアパッチを、呆けた顔で見る大隊長。状況の飲み込みに時間がかかったが、今のこの光景が何を表すのかを理解した瞬間、彼はすぐに叫んだ。
「ほ、砲兵だ!砲撃をしろ!」
「大佐!まだアパッチ隊が…!」
「全滅だ!敵を減らすことを最優先にするんだ!じゃないと…」
先陣を切ったアパッチ隊が倒される。それは作戦の骨子が崩れてしまったということだ。このままでは、地上部隊が脅威にさらされる。
しかし大隊長のもとに悪い知らせが届く。一人の隊員が彼の元に駆け寄ってきた。
「報告!歩兵が戦闘開始!」
「遅かったか…!」
地上部隊との交戦開始。すでに戦線を維持できる機会を逃しつつあった。
16時55分
「A班信号途絶!」
「D班被害甚大!後退中!」
「くそがっ!」
大隊長は指揮所の机を叩きつける。戦線はすでに崩壊し、防衛さえもままならなかった。
「…退だ…」
「…えっ?」
「撤退だ…アマリロを放棄…!」
大隊長のふり絞るような言葉。憤怒と悔いに満ちたそれを、他の隊員は悲壮感を持ち受け入れる。
17時02分。アマリロ前線指揮所は放棄された。




