米国騒乱 ~事例:サンタ・ローザ~ 3
15時49分
「…そろそろだろうな。」
マーティンたちは、サンタローザの東端に集結していた。彼らが陣取る州間高速道路40号線上には、先の”光の壁”により故障した近隣の自動車やトラックを寄せ集めた即席バリケードが出来上がっていた。その合間には、これもかき集めた銃火器を装備した警官、州軍、退役軍人など様々な顔ぶれが揃う。
彼らの作戦は”追い込み漁”だ。40号線の下をかつてのフリーウェイであるルート66が通るジャンクションが、東から訪れるであろう”お客様”をおもてなしする”置き網”となっている。体よく道路を通って彼らが来るのかどうかだが、もし彼らが体系的な軍事行動をできるのであれば、”行軍しやすい順路”を必ず選択する。これは古来からの軍事教義であり、40号線はうってつけと言える。
マーティンはジャンクションの置き網周辺に待機していた。傍らにはマッケンジーも控える。バリケードとして配置された自動車やトラックの合間には、即席防衛隊の面々がしっかりとその時を待っていた。
「信号確認!」
信号弾が先ほど上がる。それはお客様が来たことを示す、”赤”だった。
誰かしらが信号が上がったことを大声で叫ぶ。すると、背の高いトラック上に陣取った偵察担当が、望遠鏡やガンスコープでその方向をくまなく見ていた。
彼らの主な情報伝達手段は、無線が使えない今の状況では、伝令とハンドサインと信号弾に頼るしかない。伝令は配置点間の伝達、ハンドサインは配置点の少人数で、信号弾は全体向けだ。
マーティンは信号弾が上がったと同時に偵察担当の元に向かっていた。指揮する人間は最寄りの偵察担当に状況を聞く、そこから一人ずつ伝令が配置点に向かい、状況と指示を伝える。こうして統制を取ろうとしていた。
「どうだ?見えるか?」
「…確認しました。8名です。」
「…8名?グループ|班|か?」
偵察担当のスコープに映る若干の砂煙が上がる砂漠地帯の道路の奥。
そこに少しずつ”点”が見えてきた。その点は直に大きくなり、スコープの等倍を整えると完全な人型になった。お客様だ。
ただ、マーティンはその人数に疑問を覚える。彼は少し考えて、こちら側の状況をまとめる。
「こりゃあ、本隊は東に行ったのかもなぁ…」
「テキサスは厄日ですね…」
「俺らには絶好の機会だ。」
マーティンたちは少し笑みを浮かべた。少人数であれば、対処は大分楽になる。
こちらは寄せ集めと言えども30名は配備している。相手は8名、得体のしれない魔法なる気味の悪い特技はあるが、先手必勝なら…
「各員、十分にひきつけろ…」
彼らは置き網に近づく。そして、ひときわ大きなトレーラーのバリケードの近くに来た。このトレーラーには拡声器が張り付けられていて、武装解除と敵意が無いことを示す行動をとることを、録音で繰り返し流していた。
風のうわさで、彼らには”言葉”は通じる。つまり、この録音から流れる内容は理解できるはずだ。それに対する対応で、彼らがどういうお客様か判別できる。
マーティンは長年の勘で悪い方向に行くだろうと考えた。そしてそれはすぐに答えが出た。彼らは拡声器を、手からだした閃光で破壊したのだ。録音内容には敵意を示した場合はすぐに射撃することも断りを入れてた。
マーティンはその様を偵察担当から聞くと、大声で叫んだ。
「撃て!!!」
いやに静かな周辺にマーティンの声が響き渡る。その後、情報伝達が原始的な状態の即席防衛隊にしては早い反応により、一斉射撃が始まった。
マーティンはそれを確認すると、全速力で自分の持ち場に戻る。傍にはマッケンジーがすでに射撃を開始していた。彼が使用するのは、”フンコロガシ”印のアサルトライフルだ。
「負け犬売人が持ってた武器にしては良い具合だなぁ!」
「全くだ。あいつは真っ当に生きればそれなりだったろうに!」
マーティンも自動小銃を打ち始める。彼らが使う武器は非常に快調に動いていた。あのフンコロガシは、手入れと目利きはそれなりにできるらしい。警察官である彼らは、才能の無駄遣いを嘆きながら敵に鉛玉の雨をふらせていた。
最初は多少の反撃があった。反撃には何名か負傷者が出てしまったが、しばらくするとそれもなくなった。そのうちマーティンたちが放つ銃弾が跳ね回る音だけが響くようになり、さらに経つとマーティンたちの弾薬も少なくなり始めた。
それを認識したマーティンは、周りに聞こえるような大声で再び叫んだ。
「撃ち方やめ!止めろ!」
散発的な発砲がしばらく続き、射撃停止命令が全体にいきわたるとそれも止んだ。
マーティンは先陣をきってバリケードの先に進む。その後にマッケンジーたちも続いた。
”悪いお客様”たちは見るも無残だった。敵意を見せたばかりに、辺りは血糊が飛び散り、あまり見たい光景ではなかった。
「…さすがに耐えられんか。」
「ええ。やりましたね。」
「やらなきゃやられる。先手必勝だよ。」
マーティンは無表情に、マッケンジーに話しかける。それにこたえるマッケンジーは、なぜかどこか誇らしげだ。それをみてマーティンも、この攻撃の意味をしっかり説明する。ただこれは、過剰な攻撃を加えたのではないかという意識を紛らわすためでもあった。
「こちらに1名確認!死亡してます!」
「こちらは2名!同じく死亡と推定!」
各員がお客様だったものを入念に確認していく。ただ、激しい攻撃に耐えられるわけはなかった。
「ちとやりすぎたかな?」
「寄せ集めとはいえ射撃の雨霰…私達の世界でも防弾車あたりが無ければ…」
「…取り調べのために一人は残しとくべきだったなぁ…」
マーティンはさすがにやりすぎだったことを言葉にした。相手がアレなので過剰攻撃は多分さておいていい。ただ、1人も生存者がいないと、あとの処理が非常に困る。
被疑者全員死亡というのだけでも、警官的には結構骨が折れる報告が発生する。
それに、情報が一切上がってこないと、この事態に対応する他の米国人の役にも立てない。
マーティンが攻撃後の静かな興奮状態から醒めつつあると、生存者確認をしていた人員が突然叫んだ。
「…こ、こちらに1名!息があります!」
全員が一斉に声の方向に走り出す。マーティンもその人の流れに続いた。程なくして唯一の生存者のもとへと付く。その様相はあまりにも精算だった。
手足や頭部が千切れかけているほどの激しい銃創の遺体が2つ。その下に、虫の息の男がうずくまっていた。全身血まみれだが、多くの血液は上に被さっていた遺体のモノだろう。
遺体をどかして生存者の容態を入念にチェックする。目は空いているようなので、意識はあることはわかる。ただ、よく見るとそれなりに負傷しているようだ。
マーティンは容態を確認する人員に確認を取る。
「どうだ?助かるか?」
「…銃創は多いですが…仲間を盾にしたのか致命傷を避けてますね。失血がやや多いので確実とは言えませんが…」
「なんとも…執念を感じるな…」
ズタボロの亡骸2つの下にうずくまっていた理由に、マーティンはしかめっ面を浮かべた。仲間を肉壁にして自分は生存。彼が高位な存在で身を張って守られたのか、守る様に命令したのかは分からないが、いい印象は決して抱けなかった。
「警部、車両は出せるか?」
「ええ。アルバカーキまで引っ張ってテキトーなERに放り込みましょう。」
マーティンは気を取り直し、マッケンジーに生存者の搬送を依頼する。負傷度合いは大きいが、すぐに死にはしないだろうことが確実だ。であれば、命は助けて、知っている情報を洗いざらい吐き出してもらうのが最善だろう。
マーティンとマッケンジーは搬送の段取りを話し合う。貴重な生存者の取り扱いには細心の注意を払うには必要だった。周りも予想外な迅速の対応に、少し緊張感が緩みつつあった。
その時だった。
「お、おい!動くな!!」
マーティンは突然の叫びにその声の方向を見やる。すると、生存者が生まれたての小鹿のような体制で立とうとしているではないか。銃創は足に多く見られるため、膝立ち体制になるだけでも相当な痛みがあるはずだ。
マーティンたちはその様子を黙ってみているしかなかった。なによりも、彼はなぜ立ち上がろうとしているのか?思考を巡らせている間に、生存者は自身の足で立ち上がり切った。すると、全身に力を籠めるように唸り始めた。
次の変化はすぐに訪れた。彼の体から血が一気に噴き出してきたのだ。目、口、鼻、傷口…体内の血液量からして、全ての血液を絞り出しているようだった。
そして、目と彼のチョーカーにはめられた宝石が赤黒く発光を始める。その後、ぐるりと顔を上げた彼は、満面の笑みを浮かべていた。マーティンはそれを見て一気に危機感が跳ね上がった。この男は何をするつもりなのか?
笑みを浮かべて数秒もしないうちに、生存者から吹き出していた血が一斉に霧状に霧散し始めた。
「この赤い霧はなんだ!?」
生存者から出てきた赤い霧は、一気呵成に拡大を続ける。しかも、その霧に包まれた彼の仲間の死体からも、同じように血液が吸い出され霧状へと変化していた。
赤霧の拡大は急速で、マーティンたちは霧の縁に沿うように後退を始めた。
「…まさか…!」
マーティンはこの霧が何をするために出現したのか…その1点が気になっていた。そこで思いつくのは軍が壊滅した謎の大爆発だ。今赤い霧は、縦横15m程度には拡がっている。マーティンが一番危惧するのは、この霧全体が”爆発力のあるモノ”だった場合だ。可燃物や爆発物は、大きさによってその威力を爆増させることができる。それを利用しているのがMOAB…燃料気化爆弾だ。この大きさであれば、その破壊力は…
マーティンは一気に血の気が引いた。その後、渾身の叫び声で命令を伝えた。
「逃…!」
だが、その言葉を言い切る前に激しい閃光が辺りを包んだ。マーティンが見た最後の記憶は、大型トレーラーが枯葉のように舞い上がりながら炎に包まれる光景だった。




