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米国騒乱 ~事例:サンタ・ローザ~ 2

14時56分

サンタローザに戻ったマーティンたちは、非常に迅速に行動を開始した。まずは市警察の中にある装備を片っ端からかき集める。さらに、署内に留まっていた警官たちには、民間人の避難を最優先で行うように檄を飛ばした。

しばらくして、銃火器や防弾チョッキなどの装備が集まるが…心もとない。そこでマーティンは一計を案じる。いくつかの”搦手”だ。ここは銃と星条旗をこよなく愛する、自分たち”だけ”が、正当な米国人と思い込む人間の坩堝である”バイブル・ベルト”の西端。上からの指示もなく、指令が降りてくるはずもないこの状況は、老練な彼の独壇場と化した。


第一の搦手は非常に簡単な方法だった。皺ひとつない大きな星条旗を掲げる家屋に行き、避難をするようにまず話す。次に、この言葉と共に武器の提供を依頼する。


”米国に楯突いた異世界人が攻めてくる。反抗作戦を行うから持っている銃を貸してくれないか?”


米国の敵、それは”外”の人間、そして愛する銃で国を守る。

NRAの会員証を勲章と思う彼らにとって、この上ない要素が散りばめられたお願いだろう。

全員が2つ返事であらゆる武器を差し出してくれた。中には、民間人が携帯するには少々”問題のある”ものをまであったが、現状では気にするべきではなかった。

人員に関しても多少の充足があった。退職した警官や保安官、退役軍人が助力を申し出てくれた。今や彼らは民間人だが、マーティンを始めとした何人かは、彼らの身のこなしや意志を確認して、”自由意志”として参加を許可した。

…”自由”というのも、この地域の人間の、キリストの次に盛んな信仰と言えるだろう。


さて、マーティンの搦手はもう一つある。それは、”ならず者”を使うことだった。

荒野とルート66の残骸くらいしかないこの町にも、悪人を自称する阿呆はいる。

大体は使い道はなく、警官たる彼らの雑務を増やす程度にしか影響を及ぼさないが、この状況ではそうとも言えない。

例えば、彼らが今突入しようとしているボロ家に籠るのが最たる例だ。

マーティンとマッケンジーが扉の両側に立ち、マーティンの合図と同時にマッケンジーがドアをけ破った。

マーティンが恰好だけのクリアリングをしながら中に入る。みすぼらしい玄関から少し進んだところにあるリビングに置かれたぼろぼろのソファの奥から、やせ型で短髪の白人青年が顔を出して声を上げる。どうやら彼は、マーティンたちの突入に”相当驚いて”、咄嗟に身を隠したようだ。まるで小動物のような行動だった。


「マーティン!?」

「よお。こんな時だってのに、まだ居座っていたか?」


マーティンはソファの傍で怯えつつも虚勢を張る青年の傍までよる。マーティンのような手練れの前では、彼がどのような態度を取っても一笑に伏して終わるだろう。

そんな2人を見ながら、マッケンジーはマーティンに念のため確認を取る。


「警部?…彼は…?」

「ここら辺を縄張りにしてる薬の売人の雑魚だ。」

「ざ、雑魚ってなんだ不良の老いぼれ警官が!俺はユアレス・カルテルの稼ぎ頭だぞ!?」

「な?聞いたこともない組織の犬だとさ。名前はフンコロガシだ。」


マーティンの”煽り”に青年は憤慨するが、マーティンは一切意に介さない。彼がまともに相手をするほどし強かでもなければ、暇もないからだ。

だが、雑魚の名の通りそれを理解できない青年は、必死にマーティンより上手に立ち回ろうと足掻いていた。マッケンジーでさえも、その様子を見て彼が大したことのない悪人であることを認識して警戒を解いた。

しばらく青年の悪態に付き合ったのち、マーティンはあくどい作り笑顔から、鋭い眼光を光らせる真面目な顔に一瞬で表情を変えて、青年に”お願い”をした。


「ま、冗談言ってる暇はない。いいか?ここに今敵が迫りつつある。」

「て、敵?」

「ああ。異世界からの観光客だ。さっき軍の小隊を吹き飛ばしやがった。」

「はぁ!?」


青年は明らかに狼狽する。軍に攻撃できる奴らはただものじゃないと、彼の稚拙な知能でも理解できたからだ。一方マーティンは、彼の心情など一切汲まない。淡々と話を続けた。


「だから、お前が集めてるサビた武器全部出せ。ここで奴らの足止めをするために。」

「…じ、じゃあ!弟を釈放しろよ!きたねぇ手使ってしょっぴきやがって!」

「んー?…まあ、善処しよう。」


やけに演技臭い表情を浮かべ、手を口元にあて首をかしげるという、これまたワザとらしい動きで答えたマーティン。明らかに嘘だが、青年は信用してしまったようだ。

彼は黙って立ち上がり、ソファの傍らに無造作に置かれたスツールの裏に張り付けてあるサビたカギを引っぺがす。

そしてそれをマーティンに投げつけた。


「…裏の物置!持ってけ!」


マーティンはそれを難なく受け取る。そして一瞬口角を上げた作り笑顔を浮かべると、再び真面目な表情になり青年に言った。今度は先ほどまでの態度とは違う、諭すような物言いだった。


「よし。お前は逃げろ。アルバカーキまで行けば避難民扱いだろうよ。」

「な!?お、俺はDEAに目付けられてるんだぞ!?都会に行ったら…」

「知るか。死ぬよりマシだろう。」


青年は色々と言い訳を考えて反論しようとするが、マーティンの真っすぐとした視線に、流石に何かを感じ取った。彼は脱兎のごとく家から飛び出ると、軒先に止めてあったおんぼろのキャデラックに飛び乗った。整備不良なエンジン音を響かせて、思い切り後進した青年は、意趣返しと言わんばかりにマーティンたちのパトカーにぶつける。彼はそのまま脇目も振らず急発進して、この場から立ち去った。

一部始終をちゃんと見ていたマーティンたちは、呆れ半分の溜息をつきながら一言二言、言葉を交わした。


「…釈放するなんて…」

「できんな。知らねぇから薬の売人に甘んじてるんだ。」


マーティンとマッケンジーは乾いた笑いを投げ合う。青年が要求した彼の弟の釈放なんて、一警察官がどうこうできるものではないことは、普通なら明白だ。

そんな少々”残念”な青年にも、命を守る行動をとる様に諭す彼らは、ある意味真っ当な正義の味方と言えるのかもしれない。

マーティンは青年から貰ったカギを転がしながら、裏庭の物置へと足を進め始めた。武器調達の再開だ。


「…ま、権限あっても死んだら行使できんがな。」


マーティンの独り言は、彼にしか聞こえなかった。

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