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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅶ.紅血の源
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140/149

150 選んで

 今のは……。

 あいつの記憶?

『エル。気が付いたか』

「メラニー?」

『良かったぁ』

『急に倒れるんだもの。びっくりしちゃったわ』

 倒れた覚えなんてないけど。

 体を起こして、自分の状態を確認する。

 痛みを感じる部分は無いし、怪我もなさそうだ。

『倒れた時に、アーランが受け止めた。怪我はしていないだろう』

 アーランが?

 俺が意識を失うことは想定済みだったのか?

 落ちているジュレイドを拾う。

 ……光ってるのは、これだけ。

 さっきの宝石がなくなってる。

「ここ、さっきと同じ場所だよな?」

『そうだ』

 ジュレイドを鞘に納めて、光が漏れる部分にスカーフを巻く。

『また、真っ暗になっちゃったわね』

 こうしないと、呼んでも会えなさそうだから。

「アーラン。居るか?」

『ここに居る』

 思った以上に近くに居た。

「助けてくれて、ありがとう」

『礼には及ばない』

「あいつの記憶を見た。さっきの宝石は、何だったんだ?」

『精霊玉』

「精霊玉?あいつの?」

『そうだ。あの男は精霊ではないが、同じ性質のものを生み出した』

 ……俺でも生み出せたんだから、あいつが生み出せてもおかしくないか。

『精霊玉は、忘れ得ぬ記憶を結晶化させたもの』

「忘れ得ぬ記憶?」

『私たちは、人のように忘れることはない。千年前のことも百年前のことも昨日のことも同じ。ただ、たまに価値の違う記憶が混ざる』

「それって……」

『特別となってしまったもの。虜になる記憶。いつまでも囚われ、引きずられるもの。そういったものを、私たちは切り離す。……それが、精霊玉だ』

 切り離されたのは……。

 精霊から取り除かれたのは、感情だ。

「失って平気なのか?」

『記録を失うわけではない』

 記憶ではなく、記録。

 出来事だけは残してるって?

「想いだけ捨てるなんて、不可能だ」

 俺がリリーの為に作った精霊玉だって、リリーへの想いで出来てる。でも、リリーへの愛を失ったわけじゃない。

『すべて過去になったものだ。精霊玉にすることで精霊としての安定を取り戻せる』

 過去。

 精霊は、途方もなく長い時を生きる存在だ。

 これまで、どれだけのものを見て、どれだけのものと関わり、どれだけのものを捨てなければならなかったって言うんだ。

 あの美しい宝石の正体が、精霊の忘れ得ぬ想いの結晶だったなんて……。

「ジュレイドには、精霊玉の記憶を見せる力があるのか?」

『わからない。ラグナロクの話では、あの男の記憶に限るようだったが』

 あの男に関係の深いものだから?

 いや。そもそも、この剣の性能を正確に把握してる奴なんて居ないか。俺が知る限り、この剣を手にしたことがあるのは、ラグナロクとリフィアだけだ。

『あの男を封印後、ラグナロクはヴィエルジュに剣を返却している。ここにあったものは、その剣に吸わせ損ねた分だ』

 あいつを封印した後も、ラグナロクは記憶の欠片を集め続けてたのか。

 そして、残りの記憶をジュレイドに吸わせる作業を新しい所有者に託した。

 それが、ラグナロクの遺産。

 ……なんで、そんなことを?

 俺が見たのは、ラグナロクがジュレイドに溜めていた記憶と、さっきの宝石から得た記憶を合わせたもの。あいつが精霊玉にして捨てた記憶のすべて。

 あいつに攻撃できる武器の所有者に、こんなものを見せるなんて。

「ラグナロクは、あいつを殺したくないのか?」

『答えは、未来に生きるものが決めるべきだ』

 未来……。

「それは、ラグナロクの遺言か?」

『そうだ』

 すべて知った上で、判断しろって?

 あの、圧倒的な力。簡単にすべてを破壊できてしまう力。神と精霊と敵対し、世界を意のままにしようとしている存在。

 勇者の敵と定められた相手。

 俺たちが勇者として為すべきことは、あいつと戦って、あいつを世界にとって無害なものにすることだ。

「あいつは、神の力をすべて失えば人間に戻るのか?」

『あれはリンの力を持つ。私たちがあの男に敗北すれば、精霊の力はあの男のものになるだろう』

 精霊も?

 神の力をすべて引き抜けば、あいつを本来あるべき姿に戻せば、終わりに出来ると思ってた。

 でも……。

 あいつが力を得る方法は、いくらでも存在する。

『それに。私たちも、神の力を無限に吸収出来るわけではない。かつて過剰に得たものは、レプリカの棺に封印した』

「それって、パスカルとエイダが作ったやつ?」

『そうだ。エイダが入った後、私たちはレプリカに余剰分を吸わせた。レプリカは、私たちにとって危険の少ないもの。吸わせる量もコントロールすることが可能だった。……レプリカであったが為に簡単に開かれたようだが』

 あいつが、アルファド帝国を使って探させたもの。

 その中身は、あいつのものになった。

 大精霊が過剰に得た力を放出させる為にレプリカの棺を作ったところで、あいつは簡単に開くだろう。

 それに。

―人間は何をするかわからないからな。

―魔法陣の内容も解明するぐらいだ。

―いずれ、精霊の力を頼らずに封印を解除する方法を編み出しても不思議じゃない。

 あいつが、自力で封印の棺を開く方法を見つける可能性だってある。

 つまり。

 本来あるべき姿に戻すだけじゃ、解決にならない。

 なら、ラグナロクと同じように、あいつの本体を封印する?

 ……だめだ。

 すでにパスカルは根源の神へ還った。他の大精霊だって、この先、いつ根源の神へ還るかわからない。

 そうなれば、あいつと渡り合う為の手段が減り、こちらにとって不利な状況が加速する。

 これ以上、答えを先延ばしにすることは出来ない。

 決着をつけるのは、今。

 選ぶべき答えは……?

『エルロック。お前は、今の世界が好きか?』

 今の世界。

「好きだよ」

 壊されたくない。

 たとえ、あいつにとっての楽園が別の形であろうとも。

 俺が生まれたのは、この世界だ。

 大切な人が居てくれる世界。

 ……リリー。

「ありがとう。アーラン」

 ただ。

 一つ、気になることがある。

「あいつは、どうして積極的に精霊を攻撃しないんだ?」

 あいつにとって、手っとり早く力を得る方法のはずなのに。

『私たちを滅ぼすことは、自然の破壊と同義。それは望まないのだろう』

 確かに、世界を終わらせたいわけじゃなさそうだよな。

『……と、言いたいところだが。あの男の本意など、あの男にしかわからないことだ』

 本当に?

「アーランは、あいつのことが好きか?」

『この感情を表現する適当な言葉を知らないが。最も近い言葉で言うなら……。敬意を払う』

 敬意、か。

「色々教えてくれて、ありがとう。帰るよ」

『では、ヴィエルジュのところまで送り届けよう』

 急に、体が浮く。

 アーランに抱えられたらしい。

 闇に紛れているけど。顕現した精霊は明るい。

 

 ※

 

 来た時と同じ場所。

 大樹の根。

『では、また会おう』

「ん」

 周囲が暗闇で覆われる。

「ヴィエルジュ」

 呼ぶと、大樹の洞が開いた。

 大樹の根を登って、エイルリオンの明かりが漏れる洞の中に入る。

 あれ?

「リリー?」

 リリーが、大樹の洞の中で眠ってる。

「地上に戻るぞ」

「あぁ」

 大樹の洞が閉じて。

 

 転移する。

 

 ここは……。

 グラム湖か?

「リリー」

 体をゆすっても、全然起きない。

『さっきから、ずっと寝てるよー』

『エイルリオンに触れてから、急に気を失ったんだ』

『体に異常はないようだが』

『大丈夫かな……』

 原因は、エイルリオン?

「ヴィエルジュ。リリーに何が起こったのかわかるか?」

「わからない」

 ……わからないのか。

 リリーの顔を撫でる。

 苦しそうな様子もないし、寝てるようにしか見えないな。

「どれぐらい寝てるんだ?」

『大地の大精霊探しの後からずっとだね』

「もう探し終えたのか」

『シミュラは私の親だ。リリーの呼びかけに応えて、すぐに来た』

 バニラは、王家とも縁のある精霊だ。この辺りの生まれなら、この土地の大精霊と繋がりがあるのは当たり前か。

 探す必要はなかったらしい。

「それで?」

『くだらない問答をした後、パールと共に帰って行った』

「パールも来たのか」

『私たちに伝えるべきことがあったらしい。アーランから聞いているか?』

―デルフィから説明は受けているか?

「デルフィがするはずだった説明?」

『それだねー』

『きっと、そっちの説明の方がわかりやすかったんじゃない』

「どういう意味だ?」

『人間慣れしてない精霊の説明はわかりにくい』

 あちこちから溜め息が聞こえる。

 面倒なことがあったらしい。

「パールもシミュラも、精霊玉が無くても、俺が呼びかければ来るんだよな?」

『勇者の呼びかけには応じるってさ』

 内容は同じで間違いなさそうだ。

 ジュレイドのスカーフを外して、エイルリオンを背負う。

 そういえば。

「セズディセット山の炎の大精霊について、何か言ってたか?」

『デルフィが人間と居るところを見かけたらしい』

「本当か?」

『いつ、どこの話か知らないとも言っていたが』

 適当だな。

 どちらにしろ、協力は見込めないことに変わりはない。

 もう一度、リリーの頬を撫でて、手を取ってキスをする。

 全然、起きる気配がないな。

 リリーを抱きかかえる。

『どこかに行くの?』

「散歩」

 リリーを抱えたまま大樹から飛び降りる。

 気持ち良い空気だ。

 精霊の気配がする。

「湖って、向こうか?」

『そうだ』

 

 リリーを連れて、グラム湖のほとりへ。

『広い湖だね』

『綺麗。ちょっと飛んできても良い?』

「良いよ」

『オイラも行くー』

 見晴らしの良い静かな湖。

 少し冷えるな。

 木陰に座って、リリーにマントをかける。

『エルは、リリーに何が起こってるのか知ってるの?』

 イリス。

「心配要らないよ。すぐに目覚める」

『さっきのエルと同じ状態ということか?』

『さっきのエルって?』

『なんて言ったら良いのかしらねぇ』

 説明はメラニーとユールに任せて良いか。

 リリーの頬を撫でる。

「ん……」

 腕の中で、リリーがゆっくりと目を開く。

 そうかと思うと、潤んだ輝く瞳から雫が落ちた。

『リリー』

「イリス……?」

 目をこすりながら起き上がったリリーが、俺を見上げる。

「エル?」

「ただいま」

 リリーが俺に手を伸ばして、抱き着く。

「会いたかった」

 起き上がったリリーを抱きしめ返す。

「俺も、会いたかった」

 震える背を撫でて、声を上げて泣くリリーを腕の中に包む。

 こんなに泣かせるなんて……。エイルリオンは、リリーに何を見せたんだ?

 俺と同じもの?

 それとも……。

「離れないで」

 一度、手を離しただけで。

「離れないよ」

 二度と触れることのできない関係になってしまったから。

「愛してる」

 伝えられなかった想い。

「愛してる」

 昔は、この感情を伝える言葉が存在しなかった。

 

 嗚咽が減って、震えも収まって。

 泣き声も少しずつ静かになる。

 ……落ち着いてきたかな。

 リリーの顔を上げて、泣き腫らした赤い目元に触れて、癒しの魔法を使う。

「帰ろう」

「……うん」

 

 ※

 

 ヴィエルジュに頼んで城に戻る。

「お帰りなさいませ、エルロック様。リリーシア様」

「ただいま」

「ただいま、エミリー」

 大陸会議の真っ最中なこともあって、部屋には他に誰も居ない。

「エルロック様。アレクシス様よりお言付けがございます」

「伝言?」

「はい。武具で入用なものがございましたら、何なりとお申し付けください。こちらにいくつか御用意いたしましたが、宝物塔の武具も自由に持ち出して良いとのことです」

 用意されてるのは、剣花の紋章が付いたサーベルに、サンゲタル、彩雲。

 この中なら……。

「これ、借りて行っても良いか?」

「どうぞ、お持ちください」

 選んだものを腰に付ける。

「エル、それを使うの?」

「エイルリオンとジュレイドは、あいつにしか効果が無いからな。他のものと戦う必要が出てきたら、普通の剣も必要だろ?」

「そっか」

 それに。

 やってみたいことがある。

「リリーは良いのか?」

「私は、リュヌリアンとカーネリアンがあれば大丈夫」

 いざとなれば、どんな武器も魔法で伸ばせるみたいだし、問題ないか。

 

 ※

 

 城を出て、リリーと一緒に家へ。 

「誰にも会わなかったね」

「そうだな」

 いつもなら、街を歩けば知ってる顔に会うんだけど。珍しく、誰にも会わなかった。

「あれ?お店を開いた跡がある」

「開いた跡?」

「ほら。薬が減ってる」

 リリーが指したのは、風邪薬を置いてる棚。

「本当だ。良く気付いたな」

 ルイス、店を開けてるのか。

 寒くなってきたから病人も増えてそうだ。

 簡単な風邪薬の調合ぐらい、ルイスにも出来るはずだけど……。

 今は、課題の薬作りを優先してるのかもしれない。

 

 キッチンへ行って、サイフォンを用意する。

「何か手伝う?」

「コーヒーを淹れるだけだから良いよ。……っていうか、ランチはグラム湖で食べてきても良かったな」

 せっかく、外で食べられるようにサンドイッチを作ったのに。

「大丈夫。ここなら、あったかいコーヒーを飲めるよ」

「そうだな」

 皿を出して、サンドイッチと果物を並べて。

 テーブルの準備を終えて振り返ったリリーを抱きしめる。

「愛してる。リリー」

「エル、愛してる」

 温もりに包んで。

 もっと近くで、触れていたい。

 

「私ね。ヴィエルジュの過去を見たの」

 なんとなく予想はしてたけど。

 エイルリオンは、ヴィエルジュの記憶を持ってたのか。

「俺は、あいつの過去を見てきた」

「エルも見たの?」

「あぁ。ジュレイドで」

 でも、エイルリオンとジュレイドじゃ、記憶の集め方に違いがありそうだな。

 ヴィエルジュは大樹から動かない存在だし、精霊玉をその辺に捨てるとは思えない。単純に、ヴィエルジュが保管している間にエイルリオンに記憶が移ったと考えた方が自然だろう。

「ヴィエルジュは、この気持ちが何か知らないのかな」

 あの想いは、間違いなく愛。

「知ってるんじゃないか?」

 二人とも、今の時代の言葉を知ってる。

「でも、きっと、あの人には伝えてないよね」

「だろうな」

―これでもう、何ものにも邪魔されることなく、共に過ごせる。

―一緒に行こう。

 でも。

―これ以上、何も壊さないで。

 あいつの誘いを、ヴィエルジュは断った。

 再開した時、彼女はアンシェラートの力を得て別の存在となっていた。

 そして、あいつがこれまで行ってきたことを否定した。

「どこで、すれ違っちゃったのかな」

 リラとアルテアの物語のように、二人が二人だけで過ごしている間に。

 世界は崩壊した。

 ……あまりにも、無惨な姿に。

 そして。あいつは、すべての植物と妖精を復活させる役目を課せられた。妖精たちの命の源である種を使って。あいつは役目を果たす為に尽力し、世界を再生させたが、ヴィエルジュの種だけは手放すことが出来なかった。

 ヴィエルジュから貰った大切なもの……。

 役目を終えなければ、もう一度会うことは出来ないと言うのに。

 そこで、あいつが選んだ方法は、あいつに役目を与えた存在、あるいは役目を与える行為を滅ぼすことだった。

 あいつは神を殺して、神の力を得た。

 力を求めてるわけじゃなかったのに。

「ただ、もう一度、会いたかっただけなのに」

「ただ、もう一度、会いたかっただけなのに」

 リリーと顔を合わせる。

「あの人も、そうだったの?」

「そうだよ。会う為だけに行動してた。その結果だ」

「ヴィエルジュもだよ。でも……」

 結果的に、あいつはあらゆるものを破壊する剣の役目を選んだ。

 そして。

 もう一度、手を取り合うことを諦めた。

「あの人を元に戻せば、二人は、やり直せるのかな」

「……戻せない」

「え?」

「エイルリオンとジュレイドで本来あるべき姿に戻すことは可能だ。でも、戻したところで、封印の棺や精霊が存在する限り、あいつが力を手に入れる方法は存在する」

「精霊も?」

「そう。だから……」

 あいつから力を抜いたところで、解決にはならない。

「もっと、気持ちをぶつけあうことが出来たら良いのに」

「あいつとヴィエルジュが?」

「うん。お互いの不安なことも、辛いことも、愛してることも、全部。……言えたら、こんなすれ違いは起きてなかったんじゃないかって」

 すれ違いか。

「教えて」

「え?」

「不安なことも、辛いことも。……たとえそれが、俺が解決できることじゃなくても」

「エル……」

 あの時、リリーの気持ちを聞くことが出来て、良かったから。

 もし聞いていなければ、リリーもヴィエルジュのように……?

「エル。あの人と賭けをしよう」

「賭け?」

「私たちが勝ったら、ヴィエルジュに告白してもらうの」

「……」

 告白?

 いつも、突拍子もないことを思いつくのは知ってたけど……。

 告白って。

「まず、賭けをするなら対価が必要だ」

 こちらが負けた場合に用意するもの。

「あの人の願いを聞くとか?」

「誰が?」

「誰って……」

「勇者の敗北は、俺たちを支援してくれたすべての人間、精霊と妖精たちの敗北なんだ。あいつと賭けをするなら、全部巻き込むことになる。だから、下手な交渉は出来ない」

 リリーが口元に手を当てて唸る。

 だいたい、こんな交渉に乗って来るかもわからない。

 どうやって賭けの話をするっていうんだ?

 話し合いに応じてくれるかもわからないのに。

「封印の棺は?」

「封印の棺?」

「私たちが負けたら、封印の棺を一つ渡すの。それなら、他の人は巻き込まないでしょ?」

 封印の棺。

 確かに、誰も巻き込まずに、その場で払える対価ではある。

「本気で、あいつと交渉するつもりか?」

「だめ?」

 だめ?って。

 問題は、封印の棺とヴィエルジュへの告白が同等の価値を持つものかどうかだ。

 この場合……。

「わかったよ」

「ありがとう!エル」

「封印を解いた棺を一つ、ヴィエルジュに運んでもらおう」

「えっ?解いてから持って行くの?」

「あいつと砂漠で戦っただろ?あいつは、封印されてる棺の所在は知ってるんだ。だから、封印を解いた棺じゃないと交渉にならない」

「そっか」

 封印の棺は、すべて、月の力で封印されている。

 今のところ、封印の棺を強引に開く方法はアンシェラートを呼び出すことだけ。これが相当なリスクを伴うことは、あいつもわかってるらしい。

 だから、封印を解いた棺は、あいつにとってかなり価値のあるものだ。

「どうやって封印を解くの?」

 封印が簡単に解けないことはリリーも知ってる。

 でも。

「俺が封印したものは、リリーが解ける」

「え?」

 良かった。

 全然気づいてないみたいだ。

「そのままの意味。俺が描いた魔法陣に向かって、リリーが封印解除って言えば良いだけ」

「そんなに簡単に解けちゃうものなの?」

「リリーなら出来るよ」

 俺と対になる力を持っているから。

「リリー」

 リリーを抱き寄せる。

 あいつがヴィエルジュに告白することで何かが変わるなんて確証はない。

 それでも。

 俺は、リリーを好きになって。

 リリーと結ばれて。

 真っ直ぐに気持ちを受け止めてくれる存在と愛しあえる喜びを知って。

 あの夜。

 リリーをさんざん泣かせて、本当の気持ちを聞くことが出来て、そして、受け入れてくれたリリーが笑ってくれて……。

「愛してるよ」

 今、幸せだから。

「愛してる」

 ……あいつの過去を見て。

 きっと、あいつも、この感情を理解出来るだろうと思ってしまったから。

 だから、大丈夫。

「怖くないか?」

「怖くないよ」

 リリーが輝く瞳で俺を見つめる。

「外に出たら、世界が終わってるかも」

「それでも、一緒に居て」

 選んで。俺を。

 


紅血の源

「sept:共通の祖先をもつ一族」+「-arche:第一の」

→ブラッド(一族)の祖

→紅血の源


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