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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
PR
134/149

145 三人一組

「エル」

 リリーの声がして、目を開ける。

「おはよう」

「おはよう。リリー」

 ……もう、朝か。

 早く支度を整えないと。

 

 ※

 

 朝食は、一階の食堂に用意してあるらしい。

 リリーと一緒に行くと、ベルトランとドニス、政務官の二人組が食事をしていた。

 テーブル中央には、パンや果物が並んでいる。

 挨拶をして空いている席に付くと、すぐにオニオングラタンスープが運ばれて来た。

 朝食には丁度良い。

 ……と思っていたら、茹でた野菜とハムにオランデーソースをかけたものまで出てきた。

「リリー。口開けて」

 リリーの口に一口サイズに切ったハムを突っ込む。

『もしかして、食べきれないの?』

 朝から、こんなに食えるわけがない。

「このソース、すごく美味しいよ?」

 ソースのついたブロッコリーを食べる。

 確かに美味いけど。

 気分じゃないな。

「昨日の夜は、ちゃんと食べた?」

「宿の料理人が、酒のつまみを出してくれたよ」

 時間がかかることを見越したケヴィンとアンナが頼んでくれたらしい。ローストビーフや魚介のワイン蒸し、サラダなど、様々なものが提供された。

 料理は、待ちぼうけを食らったサフィールの従者たちにも振る舞われている。サフィールが帰り際に、従者の面倒を見てくれた礼を言っていた。

「リリーは、何を食べたんだ?」

「ミートパイだよ。カリアさんが、美味しいお店に連れて行ってくれたんだ」

 珍しいな。

「後で教えて。時間があったら行こう」

「えっ?良いけど、ちょっと変わったところにあって……」

『ボクも覚えてないよ。夜だったし、街外れの方だったから』

 イリスまで覚えてないような場所にあるのか。

「ケヴィンとアンナは、ミートパイが有名な店を知ってるか?」

「ミートパイですか?申し訳ありません。私は詳しくなくて……」

「私も、知っているのは魚介が有名な店ばかりです。こちらで調べましょうか」

「いや。今日には発つつもりだし、こっちで探すから良いよ」

 この街の情報なら、冒険者ギルドで探せるだろう。

 っていうか。この皿を食べきるのは時間がかかりそうだ。

「半分食べる?」

「じゃあ、この辺を食べて」

 皿の上にフォークで線を引く。

「うん。わかった」

 半分ぐらいなら食べきれるだろう。

 

 ※

 

 ……出遅れた。

 朝食後、真っ直ぐ来たのに。メヘン同盟の一団は、もう街の正門に集まっている。

 急いで集団の先頭へ行くと、昨日と同じ顔ぶれが出発の準備をしていた。

「まさか、見送りに来て頂けるとは。あなたの友情に感謝します」

 サフィールが爽やかに微笑む。

「大陸会議で会う時を楽しみにしておりますよ」

「こちらこそ。もう一度、サフィール様とお会いするのを楽しみにしております」

 サフィールと竜の挨拶をする。

「幸運を」

「幸運を」

 それから、握手を交わす。

「では、また」

 にこやかに挨拶をして、サフィールが馬に跨る。荷馬車も、人が乗る為の馬車も用意されてるけど。カリア王女とパロミデスも馬に乗るらしい。

 サフィールが左手を竜の挨拶の形にする。

 左手は使わないんじゃ……。

 サフィールが左手を掲げて口笛を鳴らすと、鳥のようなものが飛んできて、左手にとまった。

 羽毛ではなく爬虫類のような皮膚に、ドラゴンのような羽。でも、ドラゴンのような前肢はない。これは……。

「ワイバーン?」

「私の相棒ですよ」

 サフィールが小さなワイバーンを前方に向けて放ち、大きな声を出す。

 メヘン同盟の他の代表や従者たちが返事をして、走り出したサフィールの後に続く。

 西南諸国の言葉で、出発を告げたんだろう。

 一団が街から出て行く。

「リリー。あのワイバーンが何か知ってるか?」

 見上げた空には、同じぐらいの大きさのワイバーンが三体も飛んでいる。

「荒野に生息する小型のワイバーンだって。あの中には、カリアさんの友達も居ると思う」

 だとしたら、残る一体はパロミデスの相棒か?

「あのワイバーンは、額に瞼があって、開くと光を放つんだよ」

「三つ目なのか?」

「目じゃなくって、額に光を放つ宝石が隠されてるって感じかな。それで、夜道も照らせるの」

「変わった特技だな。ブレスは吐くのか?」

「うーん?どうなのかな。人懐っこくて、攻撃的な感じはしなかったよ」

 大型のワイバーンならたまに見かけるけど。あそこまで小さいものは、初めて見た。あれなら、大型の鳥よりも小さいだろう。

「ベルトランは知ってるか?」

「西南諸国の荒野には、様々な種類のワイバーンが存在する。あれは、その中でも一番小型で臆病な種だろう。額から放つ光はカーバンクルだ」

「カーバンクルだって?」

「え?それって、ドラゴンの死後に結晶化して出来る石ですよね?」

 ワイバーンはドラゴンに似た種族とはいえ、前肢がない上に寿命も短く、言葉も解さない。多様な種類が居るって話は知ってるけど。

「ワイバーンがカーバンクルを残すなんて聞いたことがない」

「私も」

「ドラゴンと違い、宝石と呼べるような輝きを持つカーバンクルは稀だからな。ワイバーンの眉間を割ったところで、硬い石が取り出せる程度だろう」

 見た目が宝石のような輝きを持たないだけで、カーバンクルが出来るのは同じなのか。

「しかし、中には、最初からカーバンクルを結晶として持つ種が居る。カーバンクルを利用した魔法を使う代わりに、魔法のブレスを吐くことはないらしい」

 カーバンクルが魔法の媒体になる?魔法研究所の調査結果では、特別な力は検出されてないはずだ。

 もしかして、生きてる間は、違う効果を持つのか?

「じゃあ、あの子達はブレスを吐けないってことですか?」

「おそらく。カーバンクルの力を使ってどんな魔法を使うのかはわかりませんが」

 亜精霊以外にも、魔法を使える生き物は確認されている。ただし、使える属性は一つだ。

 光を放つ魔法を使えるなら、属性は、光の魔法か月の魔法か……。

「このことから、ドラゴンやワイバーンが魔法のブレスを吐けるのは、結晶化していないカーバンクルの力を使っている為という説がございます」

 ベルトランがリリーに向かって丁寧に説明する。

 結晶化していないカーバンクルはブレスの源となり、体の一部になってるものは魔法の源になる。どちらも、本来は同じ性質を持ったもの?

「ただ、あのように飼い慣らす文化があるのは初耳です。最近のことなのか、古くから王族に伝わっていたものなのかは私も存じません」

「でも、カリアさんは、竜の挨拶は、右手は人と、左手はワイバーンとするものだって言ってたんです」

「それが、竜の挨拶の語源だと?」

「語源については、色んな説があるって言ってましたけど……。昔から、挨拶はそうだって」

「興味深いお話をしていただき、感謝いたします」

 ベルトランが、リリーの話をメモしている。

 熱心だな。

「これは、光らないよね?」

 リリーがつけている腕輪のカーバンクル?

「光らないんじゃないか?アレクのだって、魔法の力は感知できないって言ってたからな」

 フォルテは、同じ紫竜のカーバンクルがわかるみたいだったけど。

「もしや、それは王都を襲った紫竜のカーバンクルですか?」

「はい」

 リリーが紫竜フォルテを倒したことは、有名になってるのか。

「見せていただいても?」

「私も是非」

 急に、ドニスまで割って入って来た。

「どうぞ」

 リリーが渡した腕輪を、ドニスとベルトランが揃って眺める。

 カーバンクルは竜殺しの証。

 ……良く考えたら、こんな間近で見られる機会なんて滅多にないよな。

 

 ※

 

 今度は、パウリナ国とアルマデル国を迎える為に港へ。

 船旅が順調なら、午前中には到着するらしい。

 国賓を乗せた船が入港する場所は、部外者以外は立ち入り禁止の特別な場所だ。

 ティルフィグン王国、ディラッシュ王国、グラシアル女王国、神聖王国クエスタニア、ラ・セルメア共和国、そして、メヘン同盟代表団。すでに到着済みの王侯貴族や大統領専用の豪華な船が、波止場にずらりと並んでいる。

 これに加えて、パウリナ国とアルマデル国の船が入港する予定だ。

「どれも豪華だね」

「あぁ」

 クエスタニアもセルメアも陸路で移動してるはずなのに。本隊とは別に船も用意したらしい。大陸河川の話題に合わせて、それぞれの造船技術を見せに来たってところか。

 船を眺めながら波止場の先まで歩いたリリーが、大きく手を広げる。

「潮風が気持ち良いね」

「天気は相変わらず悪いけどな」

 空は暗い雲に覆われたまま。

「さっきの話なんだけど……」

 リリーが振り返る。

「ワイバーンも、ドラゴンみたいに精霊が卵を孵すのかな」

 精霊が?

 それが事実なら、亜精霊と同じじゃ……。

 いや。

「確かに、精霊が孵化を手伝う生き物は居るかもしれない。実例は知らないけど」

 あいつの影響を受けない生き物は、精霊の祝福を受けて卵から生まれてくるはずだ。

 クレアもドラゴンも、大精霊の力を借りて生まれる。亜精霊だって精霊の力を借りて生まれるんだ。同様の生き物が居てもおかしくないだろう。

「エレインがね、ドラゴンのカーバンクルは、精霊の祝福の結晶って言ってたの。タリスマンも同じで、クレアが生まれた卵の中に入ってるんだって。だから、同じなのかと思って」

 カーバンクルが、精霊の祝福の結晶?

 だとしたら、ベルトランが言ってた仮説は正しいってことだよな。カーバンクルが魔法の媒介となる存在だとすれば、魔法を使う原理は魔法使いと同じ。

 それに、これならカーバンクルが結晶化する理由もわかる。精霊の力は、生き物にとって異物だ。それが体から排除された結果、結晶として残るんだろう。

 だとすると。

「ワイバーンとドラゴンのカーバンクルの違いは、生まれる時に受けた祝福の強さの違いってことか?」

 リリーが頷く。

「私も、そうじゃないかなって思って。大精霊の祝福は、生き物にとっては毒になるぐらい強過ぎる力なんだと思う。ドラゴンは、それに耐えられるってだけで……」

 強過ぎる力は毒になる。メディシノではない治療者が、治療を行うことで狂っていったように。

 だから、クレアは最初から異物を体内に入れずに、卵の中に結晶を作って生まれるってことか。

 ただ、そうすると……。

―精霊の力が必要な種族は、いずれ精霊と共に滅ぶ。

 クレアも、ドラゴンも。亜精霊も。カーバンクルを持つワイバーンも……。

「エル、魔法を使っても良い?エルに見てもらいたいの」

 魔法?

 唐突だな。

 海上には、船が点在している。

 ここから船に魔法を当てるのは無理だと思うけど。

 リリーのことだから、わからない。

「攻撃的な奴じゃないなら良いよ。光を広げる魔法とか」

「わかった。やってみる」

 リリーが目を閉じて、海に向かってゆっくりと手を広げる。

 すると、木漏れ日のような優しい陽光が広がっていった。肌に触れる空気まで柔らかく変わったみたいだ。光に照らされた場所は、そこだけ太陽に照らされているかのように鮮やかに色づいていく。

 空は重い雲で覆われているのに。

 リリーが放った光に照らされた空間が、まるで切り取られた別世界のように晴れている。

 目を開いたリリーが微笑んで、こちらを見る。

「出来た」

 これが、リリーの魔法。

「何をイメージしたんだ?」

「前みたいに、ふんわり光れって感じかな?」

『前より広がったよね』

 出力が上がってる?

「疲れてないか?」

「大丈夫。練習したから、前より魔法の使い方は上手くなったと思う」

 ……魔法の出力の話をしてるんだけど。

 こんなに広範囲に対して使う魔法なのに、リリー自身の魔力消費はそんなにないらしい。

 神の力を無意識に使ってるのか、そもそもリリーの本来の魔力量が大きいのか……。判断が付かないな。

「見て、エル。小さな虹が出た」

 大きな波飛沫と共に虹色のラインが浮かび上がる。

 太陽なんて出てないのに。

 これも、リリーの魔法の力?

「やっぱり、光の魔法なのかな」

「違う」

 リリーが残念そうにため息を吐いて、海を見る。

 現象として似ているものだから、光の魔法との違いは説明できないんだけど。光の魔法より、持続時間が長いのは特徴だろう。

「エル。あの船かな?」

 派手な船が二隻、こちらに向かっている。

 間違いない。

「来たみたいだな」

 

 ※

 

 港でパウリナ国とアルマデル国の一行を出迎える。

 船には大勢の従者に加え、冒険者も数多く同乗していた。

 重くて動きにくそうな服を着てるのが王族だろう。最近、身軽な服装の王族ばかり見ていたから、逆に珍しいな。

 ケヴィンとアンナに仲介を頼んで、挨拶と会談の申し出をすると、パウリナ国はアクイロリス王子と宰相が、アルマデル国はルミナリア王女と宰相が応じてくれるという話になった。会談も同時で構わないという話だが、それぞれ近衛兵と冒険者も付き添う。

 冒険者の同席は避けてもらいたかったけど。ラングリオンに居る間、ずっと護衛を任されているなら、機密も簡単には漏れないだろう。

 早々に出迎え用の宿に戻って、昨日と同じ応接室へ行く。

 

 ……流石に、話し合いはこじれるか。

 大陸河川の話は、南部にとってメリットがあまりない。

 けど、アスカロン湾の運河造成計画を伝えると、態度が変わった。

 ローレライ川とアスカロン湾が繋がれば、ティベリス大河、メロウ大河を通じて内陸の国へ入りやすくなる。これらの河川を関税なしで使えるとなれば、メリットは大きいだろう。

「お話は良くわかりました。自由な往来と商業の発展への取り組み、我が国の王も賛成なさることでしょう」

「同じく。国王陛下も私も、大陸の南北の距離が今よりも縮むことを願っています」

「御賛同いただき、感謝します。同盟国が等しく利益を享受出来るよう、大陸会議では、更に議論を深めてまいりたいと思います」

 それぞれの代表者と握手を交わす。

 結果は、上々。

 南部の往来を促進する為には、運河が出来上がるまでの間、何らかの優遇措置が必要かもしれない。

「船旅でお疲れのところ、急な会談に応じて頂き、ありがとうございました。ささやかですが、贈り物を御用意しております」

 ベルトランがワインを渡してる。昨日、サフィールと飲んだのとは別のものだ。好みに合わせて選んでるんだろう。流石だな。

 

 ※

 

 会談は終了。

 これで、大陸会議の参加国すべてと事前会談が終わった。

 会談の場を設けてくれたケヴィンとアンナに礼を言って、宿を出る。

「ランチを食べたら出発する予定だ。俺とリリーはミートパイの店を探す予定だけど、二人はどうする?」

「私も同行する」

「では、私もご一緒いたします」

 珍しいな。

 カリア王女の勧めた店だから気になるのか?

「じゃあ、冒険者ギルドに行って情報を集めよう」

「冒険者ギルドに行くの?」

「変わった場所にあるなら、ギルドで聞いた方が手っ取り早いからな」

 それに、南部二国に付いて来た冒険者たちも気になる。王族の護衛として雇われた奴ばかりじゃないはずだ。だとしたら、何しに来たんだ?アンシェラートの影響で治安が悪化してる分、こっちの仕事は増えてるだろうけど。少し気になる。

 

 ※

 

 北の港の冒険者ギルド。

 港町だけあって、賑わってるな。レストランのスペースが王都より広くて、大勢の冒険者が談笑している。張り出されてる仕事も豊富だ。

「エルロック。こんなところに居るなんて珍しいな」

 誰だ?見覚えのない顔だけど。

「この街に詳しい奴を探してるんだ」

「街の案内なら、格安で引き受けてやっても良いぜ」

「探してるのは案内人じゃなくて、ミートパイが美味い店だ」

「港まで来て海の幸を食わないなんて変わった奴だな」

「知ってるなら情報量は払う」

「ミートパイねぇ……。知ってるか?」

 男が、近くに座っている二人に声をかける。

 長い杖を持った魔法使い風の女性に、冒険者というよりも、商人のような身なりをした男。

「ミートパイ、美味しそうね。私も食べてみたいわ」

「街外れに、そんな店があったと聞くが」

「たぶんそれだ。教えてくれ」

「私も、うろ覚えだからな。はっきりとした場所は説明出来ないが」

「だったら、一緒に探せば良いわ。私もそろそろランチにしたいもの。皆様、ご一緒してもよろしい?」

「どうする?」

 リリー、ベルトランとドニスの方を見ると、三人が頷く。

「じゃあ、それで良いよ」

「ふふふ。ありがとう」

「なら、行くとするか。あぁ、一緒に行くんだから情報量は取らないぜ。俺の名前は、カイトス。冒険者だ」

「私は、ミラよ」

「商人のアルニタクだ」

「俺はエルロック。彼女はリリーシア。それから、ベルトランとドニスだ」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

 

 ギルドを出て、三人の後に付いて行く。

「リリー、」

「エル、」

 声が被った。

「先に話して」

 リリーが声を潜める。

「あの人、魔法使い?」

「見えないのか?」

「うん」

 ミラは、一人だけ自己紹介が雑だった。冒険者とも名乗らなかったし、魔法使いとも言わなかった。

 だから、リリーからの見え方が気になってたんだけど。

 魔法使いの光が見えないなんて。

「隠してるのかな」

「どうだろうな」

 あの身なりで、魔法使いじゃないと言うのは無理がある。

 つまり、ミラは、リリーに見えないガラス繊維を装備してる。

「防具としては珍しい素材じゃないし、服の中に別の防具を着込む魔法使いも居る」

「そうなんだ」

 冒険者活動もする魔法使いが、近接戦闘への備えをすることは珍しいことじゃない。でも、わざわざガラス繊維を選んだ理由が気になる。

 偶然なのか?

「あの人たちは、皆、冒険者なの?」

「さぁ?カイトスは冒険者って言ってたけどな。他の二人が冒険者ギルドに所属してるかは知らない」

「ギルドに所属してなくても、仕事は出来るの?」

「出来ない。依頼を受けることが出来るのは冒険者だけだ。誰かに手伝いを頼むのは自由だけど、報酬は、冒険者の人数分しか支払われない」

 ギルドが一人で出来ると判断した依頼に手伝いを呼んだところで、損しかしないだろう。

 納品依頼なんかは、遠出するより誰かから品物を買い取った方が得な場合もあるけど。討伐依頼なら、確実に割りに合わない。

「着きましたよ。こちらで間違いないですか?」

 アルニタクが振り返る。

『ここだね』

「はい。ここです」

 リリーが答える。

 冒険者ギルドからは、近い場所にあったらしい。

 っていうか、迷うようなそぶりもなく真っ直ぐ来たじゃないか。

 知ってたけど自信が無かった?……そうは思えないな。

 冒険者ギルドに居たから、警戒もせずに案内を頼んだけど。少し怪しい三人組だな。

 

 総勢七人で店内へ。

 ドリンクは、リリーが勧めたエルダーフラワーシロップの炭酸割りを頼んだ。

 店のお勧めは、ミートパイの他に、パスティとコテージパイもあるらしい。どちらも聞いたことがない食べ物だけど。カイトスはパスティを、リリーとベルトランは、コテージパイを選んでいた。ついでに全員でシェアできるサラダや果物も選んで注文を終えると、ベルトランとドニス、そして、アルニタクが店の調度品を眺めに行った。

 良く見たら、店内には、ラングリオンっぽくないものも並んでるな。ドラゴンはともかく、蛇を象った置物もある。

 蛇?

「ミートパイって、西南諸国の名物料理なのか?」

「え?ミートパイは、どこでも食べられるものだと思うけど……」

 だよな。

 ラングリオンでも一般的に食べられる料理だ。

「でも、手づかみで食べられるパスティとか、パイ生地を使わないコテージパイは、西の方のイメージがあるかな?」

「パイ生地を使わない?」

「コテージパイは、マッシュポテトを乗せて焼いたものだから」

 リリーが知ってるってことは、グラシアルでも食べられるものなのか。

「ドリンクをどうぞ」

 テーブルにドリンクが並ぶ。

「先に乾杯するか」

「そうだな」

 戻って来ない三人を置いて、残りの四人で乾杯をする。

「乾杯」

 グラスを軽く合わせて、ドリンクを飲む。

 香りの良いハーブだ。

「カイトスは、この辺の冒険者なのか?」

「いや。南部から来たんだ」

 ってことは、南部から来た船の同乗者?

「案内を買うって言ったくせに、街に詳しくないんじゃないか」

「ちゃんと案内できただろ?」

 結果論だ。

「ここには、何しに来たんだ?」

「高ランクの依頼目当てだよ。でも、はるばる南から来たっていうのに、目ぼしい奴は対処済みって話じゃないか」

「当たり前だ。大陸会議に向けて軍が動いてる。この辺に、危険度の高い討伐依頼なんて残ってるわけないだろ」

「こっちの騎士はマメだな。もう少し早く来れば良かったぜ」

「ねえ。私たちも、王都に向かう予定なの。そちらの馬車に乗せてもらっても良いかしら」

 急に、ミラが話に入ってきた。

「馬車に?」

『リリーは口が軽すぎるよ』

 ミラに、こっちの予定を話したのか。

 素性の怪しい連中を同行させるわけにはいかないけど……。

「四人乗りの馬車だから、乗せられても後二人だ」

「アルニは馬に乗れるって言ってたから平気よ」

「そうだな。俺も乗せてもらえると移動が楽だ」

 この後の予定が同じじゃ、断っても付いて来そうだ。

「乗りたいなら、身分の確認が必要だ。ギルド証を見せてくれ」

「冒険者は俺だけだぜ」

 そう言って、カイトスがギルド証を出す。

 ランクブラン。拠点は自由都市アルス。

 ……信用しても良いけど。

「ミラは?」

「私は、魔術師ギルドにしか所属してないわ」

 魔術師ギルドのギルド証。犯罪歴はなし。拠点は、砂漠のニーム?あそこに魔術師ギルドなんてあったか?でも、魔術師ギルドのギルド証は、特殊なホログラムが付いているから簡単に偽造出来ない。それに、ギルド員しか知らない確認方法もある。

「示して」

 ギルドに登録する際には、自分が使える魔法の属性を一つ登録する。

 ミラがギルド証のホログラムに触れると、炎が浮かぶ。炎の魔法使いか。リリーが見えない以上、他に何の魔法を使えるのかわからないけど。

 ミラにギルド証を返す。

「二人とも、同乗して構わない」

「ふふふ。ありがとう」

「助かるよ。アルニは商人だから、商人ギルドのギルド証を持ってるはずだ」

「ん。わかった」

 馬で付いてくるぐらいなら、確認しなくても良いけど。

―お前は、もう少し自分の立場もわきまえろ。

 ……後で、見せてもらうか。

「三人は、仲間じゃないんですか?」

「今日、港で会ったばかりよ」

「今日?」

「私もアルニも、冒険者ギルドに情報を集めに来たの。そこで、カイトスに声をかけられたのよ」

「仲間にするなら美人の魔法使いと頭のきれる商人に限るだろ?」

「それから、お酒を奢ってくれる冒険者かしら?」

「良いぜ。次は何を飲むんだ?」

「王都に行ったら、アルニから、お勧めを聞くわ」

 ……良く分からない連中だな。

 だいたい、ランクブランなら表に出てる仕事なんてやる必要はない。仕事を探しに南部から来たなんて嘘だ。だとすれば、この辺の治安の悪化を受けて、対処しなければならない事でも出来たのか?それに、魔法使いと商人の仲間が必要だった?

「お料理をお持ちいたしました」

 給仕が料理を並べて、調度品を眺めていた三人もテーブルに戻って来た。

 

 ※

 

 ランチを終えて、王都を目指す。

 馬車の前方をドニスが護衛し、後方からリリーとアルニタクが付いてくるらしい。

 アルニタクの商人ギルドのギルド証も見せてもらったけど、そこでわかったのは十分信用に足る人物であるってことだけ。ティルフィグンを拠点とする商人で、大手の商会には所属してないらしい。でも、取引先は多いらしく、ギルド証の裏は判子だらけだ。ギルド証の裏には、取引のある商会が自分の商会の印章を押す伝統があるから、裏を見ればどんな商人かわかるんだけど。これだけ重なってたら、商人としてあちこちから信頼されてるってことぐらいしかわからない。

 

 馬車が動き出す。

 俺の隣がベルトランで、向かいがカイトス。その横にミラが座っている。

「すごく良い馬車ね。乗り心地が良すぎて寝ちゃいそうだわ」

「眠いなら、寝てても良いんじゃないか?」

「そうねぇ。でも、何かあったら起こしてね。ランチを奢ってもらった分は働くわ」

 案内の礼も兼ねて奢っただけなんだけど。

 同乗するなら、俺の護衛もやると言われている。こっちの身分は開示してないけど、ギルドで声をかけてきた以上、俺の名前もランクも身分も、すべてカイトスは知ってるはずだ。

「ミラは、変わった防具を装備してないか?」

「もう。どこ見て言ってるの?」

 ミラが笑って胸元を隠す。

 はぐらかすな。

 余っていたクッションを投げるように渡すと、ミラがクッションを抱く。

「魔法使いに、お勧めの防具があるって聞いたのよ」

 ガラス繊維。意図して着てたのか。

「どこで聞いたんだ」

「さぁ、どこだったかしらねぇ……」

 言いながら欠伸をして、ミラが目を閉じる。

 言う気がないらしい。

「カイトスは、何しにラングリオンに来たんだ」

「さっき話しただろ?」

「馬鹿にしてるのか?」

「人が集まる場所なら、仕事に困らないからな」

 どこまでもはぐらかすつもりらしい。

「そうだ。良いものをやる」

「良いもの?」

 渡されたのは……。

「鍵?」

「冒険者のお守りだ」

 綺麗に磨かれた黒い鍵の付いたペンダント。持ち手が冒険者ギルドのマークを象っていて、マークの中央には透明な丸い石が嵌め込まれている。

「ベルトラン。南部では、鍵をお守りにする習慣があるのか?」

「あぁ。魔除けになるらしい」

 向こうの冒険者は、鍵をお守りとして持ち歩く習慣があるらしい。

 

 ※

 

 帰路も何のトラブルもなく王都の東大門前へ到着。

 カイトス、ミラ、アルニタクと握手を交わし、三人を見送る。しばらく王都に滞在するって言ってたけど。目的地は、本当に王都だったのか?

 馬を預け終えたリリーとドニスと合流し、四人で馬車に乗って城へ。

 終業まで時間があるから、会談の成果をまとめておこう。

「エルロック。西南諸国へ向けた資料は、向こうの言語で書くのか?」

「共通語を自在に話せるのは、クエスタニアに留学経験のあるサフィール王子、カリア王女、パロミデス王子の三人だけだ。他の参加者も読めるようにしておきたい」

「わかった」

 大陸会議での発言は、メヘン同盟代表のサフィールが行うだろうけど。資料を作成しておけば、他の国の意見もまとめやすくなるだろう。

「お前は、商人ギルド総長の名を知っているか?」

「知らない」

 冒険者ギルドの総長の名前だって知らないのに。

「エル。総長って?」

「ギルドの代表だよ」

「代表って、ギルドマスターじゃないの?」

「少し違うな。ギルドマスターはギルドを運営する側で、代表じゃない。冒険者ギルド総長になるのは、冒険者。魔術師ギルド総長なら、魔法使いや錬金術師。商人ギルドも同じだ」

 総長なんて、直接関わるようなことなんてないから知らないけど。

 ランクブランになった時に、冒険者ギルド総長の選出方法を聞かされたことはある。現総長によって選出された次期総長候補者の中から、各地のギルドマスターとランクブランの冒険者の投票によって決定するらしい。

「職人ギルド総長と盗賊ギルド総長も?」

「どっちも歴史的には新しいし、所属してないから知らないな」

 総長が存在してるのかもわからない。盗賊ギルドは冒険者ギルドの派生だから、似たようなシステムを引き継いでそうだけど。商人ギルドに対抗して作られた職人ギルドはどうなんだろうな。

「総長の役割って?」

「ただの、対外的な代表だ」

「特別な役割じゃないの?」

「あぁ。各ギルドは独立した存在だし、ギルドの運営なんて、ギルドマスターが居れば問題ないからな」

 冒険者は皆、自分が所属してるギルドマスターを頼る。

 国との交渉だって、冒険者ギルド互助会があれば問題ないし、総長が出るようなことなんてないだろう。

「あ。でも、ギルドの認可を出せるのは総長だけだったな」

「認可?」

「たとえば、王都の冒険者ギルドが冒険者ギルドを名乗れるのは、冒険者ギルド総長の認可があるからだ。総長が認可を取り消せば、冒険者ギルドを名乗れなくなる上に、所属する冒険者も異動手続きを行わなければ冒険者活動を行えなくなる」

『それ、かなり重要な役割じゃない?』

「元々、ギルドの立ち上げをしたのは初代総長だからな。運営に関わる業務はギルドマスターに割り振ったけど、認可業務だけ残ったってところじゃないか?」

 それ以外にどんな仕事があるのかは知らない。

 商人ギルドの総長なら、面倒ごとを抱えてそうだけど。

「で?商人ギルドの総長がどうしたって?」

「現在の商人ギルド総長の名は、アルニタクだ」

「え?」

「さっきの奴がそうだって?」

「確証はない。名前は広く知られているが、本人の顔を知る商人はわずかだ。偽名として騙られることも多い」

「商人の癖に顔が知られてないのか?」

「一部の者しか知らないらしい。お前が言うように、総長が出来ることはギルドの認可だけのはずだが。商人ギルド総長ともなれば、他の役割を兼任してることも多く、命を狙われることもあるという話だ。護衛二人で出歩くとも思えないが……」

 随分、推論だらけの話だな。

 ギルドの実態がわからないんだから、そんなものだろうけど。

「でも、アルニタクさんは外で馬に乗ってたよね?護衛対象だったとしたら、危険じゃない?」

「あぁ。あの二人が護衛を請け負っていたようには見えない」

 普通、護衛対象は馬車に乗せるだろう。

 それに、狙われているなら、名乗らないことも重要だ。身分の確認した時ならともかく、最初の自己紹介では偽名でも良かったはずだ。

「じゃあ、商人ギルドの総長さんじゃなかったのかな」

「わからない。判断に必要な情報が足りないからな」

 商人ギルド総長という立場が、本当に命を狙われる立場かどうかもはっきりしない以上、本人であると積極的に肯定出来る要素も、否定する材料もない。

 ……本当に、なんなんだ。あの三人組。

 仕事に関係ないけど、アレクには伝えておいた方が良いだろう。

 

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