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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
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126/149

137 紡がれる糸

 王族の居住区、書斎。

「じゃあ、はじめるぞ」

「えぇ。大丈夫よ」

「全員、顕現してくれ」

『了解』

 闇の精霊。

『了解』

 大地の精霊。

『わかったわ』

 雪の精霊。

『はーい』

 風の精霊。

『うん』

 炎の精霊。

『はぁい』

 真空の精霊。

『これで全員だね』

 氷の精霊。

「ナインシェ、メリブ、お願い」

『はーい』

 光の精霊。

『えぇ。良いわ』

 水の精霊。

「ブレスト、頼むぜ」

『あぁ。まかせろ』

 そして、雷の精霊。

「皆、マリーの指示に従ってくれ」

 精霊たちが了解の返事をしたのを確認してから、マリーを見る。

 こっちの準備は完了。

「ロザリー、準備は良い?」

「はい」

「じゃあ、始めるわ」

 マリーの指示で、ロザリーが魔法の糸を使って編み始める。

 設計図は、かなり改良された。

 ロザリーが、立体的に編み込むという変わった手法を知っていたのだ。元々、地の布の上に立体的な花が咲いているように見せる技法らしいけど。今回はそれを使って、地の布と立体部分両方に魔法陣を織り込むことにしたらしい。

 これによって、更に効果の高い防具の作成が可能になったというわけだ。

 一方で、製作には、より強く安定した魔法の供給が必要になる。

 魔力を集める為の魔法陣を用意してあるものの、これがどれだけ負担軽減になるかは分からない。

 マリーが倒れる前に作り上げることが出来れば良いけど。精霊二人、しかも光の力が弱い夜に光の精霊を顕現させた状態で、全体の指揮を執りながら作業をするマリーの負担は大きい。

 俺も魔法の糸が作れたら手伝えるかもしれないけど。

 人差し指の指先に集中して……。

『エル、何してるの?』

 指の先から魔法の糸が出る。

『金色の糸?』

 傍に来たナインシェが、俺の糸に触れる。

『どうやって作ったの?』

「糸をイメージしただけ。この力を亜精霊の糸に込めれば使えるか?」

 制作方法は、魔法の力を込めた亜精霊の糸を、魔法陣の形に編み込むことで魔法の力を安定させることだ。

『人間が媒介すると糸に込める魔力が安定しないのよ。だから、精霊の力を借りることにしているの。エルなら手伝えるかもしれないけれど……』

『その力は使えないんじゃないの?』

『え?』

 金色ってことは、月の力。

『そうだったわね。設計図にない力は使えないわ』

 ……ナインシェもマリーも、もう気づいてるよな。

『エル。完成まで魔力を温存しておいて』

「ん」

 精霊の方が魔力の扱いは上手い。

 精霊を顕現させる以外に手伝えることはないな。

 カミーユもリリーも読書中だ。

 リリーが読んでいるのは、女王フェリシアが、初代女王リーシアから聞いた言葉を書き綴った手記。

 内容は一通り読んだけど、考察が必要な部分も多い。

 一つずつ、整理していこう。

 

 まず、リーシアはヴェラチュールに会っていた。

 そして、あいつの手引きによって氷の大精霊と契約している。

 だとしたら、あいつは、いつから神の台座に居たんだ?

 

 最初に本体が眠る封印の棺が開いたタイミングは、地震の観測状況からも、千二百年前で間違いない。

 エイダが封印を解き、本体の棺が開き、あいつが出てきた。

 当時、神の台座に居たパスカルは、あいつと戦ったはずだ。

 そして、防衛に成功した。

 

―失敗する前って、コールポでグラシアルに飛べたんだよな?

―……はい。東が砂漠になった後もグラシアルに飛べました。

 イレーヌは、こう言っていた。

 コールポで飛べる転移の魔法陣が存在している以上、本体が入っていた棺は、再び封印され直されたことになる。

 でも、パスカルが封印を行ったとは思えない。あの魔法陣は、精霊が扱うには複雑過ぎる。

―図柄はあいつから聞いてるんだよ。

―……いずれ、俺の力で封印し直さなければならない時が来るかもしれないからって。

 そんなことが出来たのはルネだけ。

 千二百年前ならレイリスも来ていないし、地上のどこかに居たルネが協力していたとしてもおかしくない。

 それに、協力者は他にも居た。

 グラシアル王国が信仰していた太陽の女神。

 砂漠でレイリスが月の女神と呼ばれていたように、この大精霊はグラシアル地方で女神と呼ばれていた。神の台座の近くに居たのは、パスカルと共に本体の棺を監視していたからだ。

 

 千二百年前。

 あいつは外に出た。

 けれど、もう一度封印されることになった。

 その時に出てしまった神の力の一部は、エイダと共に封印されることになった。

 

 次にあいつが現れるのは、八百年ほど前。

 あいつはアルファド帝国に取り入り、レプリカの棺を神の台座から盗ませることに成功した。棺からはエイダが飛び出し、周囲一帯を砂漠に変えたが、あいつは神の力の回収に成功し、その力を皇帝に分け与えた。

 当時起こったことは、手記からも伺える。東の地が砂漠になった事実は、辺境のグラシアル王国まで届くほどの出来事だったらしい。

 

 ……いや。

 これだとおかしい。

 八百年前に観測された大地震は一回だけ。

 この大地震の正体は、エイダが眠っていたレプリカの封印の棺が開き、神の力が出たことによって起こっている。

 あいつが封印の棺の外に出たなら、その時に起こるはずの大地震が、もう一つ観測されているはずなのに。大地震が起こったのは一度だけ。

 

 つまり、本体の封印の棺は、この時、開いていない。

 あいつの本体は、千二百年前からずっと外に出ていたってことになる。

 

 でも。それなら何故、転移の魔法陣が使えたんだ?

 月の魔法を使った封印の魔法陣の図柄は、どれも同じ。魔法陣に特定の名称が刻まれないのは確認済みだ。

 封印の棺に本体の代替品が入っている?封印の棺にコールポの名が刻まれている?単に、本体が神の台座に居たから使えた?中に神の力さえ入っていれば良い?

 ……いずれにせよ、使えたからには何か理由があるんだろう。

 

 パスカルたちが神の力の防衛に成功している以上、あいつは外に出ていたとしても、神の力を持たない状態だったと思うけど。

 大人しく神の台座に居たのか、何かしていたのか。

 八百年前まで、あいつが関わったような大きな歴史の動きはない以上、知ることは出来ない。

 

 もしかしたら……。

 この期間、あいつは魔方陣の研究をしていたのかもしれない。自分の力で封印を解く為に。

 リーシアを転移の魔法陣でグラシアルまで送り届けている以上、あいつは封印の魔法陣が転移の魔法陣として活用できることを知っている。

 でも、どれだけ研究しても、自分で封印を解くことは不可能だった。

 

 封印を解くには大精霊の協力が必要だ。

 そして、棺を開くには人間の協力が必要不可欠。

 

 ……なら、千二百年前に本体の棺を開いたのは誰だ?

 神の台座に人間は居ない。エイダが封印を解いてしまったところで、棺を開く第三者が居なければ、棺から出るのは不可能だ。

 あれは、内側からじゃ開かないはずだし……。

 アルファド帝国が、あれほど手こずった場所に、千二百年の航海技術でたどり着けるとは思えない。

 

 もっと簡単に神の台座へ行く方法がある?

 一応、ヴィエルジュの力を借りるって方法はある。

 リーシアの手記によると、神の台座には植物が存在している。それは、リーシアが打ち上げられた場所の描写や、あいつが家として使っていた大樹の存在からも明らかだ。

 何より、リーシアが食べたという穀物をミルクで煮たもの。

 これは、ガランサスと呼ばれる実を加工したものに違いない。

 ガランサスは、樹木等に寄生するつる性の寄生植物と考えられている。葉はなく、つるに林檎ぐらいの大きさをした乳白色の実を付ける。実の中身を加工すればミルクが作れるし、硬い皮も食べることが可能だ。穀物のようなものは、この皮を砕いて加工したものだろう。

 母親を亡くした赤子の傍にやってくると言われる不思議な植物で、この実で作ったミルクは、栄養価が高く赤子に与えるのに適している。大陸中で見かける植物だ。

 ガランサスが寄生植物である以上、女王の手記で言及されていなくても、神の台座には他の植物が存在している可能性がある。

 植物が根を張る環境があるなら、ヴィエルジュに頼んで、神の台座に行くことが可能かもしれない。

 ……ヴィエルジュが、俺たちを運んでくれる気があるかどうかはともかく。

 

 他の方法……。

 あ。海が不可能なら、空がある。

 ドラゴンの協力を借りることが出来れば、飛んで行くことが可能だ。

 ルーベルが力になってくれるなら、俺も行くことが可能かもしれない。

――私は静観を構えるつもりでいたが、もし人間にとっての危機が訪れるならば、一度だけ人間に味方することを誓おう。

 この発言は、あいつと戦うことを指していたはずだ。でも……。

――お前もまた、私の敵となるのか。

 あいつとルーベルの関係は聞いておいた方が良いだろう。

 

 結論として。

 神の台座は、人間が一人で行く方法が存在する。

 千二百年前。

 炎の大精霊が封印を解いた後、人間が棺を開くことは可能だった。

 それが誰かは特定出来ないけど。

 

 次に歴史が動くのは、六百年前。

 あいつが支援したアルファド帝国は、ラングリオンの初代国王と英雄たちによって滅ぼされた。

 最も、英雄たちが倒したのは最後の皇帝ベネトナアシュで、あいつは逃げている。

 

 この情報がグラシアルに届いたのがいつかはわからない。

 でも、手記でリーシアが氷の大精霊と会ったのは、その後で間違いないはずだ。

 

 あいつはアルファド帝国が滅びた後、神の台座に戻った。

 そして、氷の大精霊を怒らせてグラシアル王国に被害を出させ、王国第一の魔法使いをそそのかしてリーシアを神の台座に寄越した。

 あいつが干渉したとすれば、リーシアが選ばれたのは必然。あいつは、氷の大精霊と契約させる為に、精霊と一切契約していないリーシアを招いたんだ。人間と契約すれば、大精霊が神の台座を離れると考えて。

 

 あいつの目的は、神の力を得ること。

 

 ここまでの推測が正しければ、この時点であいつが持っていた神の力は、最初に棺から出た時に持ち出した力と、エイダの棺から取り出した力だけ。

 エイダの棺から神の力を取り戻したあいつは、自分の力が足りないこと、つまり、本体が入っていた棺に、かなりの量の神の力が残されていることに気付いたんだ。

 けど、あいつは自分の力じゃ棺を探せない。

 それどころか、あれだけ長い間アルファド帝国と関わっていながら、他の棺を一つも見つけることが出来なかった。

 だから、あいつは氷の大精霊を追い払い、所在が判明している棺……、神の台座にある封印の棺を開こうとしたんじゃないのか?

 あるいは、棺だけをどうにか奪おうとしたのか。

 

 でも。

 棺の中身はパスカルが持ち出した。

―最も、この時、本当はもう一つの条件があった。

―パスカルとの約束で、語ることは出来ないが。

 手記の中で語られていた条件が、これだろう。

 パスカルは太陽の大精霊の力を借りて封印を解くと、棺をリーシアに開かせ、神の力をリーシアに封印したんだ。リリーにも同じことをやったんだから、パスカルに出来たのは間違いない。

 

 実際、力を得た女王が行ったことは、国から雪と氷を取り払うこと。

 女王が起こした奇跡の正体は、氷の大精霊の力ではなく神の力だったと言われた方が納得がいく。

 

 女王の崩御と共に、本来なら神の力は解放され、あいつが回収可能な状態になっていたはずだった。

 けど、グラシアルには、あいつが期待したほどの力は残っていなかった。

 リーシアが持っていた残りの力は大地震を引き起こしたものの、その大半は、リーシアが崩御する前にパスカルがリリーに封印し直していたから。

 あいつは、残りの力の行方を探していたに違いない。

 

 そして、見つけた。

 あの日。

 アレクとリリーの前にベネトナアシュが現れたのは、リリーに神の力が封印されていると確信したからだ。

 でも、アレクとレイリスがリリーの盾になったから、あいつは諦めることにしたんだろう。

 だから……。

 

 違う。理由はそれだけじゃない。

 

―声が聞こえたから。封印解除、って。

 

―エル、助けて。

 

 あの声の正体。

 見えない精霊。

 あいつが、レイリスと同じぐらい驚異を感じる精霊の存在。

 きっと、リリーの近くに居る。

 

 太陽の大精霊。

 

 ※

 

「完成しました」

 完成?

「皆、ありがとう。顕現を解いて大丈夫よ」

 マリーの言葉に、部屋に居た精霊たちが顕現を解く。

「サイズは大丈夫だと思うけど。リリー、着てみてくれる?」

「うん。わかった」

「カミーユは、向こうに行ってて頂戴」

「わかったよ」

 カミーユが戸口に置かれたパーティションの裏に行って、マリーとリリーは本棚の影に作られた着替えスペースへ行った。

 ロザリーはテーブルの上の小物の片づけをしている。

「この糸を使った編み物って、他にも出来るか?」

「出来ますよ。魔法を込めなくても充分頑丈で、衣類を作るのに適していると思います」

 糸巻きの糸を引くと、ロザリーがハサミを出す。

「これぐらいですか?」

「あぁ」

 切られた糸に魔法の力を込めると、糸が金色に輝く。

「リリーのリボンを作るのも良さそうですね」

「良い案だ」

『その前にぃ、魔力の回復をしておいた方が良いんじゃなぁい?』

 そうだな。

 目を閉じて、集中する。

 大地、闇、水、炎、光、冷気、大気、真空、天上と地上を繋ぐ、すべての元素。命。

 自然と、世界とに同調する。呼吸を合わせる。

 夜の闇の気配が強い。冷たい空気を感じるのは、寒い季節だからか。

 ……それに、月の力。

 空が曇っていようとも、目に見えなくても感じる。地上にも常に存在しているんだ。

 ゆっくりと、目を開く。

「すごく空気が澄んだ気がします。何をしたんですか?」

 これで魔力の回復を出来る人間は居ないんだっけ。

「共鳴だよ」

 これは、レイリスから教わった方法だ。真空の精霊の力を借りて魔力の補給が可能なように、月の精霊の力を借りた魔力の補給方法があるのかもしれない。

「エル。着替えたわよ」

 リリーが本棚の影から出てくる。

 おぉ。

「可愛い」

 リリーが俯く。

「……ありがとう」

 可愛い。

 見た目には、凝ったデザインのワンピースにしか見えない。

「似合ってるよ」

 流石、ロザリーだ。

 リリーらしくて可愛い。

「軽い実験をするわ。リリー、そこに立って」

「狭いんだから、危ない実験はするなよ」

「心配ないわ」

 部屋の中央に立ったリリーに向かって、マリーが炎の玉を投げつける。

 ……危ないことはするなって言ったのに。

 炎の玉と言えば、冬のラングリオンでは暖炉に火を灯す時に使うものだけど、亜精霊への攻撃にも有効なぐらいの火力があるものだ。

 炎を浴びたリリーは、平然な顔をしている。

「大丈夫か?リリー」

「大丈夫。ちっとも熱くないよ」

「もちろんよ。設計通りに作れば……。えっ?リリー、これ、付けたままだったの?」

「え?うん」

 マリーが見てるのは、カーバンクルの腕輪だ。

「ここだけ熱くならなかった?」

「平気だよ。中に服を着てても大丈夫」

「不思議ね。編み方を変えたから平気なのかしら。……リリー、試しにマントを羽織ってみてくれる?」

「うん」

 マリーがリリーにマントをつけて、もう一度、炎の玉を投げつける。

「わっ」

「リリー!」

 マントが火だるまになって燃え上がると同時に、マリーが水の魔法を使って炎を消した。

「大丈夫っ?」

「大丈夫。全然、熱くなかったよ。それに……」

 リリーが自分の体を見る。

「見て。濡れてない」

「本当だわ」

 燃えたのはマントだけだったらしい。

 魔法の防具でもなんでもないブーツまで、水の魔法を弾いてるなんて。

「直接身に付けてるものは、保護対象になるのかしら……。もう少し実験が必要ね。でも、エル、これで納得した?」

「もちろん」

 設計図通りなら、完璧な防具だ。

「いい加減、俺もそれ、見せてもらえるんだよな?」

「あら。カミーユ、まだ居たの?」

「居るに決まってるだろ。誰がマリーを護衛の所まで送って行くと思ってるんだ」

「そういえば、そうだったわね」

 マリーの護衛は、王族の居住区に入る許可を得ていない。だから、城内で待機中の近衛騎士の所まで、カミーユが送ることになっている。

「せっかくだから、雷の魔法ぐらい使ってもらおうかしら」

「はぁ?」

「やめろ」

「良いよ」

「リリー、何言ってるんだ」

「大丈夫。皆が作ってくれたすごい防具だって知ってるよ」

「駄目に決まってるだろ」

 なんでそう、危険なことを進んでやろうとするんだ。

「あー。わかったよ。ブレスト、もう一回顕現してくれ」

 ブレストが顕現する。

『何だよ。俺様に魔法使わせる気か?』

「さっきの炎の魔法ぐらいの火力で出来るか?」

『あんな弱っちぃ魔法で良いのかよ。ほら、リリー、行くぜ』

「うん」

 ブレストが、雷の魔法を放つ。

「!」

 こんなの、まともに浴びれば体に麻痺が残るレベルだ。

 でも、リリーは変わらずに同じ場所で立っている。

 燃え残っていたマントだけが消し炭となって、その威力を物語る。

 ……なんて性能だ。

「マリー。すごいな。こんなものを完成させるなんて」

「え?……えぇ。当然よ」

 想像以上だ。

「あらゆる魔法に対抗する完璧な防具。虹のワンピースって所かしら」

『素敵だわ』

 虹……。

「これはリリーの物よ。自由に使って頂戴」

「良いのか?」

「良いの?」

「元々、リリーに渡す約束だもの。それに、これはエルとロザリー、カミーユの力を借りて作ったものよ。魔法研究所の成果として提出なんて出来ない。今度は、研究所で作れるものを目指すわ」

 魔法研究所としては、真空の精霊の力をどうやって借りるかが課題だろうけど。

「マリー」

「まだ何かあるの?エル」

「ありがとう」

 誰が手伝ったものであろうと、これが、マリーの研究成果であることに変わりはない。

「当然よ。大切な親友の為だもの。リリー。エルなんかに付き合ってたら、命がいくつあっても足りないわよ。これが役に立つことを祈ってるわ」

「ありがとう、マリー」

 これだけ完璧な防具なら、リリーを十分守ってくれるだろう。

 

 ※

 

 明日からリリーは主命で王都を離れるらしい。

 俺もセルメアに会いに行く予定だから、また会えなくなる。

「エルに、聞きたいことが……」

「何?」

「キマイラの倒し方」

「キマイラ討伐に行くのか?」

「うん」

 同行者がカミーユとバーニーだけだから、今回の主命は何かの調査が目的だと思ってたんだけど。他にも請け負ってる仕事があるのかもしれない。

 怪我をしなければ良いけど。

「キマイラと戦ったのは学生の頃だから、詳しく覚えてない」

「えっ?子供の頃に戦ったの?」

「あぁ。メラニーに手伝ってもらって、無我夢中で戦ったんだ」

「怪我しなかった?」

「そんなに。かすり傷程度だ」

 マリーと一緒にグラム湖に行った時の話だ。

「キマイラは、四つの部位を持つ。山羊の頭には、強力な角が二本生えてる。獅子の頭は、ブレスを吐く。蛇の尻尾は毒のブレスを吐くから、食らったら厄介だな。後は、山羊の胴体。こいつの体当たりは強力だ。すべて独立した部位だから、一つずつ無力化させることも可能だ。あの時は、尻尾、山羊の頭、獅子の頭、山羊の胴体の順で倒したよ」

「胴体だけで終わりじゃないの?」

「胴体を倒せば消えるだろうけど。胴体以外の部位は大したダメージを与えなくても簡単に無力化できるから、状況に合わせて戦ったら良い」

 一人じゃないし、リリーなら問題なく戦える相手だろう。

 ……大丈夫。

 


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