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旧作3-1  作者: 智枝 理子
Ⅵ.大陸会議編
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123/149

133 首謀者探し

 スコルピョンの四日。

「重い」

 この衣装、装飾が多過ぎる。

「ハンカチをどうぞ」

 ライーザが、俺の胸ポケットにハンカチを刺しこむ。

「食事はライーザがサービスをするよ」

 毒が出るなんて思いたくないけど。

 目の前に置かれた姿見を見ながら、首のジャボを緩める。

「これ、前にアレクが着てなかったか?」

「良く覚えているね」

 何年か前の新年の挨拶で着てた気がする。

「いつも、こんなに不便な服を着てるのか」

「余計な装飾は外しているよ」

 外してるように見えない。

「剣術大会の衣装で良かったのに」

「国賓との会食には向かないね」

 袖にまでフリルがあしらわれてるんだから、これだって食事には向かない。

「ティルフィグンとの会談も、これ?」

「そうだね」

 ティルフィグンとの会談は、今日の夕方に決まった。場所は、王国関係者が宿泊するベーリング家。

 本当は、もっと早い時間を望んでいたらしいけど、ハルトとの約束があったから伸ばしてもらったらしい。夕食もベーリング家で摂ることになる。

「明日でも良かったのに」

「明日は、午前はディラッシュ王国、午後はグラシアル女王国と会談が決まっているよ」

「は?」

「エルは人気者だね」

 こんなに立て続けに会談が決まるなんて。

「ディラッシュが到着したのは、いつだ?」

「昨日、港に到着したそうだから。今日中に王都に到着するんじゃないかな」

 有り得ない。

 港で国賓の迎えに出た国の関係者が、ディラッシュの意向を聞いて報告して来たんだろうけど。来てすぐに会談したいなんて。ここまで大きな議題なら、交渉の為の情報整理をしてから臨むはず……。

「議題をリークした奴は誰だ」

「リックだよ」

 別行動の間に、どれだけのことをしてるんだよ。

 大陸河川の話しが議題に上ることは、クエスタニア周辺国は把握済み。どの国も、会議に向けた準備をして来てるってことか。早めに担当者と会っておきたいと考えるのは、どこも一緒だろう。

「セルメアに会いに行く予定だったのに」

「明後日になるね」

「遠出の時も、これを着ろって言わないだろうな」

「まさか。準礼装で構わないよ。ネクタイは結ぶようにね」

「ループタイで良い?」

「駄目だよ」

 面倒だ。

「新しい衣装は大陸会議までに仕上げる予定だから、我慢してくれるかい」

「これ以上、重いのは無理」

「午前、午後、夕方で衣装を変えるからね」

「な……」

「大陸会議は、最新の流行を見せ合う場でもある。会議の担当者は、文化を広める顔なんだよ」

「そんなの、聞いてない」

 ノックがあって、部屋の外で護衛中のグリフが顔を出す。

「ドニスとベルトランが来たぜ」

 連絡だけ終えて、扉が閉まる。

 王族の居住区の手前まで二人が来たらしい。

「マリユス、リリーシア。エルに付き添ってくれるかい」

「はい」

「はい」

 リリーの恰好をしているマリユスと、専属メイドの服を着たリリーと一緒に、部屋を出る。

 

 ※

 

「おはようございます。エルロック様」

「おはようございます」

「おはよう。ドニス、ベルトラン。……それに、フランソワ、ジル、リオネル」

 グリフは、二人が来たとしか言ってなかったのに。

 ベルトランのメイドと侍従に加えて、辞職願を出した三人まで来てる。

「事前に連絡のない奴は連れて行けないぞ」

「この三人は、辞職願を取り下げる為に来たんだ」

「俺は辞職願を預かってない。室長はセドリックだ」

「秘書官にも人事権はあるだろう。セドリックが許可したとしても、お前が拒否すれば復職は不可能だ」

 嫌味か。

「悪かったよ。正式な手続きを経ずに、ベルトランを異動させたことは謝る。本来なら、事務室の利用状況及び業務上の不安や不満に関し、現状の客観的把握と詳細な聞き取り調査を先に行うべきだった。この先、正式な手続きを経ずに独断で人事の改変を行うことはしない」

「だそうだ」

 ベルトランが促すと、三人が頭を下げる。

「許可を頂き、ありがとうございます」

「お騒がせして申し訳ありませんでした」

「ベルトラン様を、よろしくお願いします」

 そういうことか。

「わかった。フランソワ、ジル、リオネル。優秀な事務官が戻って来てくれて嬉しいよ。歓迎する」

「はい」

 返事をした後、三人がもう一度礼をして去る。

 辞職願を取り下げるよう、ベルトランが三人を説得したんだろう。

 だとすると、三人が辞職願を出したのは、ベルトランに対する俺の態度への不満?その程度の動機で、わざわざ入手の難しい毒を用意するとは思えない。

 毒の混入者は別に居る。

「会談に参加できるのは、ドニスとベルトランだけだ。従者は連れて行けないし、武具の所持も認められない」

 ベルトランが両手を上げる。

「調べたいなら調べろ。何も持っていないし、この二人は待たせる」

 見たところ、何か持ってる様子はないよな。

 主人が丸腰だから、従者が付き添ってるんだろう。

「良いよ。付いて来てくれ」

「ベルトラン様、いってらっしゃいませ」

 

 二人を連れて、来た道を戻る。

 ハルトの部屋とアレクの部屋が並ぶ廊下を進むと、アレクとライーザが部屋から出て、グリフと一緒に来た。

 それを見たドニスとベルトランが、膝を付いて深く頭を下げる。

 わざわざ出てくるなんて、何の用だ?

 グリフが見慣れない剣を持ってるけど……。

「エル。御挨拶は丁寧にね」

「わかってるよ」

「殿下は考古学がお好きだよ」

「その分野は得意じゃない。他にないのか?」

「これを返してくれるかい」

「返す?」

 グリフが持ってる大剣を受け取る。

「最近、犯罪者の根城を捜索していたら出てきたものなんだ。剣の名工、ルミエールの作品だよ」

 ブルースの異名は大剣狩り。

 あいつ、クエスタニア王家の剣まで盗んでたのか?もしくは、神官を密入国させるための対価だったのか。

「詳しい説明は省いて良いのか?」

「近い内に私から説明するよ」

「わかった」

 ハルトの心証を良くするために、返却のタイミングを俺に任せてくれたんだろう。

「二人とも、顔を上げてくれるかい」

 俺の後ろで跪いたまま、ドニスとベルトランが頭だけ上げる。

「ドニス」

「はい」

「君のことはアルベールからも聞いている。エルを頼んだよ」

「御意。殿下の御期待に沿えるよう、このドニス、全力でエルロック様を御守りさせて頂きます」

 アレクが頷く。

「ベルトラン」

「はい」

「殿下はエルと個人的な付き合いがある。今回の会談を快く引き受けて下さったのも、それが理由だ。けれど今日は、私の秘書官という立場で会食に臨むことになる。ラングリオンの代表として、礼儀を欠かさぬよう、協力を頼むよ」

「かしこまりました。謹んでお受け致します」

 言われなくても、敬語ぐらい使うけど。

「殿下への贈り物は、ベルトランに預けるよ」

 ライーザがベルトランに箱を渡す。

「お預かり致します」

「吉報を期待しているよ」

 そう言って、アレクがマリユスとリリーを連れて部屋に戻る。

 さてと。行くか。

 

 ※

 

「ようこそ。お待ちしておりました」

「お久しぶりです、ハルトヴィヒ王太子殿下。会談を快く受け入れて下さり、感謝しております」

 ハルトがくすくす笑う。

「どうか、楽にしてください」

「皇太子秘書官として、主に恥じぬよう仰せつかっておりますから」

 隣でベルトランが咳払いをする。

 余計なことは言うなって?

「こちらは、大陸会議で私と同じ議題を担当するベルトラン様と、護衛を担当する騎士です」

「はじめまして、王太子殿下。書記官補佐秘書官、ベルトランと申します。神聖王国クエスタニアの輝ける王太子殿下にお会いすることが出来て光栄でございます」

「お初にお目にかかります、王太子殿下。アルベール様の近衛騎士、ドニスと申します。お会いできて光栄です」

「はじめまして。本日の会談を心待ちにしておりました。御二方を歓迎いたします。こちらは、聖堂騎士のヒルダです」

 ヒルダが、静かに礼をする。

「王太子殿下。こちらは、殿下にお返しするよう、主から預かった剣です」

 ハルトが頷く。

「ハーヴィですね」

 大剣をヒルダに渡す。

 ハーヴィ。高き者だったっけ。

「何故、ここに?」

「我が国に密入国した犯罪者が持ち込んだ物だとか。詳しいことは、近い内に主からお話しがある事でしょう」

「興味深いお話しですね。ありがとうございます」

「もう一つ、お渡ししたいものがあります」

 ベルトランの方を見ると、ベルトランが一歩進んで、箱を開いて見せる。

「アレクシス様からの贈り物です」

「これは……」

 ハルトが、嬉々として箱の中身を取り出す。

「遺跡からの出土品ですね。こんなに精密な細工を作る技術があったとは……」

 ストーンカメオだ。

 アルファド帝国時代のものか?

「殿下。御預かり致しましょう」

「そうですね。お願いします」

 大剣を剣立てに置いたヒルダが、ベルトランから箱を受け取る。

「大変貴重なものを頂き、ありがとうございます。私が喜んでいたと、アレクシス様にお伝えください」

「かしこまりました。お気に召して頂けたようで何よりです。それでは、テーブルの御準備をしてもよろしいでしょうか」

「はい。お任せいたします」

 持っていたベルを鳴らすと、ノックの後に扉が開く。

「失礼いたします。本日の御食事のお世話をさせていただくライーザと申します。それでは、テーブルの御準備をさせて頂きます」

 ライーザがメイドに指示してテーブルを運ばせる。

 少し時間が空くな。

 考古学が好きだって言ってたけど、遺跡の話題でも振ってみるか?

「変わった腕輪をされているのですね」

 ……ハルトの方から話題を振って来たか。

「これは、西南諸国の商人が取り扱っていたものです。ご覧になりますか?」

「是非」

 リリーから貰った腕輪を外して、ハルトに見せる。

「珍しい細工ですね。西南諸国と言うと、宝石はトルマリンですか?」

 良くわかったな。

 返してもらった腕輪をつける。

「御明察の通りです。考古学のみならず、宝石学にも興味がございましたか」

「いえ。詳しく学んでいるわけではありません。私も西南諸国の方から、キャッツアイ効果のあるトルマリンの首飾りを頂いたことがあったものですから。非常に珍しい石だそうですね」

 首飾りに使われるぐらいなら、腕輪の蛇の目に使われているものよりずっと大ぶりなトルマリンなんだろう。そっちの話しなら、ベルトランに任せるか。

「そこまで珍しいものとは知りませんでした。ベルトラン様は御存知でしたか?」

「そうですね……。トルマリンは西南諸国で多く産出される宝石で、多種多様な色が採掘されることでも有名でございます。しかしながら、現地では宝石の鑑定者が少ない為、価値の高いトルマリンを手に入れるのは容易なことではございません。首飾りに使われるほどの大きさとなれば、王太子殿下がお持ちのトルマリンは、非常に価値の高いものとお見受けします」

「博識でいらっしゃいますね」

「いえ、とんでもな……」

「ベルトラン様は、ラングリオンでも西南諸国の文化にお詳しい方ですから」

「そうだったのですか」

 ライーザが目の前に来て、頭を下げる。

「テーブルの御準備が整いました」

 食前の閑談としては成功だろう。

 まだ、ベルトランは緊張してるみたいだけど。

 

 ※

 

 あぁ。疲れた。

 会談は無事に終了。

 少し休憩したら、すぐに出発しなくちゃいけない。

 ドニスとベルトランも別室で休憩しているはずだ。

「順調に終わったようだね」

「大きな問題はなかった。ティベリス大河の活用はクエスタニアでも話題になってたらしくて、向こうの考えも一通り聞けたよ」

 前にもハルトが話していたけど。今回は、より詳しく教えてもらえた。

「何か注文はつけられなかったかい」

「造船技術を勝手に買い取るのはやめろって釘を刺されたぐらいかな」

 あれ。

 デザート片手に、笑顔で柔らかい口調で話して来たからな。

 どんな技術を買うかは、こっちの勝手だって言いたかったけど。場に水を差すようなことを言える雰囲気じゃなかった。

 見た目に反して、交渉が上手なのは間違いない。

「どの都市の技術を国のお墨付きとして売り出すかを考えているんだよ」

 都市の勢力を王家でコントロールする為?

「国として何を買い取るかは向こうで決めて構わないよ。優劣を決めるのは商人ギルドだ。どうせ最初だけの話しだろう。研究所が開発中の燃料を売れば元は取れるよ」

 リリーが乗った、最新型の船の燃料か。

「後は、考古学の分野で協力していきたいって言ってたな」

「何て答えたんだい」

「研究の方向性が同じかどうかわからない。ラングリオンの成果で役に立てることがあるなら、情報の提供ぐらいはするって答えておいたよ」

「良い答えだね」

「ハルトは、前向きに検討するって言って欲しかったみたいだけど」

「それが無理なのは殿下も御存知だよ。聖典の記述と矛盾する事実が出て来ると揉めるからね」

 確かに。

「詳しいことは報告書にまとめる」

「休まなくて良いのかい」

「リリーは?」

「ここには居ないよ」

 この分じゃ、夜まで会えない。

 

 ※

 

 ベーリング家までの移動は馬車。

 城の正門を出た後、オルロワール家を迂回する必要があるから、到着まで時間がかかる。

 ドニスとベルトランの従者二人は徒歩で付いて来ているはずだ。

 そういえば。

「シガレットは吸わないのか?」

 喫煙者は、日常的にシガレットを吸わないと気が済まないって聞くけど。

 ベルトランからは、シガレットの臭いがしない。

「お前のせいで買えなくなったからな」

「なんで?」

「シガレットは、貴族が所属する会を通じて買うものだ。異動後に所属する会を退会させられた」

 左遷によって、貴族の務めから外されたから?

「シガレットぐらい商人から買えるだろ」

「同じシガレットを庶民に販売することはない。質も価格も違う。城内で出回るシガレットは、各会長のお抱え商人から特別に買い付けるものだ。シガレットの種類を見れば、どの会に所属しているか解る」

 会って、貴族の派閥のことか。

「もう持ってないのか?」

「欲しいならやる」

 ベルトランがシガレットを出す。

 結構余ってるんじゃないか。十本ぐらいある。

 見た目は普通の紙巻きシガレット。中身がどうかなんてわからないけど、使われてる紙は上質だ。持ち手部分は鮮やかな青色になってる。

 そういえば、俺が初めて事務室に行った時、喫煙者がたくさん居たっけ。

「事務官たちも入ってるのか?」

「正会員は貴族だけだが、紹介のある賛同者を副会員として迎えている。シガレットを買う為だけに入会する者も居るようだが」

「ジョージ、ノルベール、フランソワ、ジル、リオネルか?」

 あの時、シガレットを吸っていた五人。

「三人は今日、脱退した」

 辞職願を取り下げた三人?

「他の二人は?」

「今朝、給湯室での喫煙が見つかって捕まった。昨日の小火騒ぎも彼らの火の不始末という話しだ」

 小火騒ぎの原因は喫煙?

 今朝の時点で、事務官が更に二人も減ってたなんて。

「三人が戻ってくれて良かった」

 五人も減れば、事務室が回らなくなるのは明らかだ。

「皇太子殿下に御迷惑をかけるなど、あってはならないことだからな」

「会の方は、辞めて良かったのか?」

「無くとも生活に支障をきたさない」

 つまり、ベルトランも三人も、そこまでの依存者ではなかった。

 逆に、城のルールを破って喫煙した二人は、生活に支障をきたすほど依存度が高かったと言える。だとすれば、事務室で毒を盛ったのはジョージかノルベール?

 依存者ならシガレットを使った交渉をしやすい。シガレットを引き合いに出して、薬を盛るよう指示することが可能だ。俺を殺そうとしているのは、会の人間。

「その会って、どんな会なんだ?」

「私が所属していたのは、純血の会。お前のようなブラッドアイや黒髪の人間と相容れない会だ」

「ロザリーを認めないってことか?」

「国王陛下がお認めになった御婚約に反対する貴族など居ない。しかし、殿下が黒髪の者を御傍に置くことは快く思っていない」

 矛盾してるけど。

「純血の会が気に入らない黒髪って、新しい近衛騎士のことか?」

「メイドもだ」

「メイドって、クロエのことか?」

「それだけじゃない。他にも居るだろう」

 ロザリーとクロエは別人だと思われてるらしい。

 クロエの役は俺がやってたんだからそんなものか。ロザリーがヌサカン子爵の隠し子と公表されてる以上、ロザリーとクロエが同一人物だと考える奴なんて居ない。

「他って、どこまで把握してるんだ?」

「表に出ない者の名など知らない。昨日からお前に付き添っているメイドは、会でも調べているかもしれないが」

 流石に、メイドのリリーとクロエは別人だと思われているか。

 リリーの素性は調査中。

 皇太子近衛騎士リリーシアと専属メイドのリリーが同一人物と考える奴は居るかな。俺との関係を調べればすぐにわかりそうだけど。変装マリユスと一緒に歩かせておけば、情報を混乱させることは可能だ。

 それに、何の意味があるかは別にして。

「メイドはともかく、ロザリーを容認するなら新しい騎士も容認して良いんじゃないのか?近衛騎士になったのは大会優勝者の願いで、陛下が認めたことだ。アレクが進んで迎えたわけじゃない」

「彼女が使っていた名剣はアレクシス様が用意されたものと聞いている。御二人に繋がりがあるのは明らかだ。剣術大会の優勝候補として殿下が送りこんだ刺客なのだろう」

 刺客って。

「アレクの名代は俺だぞ」

「トーナメント表を作成したのは、アレクシス様に協力的なお立場のアルベール様だ。勝利を確実にする為、一般の部から参加させた二人を、お前とオルロワール家の名代が入らないブロックに入れたんだろう」

 リリーの参加はアレクの意思じゃないけど。

「二人って?」

「刀の国から来た黒髪の剣豪も協力者だと言われている」

 ムラサメ?

「あいつは関係ないぞ」

「お前が持っていた剣は、刀の国のものだろう」

「あれは、王都に店を構えた刀鍛冶からアレクへの献上品だ。俺がアレクの為に作ってくれって頼んだんだよ」

 アヤスギとムラサメは同郷で知り合いだけど。

「その事実を知っている者は皆無だ」

 ……ムラサメの奴。強過ぎたせいで、変な巻き込まれ方してるな。

 でも、剣術大会が、王室に相応しい婚約者を立てたい貴族対アレクの構図だったとしたら、アレクが各ブロックに刺客を送り込むという推測が立ってもおかしくないのか。

「どちらにせよ、新しい騎士がアレクシス様の知り合いである点は変わりない」

「それと、撫子の騎士を認めないことに何の意味があるんだ。黒髪じゃなければ良かったって言うのか?」

「大会時には栗色の髪であったにも関わらず、騎士となった時には黒髪に変わっている」

「参加者が変装するなんていつものことだろ」

「彼女は素性がわからない上、アレクシス様と、どういう御関係なのかも不明だ。問題が起きてからでは遅い。国王陛下が憂慮されるようなことなどあってはならないのだ」

 フラーダリーみたいな子供が出来たらまずいって?

「まさか、フラーダリーを城から追い出したのは、純血の会?」

「それは違う。彼女が剣花の紋章を持っていたことは公にされていた。彼女は自らの意思で城を出たと言われている」

 フラーダリーも、自分で決めたって言ってたけど。この分なら、嫌がらせぐらいはあったはずだ。陛下がフラーダリーに紋章を渡したのは、貴族連中から守る意味もあったんだ。

「問題なんて起きるわけないだろ。一緒に居たいと望んでいた相手が傍に居るんだぞ。アレクがロザリーを婚約者にする為に、どれだけ苦労したと思ってるんだ。アレクは自分の立場をちゃんと解ってた。ロザリーとの婚姻を、陛下も国民も簡単には受け入れないってことも解ってた。だから、誰もが納得できる形でロザリーと一緒になる方法を探し続けて、皇太子の座を捨てる覚悟までしたのに。アレクがどれだけ純粋にロザリーを愛してるのかわからないのか」

「……それが、純血の会の考えだ」

 アレクの考えを全く理解する気が無い集団だってことは、良くわかった。

「純血の会の会長は?」

「オルロワール伯爵の秘書官、コランタンだ」

 こいつが、一連の騒ぎの黒幕?

 いや……。

「純血の会の正会員って、城内で働く貴族以外にも居るのか?」

「もちろん」

「ラングフォルド伯爵も?」

「前伯爵は、支援者であっても会員ではなかったと聞いている」

 支援者。つまり……。

「ダミアン子爵は?」

「正会員だ。いや。だったと言うべきか」

 繋がってる。

 ダミアン子爵とラングフォルド伯爵が関わってるなら、子供の紹介は会を通じて行われていた可能性が高い。モール子爵とカンタール子爵、そして、ベーリング子爵も会の人間だったんだろう。

「なんで、俺にこんなに情報をくれるんだ?」

 ベルトランが、不満げに視線を馬車の窓へ移す。

「お前はアレクシス様に必要な存在だ」

 だから、俺がアレクって言っても文句を言わなくなったのか。

 

 ※

 

 ティルフィグンとの会談を終えて、アレクの部屋に寄る。

「どうしたんだい。報告なら明日でも構わないよ」

「着替えに来たんだよ」

 持っていた報告書とシガレットを渡して、重い衣装を脱ぐ。

 純血の会の正会員は、ベルトランと、同じく正会員のベーリング子爵から聞いてまとめた。全会員を把握しているのはコランタンだけって話しだけど、交流会で見かけたことのある貴族を教えて貰ったから、大方は聞き出せただろう。

 予想通りの顔ぶれに加えて、クロエ誘拐時に会ったドーラ子爵も正会員だった。最近捕まった奴の名前ばかり出て来るのは、ラングフォルド伯爵を中心とした悪事に関わってるからだろう。どこまで被っているか見ものだ。

「良く調べたね」

「純血の会のこと、知ってたのか」

「会の規模も活動内容も知らないよ。貴族が交流の為の会を組むのは自由で、誰かの監視下に置かれることはない。会の所属の有無を公言する必要もないからね」

「面倒な派閥が生まれてるのに」

「地方貴族の意見を集約してくれる組織があるのは悪い事ではないよ。彼らも中央の政治に参加する権利がある」

 陛下も容認されていることなのか。

 仲良く交流会をする分には構わないけど。人事にまで干渉するのは問題があるだろう。

「フラーダリーは、本当に自分の意思で城を出たのか?」

「もちろん。姉上には城を出てやりたいことがあったからね」

 魔法部隊の創設。

 そうだよな。貴族の嫌がらせ以上に大変なことを、フラーダリーはやり遂げたんだ。

「エル、おいで」

 着替えを終えて、アレクの方に行く。

「何?」

「口を開けて」

 言われた通りにすると、何か放り込まれた。

「ドロップ?」

「声がかすれているよ」

「一日中喋ってたんだから、仕方ないだろ」

「声の調子を整えておくのも仕事の内だよ」

 そんなに声が変だとは思わないけど。

「わかったよ」

 アレクが出したドロップの瓶を受け取る。

 


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