121 不意打ち
結局、昨日は杖の仕上げが出来なかったな。
時間があったら完成させよう。
研究室にある保護塗料を取ってから、台所へ行く。
「随分、綺麗にしてあるな」
朝食の材料になりそうなものが乾物ぐらいしかない。
「悪くなりそうなものは一通り寄付したから、何もないと思うよ?」
長く家を空けるなら、キャロルが綺麗に片付けるか。
「なら、朝市に行こう」
「これはどうするの?」
リリーがテーブルを見る。ウォルカから貰った菓子の山と、グストーで買ったマカロン。
とりあえず、グストーのマカロンの感想は聞いてみたい。
「ほら」
適当に選んだマカロンをリリーの口に入れると、リリーが微笑む。
反応は良さそうだ。
「後で、ロザリーたちと一緒に食べたら良いんじゃないか?」
今日は城へ行く予定だ。
風の大精霊も見つけたし、今後の予定を立てないといけない。
「美味いか?」
「美味しいよ。エルは食べないの?」
「朝から、そんな甘いの食えるわけないだろ」
パティスリーで扱っているってことは、それなりに技術が必要なものなんだろうけど。砂糖の塊に着色料を練り込んだもののようにしか見えない。
※
中央広場にある噴水から見て、北西にあるのが中央市場だ。
平日は毎日開催される朝市では、生鮮食品や軽食を取り扱っている店が多い。手軽に食べられるサンドイッチやファラフェルはもちろん、温かいスープも充実しているのはラングリオンらしいところだろう。スープは専門店もあるけれど、客寄せの為に八百屋や肉屋、魚屋の軒先にも置いている。
朝市で朝食を済ませて、王城へ。
アレクの部屋の近くまで来たところで、リリーが口を開く。
「そういえば、ハルトさんの部屋もアレクさんの部屋の近くにあるんだよ。国王陛下の近衛騎士が護衛してる場所で……」
「あれか」
国賓が護衛一人だけで来てるなら、陛下も近衛騎士を派遣するしかない。
ついでだから、先に寄っておくか。
「ハルトは部屋に居るのか?」
『居る』
「リリー、先にアレクのところに行っててくれないか?俺は護衛依頼完了のサインを貰ってから行く」
「うん。わかった」
ここから真っ直ぐ行けばアレクの部屋だ。
部屋の前にはマリユスも居るし、大丈夫だと思うけど。
「場所はわかるんだよな?」
「わかるよ!」
怒らせたらしい。
ハルトの部屋の前で止まって、リリーを見送る。
『心配しなくても、大丈夫だよ』
イリスがリリーに付いて行かないなんて珍しいな。
「エルロック。何か用か」
国王陛下の近衛騎士。知らない顔だと思うけど。
「王太子に会わせてくれ」
「約束のない面会が叶うと思ってるのか」
「護衛任務完了のサインを貰わなきゃいけないんだよ」
冒険者ギルドの依頼書を出す。
「一筆書いて貰う為だけに、アレクを通せって言うのか?」
「何の手続きも取らずに会えると思っているのか」
「頭の固い奴だな。どうせ、すぐに済む」
「面会は無理だ。殿下は今、御朝食を召し上がられている」
「だったら、後で来る」
相手がため息を吐く。
「エルロック。皇太子殿下の秘書官ならば、秘書官らしく国の法に則って行動しないか」
『ヒルダが来たな』
これだけ話し声がしてたら、気になって出て来るか。
扉が開いて、ヒルダが顔を出す。
「どうか致しましたか」
「おはよう、ヒルダ」
「エルロック様。おはようございます」
「食事が終わってたら、ハルトから依頼完了のサインを貰って欲しいんだけど」
「無礼者。王太子殿下とお呼びしないか」
「こっちは冒険者の仕事なんだから関係ないだろ」
「書類をお預かりしてもよろしいでしょうか」
「ん。頼む」
ヒルダが依頼書を持って行く。
「城内の立場は皇太子秘書官だ。少しは秘書官らしく振る舞え。出来ないとは言わせないぞ」
秘書官なんて面倒だ。アレクに頼んで、もっと楽な立場にしてもらった方が良いかもしれない。
少し待つと、すぐにヒルダが戻って来た。
「お待たせいたしました」
依頼書には、ハルトのサインが書かれている。
これで依頼完了。
「本来なら護衛任務完了と共にサインしなければならなかったところ、遅くなってしまい申し訳ございません。王太子殿下は、高名な冒険者であるエルロック様に護衛を引き受けて頂いたことを感謝されておいでです。後の事までご配慮いただいた上に、不思議な体験が出来ました、と。この度は、本当にありがとうございました」
ヒルダが頭を下げる。
実際に連れて行ったのはリリーなんだけど。言う必要はないだろう。
近衛騎士が俺を見る。
これ以上、説教されるのはごめんだ。
「王太子殿下から感謝のお言葉を頂けて光栄です。こちらも、お訪ねするのが遅くなって申し訳ありません。王太子殿下には、どうかよろしくお伝えください」
『うわぁ』
ヒルダが微笑む。
「承りました、皇太子秘書官様。では、失礼いたします」
一礼して、ヒルダが扉を閉じる。
これで文句はないだろ。
「やればできるじゃないか」
「子供扱いするな」
「後は、その服装をどうにかするぐらいか」
「うるさいな。城で働くわけじゃないから良いんだよ」
早くアレクのところに行こう。
廊下を真っ直ぐ行くと、アレクの部屋の前にマリユスが居る。
「エルロックさん、おはようございます」
ちょっと、からかってやるか。
「おはようございます、マリユス様」
「えっ?」
「皇太子秘書官、エルロック。本日は殿下に報告があって参りました。御目通り願えますか」
丁寧に頭を下げて見せる。
『似合わないわねぇ』
『エルらしくないよー』
そんなの、俺が一番わかってる。
『今は女の子の服着てないわよね?』
『着ていない』
ナターシャには、敬語は女装の時に使うものだと思われてるのか。
「はっ、はいっ、エルロック様は、いつでもお通しして良いと伺っています。どうぞ……?」
『エル。笑い過ぎだよ』
そんな間抜けな顔で言われたら、笑うしかない。
「アレクの騎士が、この程度で動揺してどうするんだ」
「動揺してたわけじゃ、」
「勝手に入るぞ」
「待ってください、扉を開くのは僕の役目です」
マリユスがノックをして、扉を開く。
「エルロック様が到着されました」
マリユスも真面目だな。
部屋に入ると、ウォルカがアレクを描いてるのが見える。
もう来てたのか。
『ボク、リリーのところに行くよ』
『あたしもぉ』
「ん」
リリーとロザリーは、奥のソファーでお茶をしている。
「おはようございます。エルロック様」
「おはよう、アニエス」
「上着を御預かり致しましょうか」
「いや。良いよ」
この部屋、外より明るいな。見上げると、上から吊るされた照明が朝から光っている。
ウォルカが絵を描いてるからか?
部屋の中央で、椅子に座っているモデルの傍に行く。
「おはよう、アレク」
「おはよう」
「随分早くから来てるんだな」
「昨日の説明をしに早く来てくれたんだよ」
「昨日の説明?」
「突然、目の前に風の大精霊が現れたかと思ったら、今日はデートの日になったと言って、ウォルカと出かけてしまったから」
「何も言わずに攫って行ったのか?」
アレクがくすくす笑う。
「ちゃんと扉から歩いて出て行ったよ。エミリーがウォルカの妻だと教えてくれたから、送り出してあげたんだ。大切な妻と過ごす時間を奪うわけにはいかないからね」
「どの口が言うんだよ」
リュヌドミエルにリリーと引き離したのは誰だ。
「リリーシアの了解は得ているよ」
「いつ、リリーが許可したって言うんだ」
「彼女はエルよりも強くて寛容だからね」
「殿下。もう少しばかりこちらを向いて頂けますか?あぁその角度です。光を受けるとなおも美しい瞳だ。この菫を忠実に表現するとなると……」
ウォルカが唸る。この色を忠実に再現するのは難しいだろう。
「話は聞いたのか」
「もちろん。店を手伝った代わりに、いつでも協力してくれるそうだね」
そういえば、詳しい相談はまだしてなかったっけ。
「封印の棺を探さないと」
「月の渓谷の中にあるよ」
「あそこにあるのはエイダのだろ?」
「探して運ぶよう、ローグに頼んだんだ」
月の渓谷はレイリスの目が届きやすい場所で、人間も簡単に立ち入らない場所だから安全だって考えたんだろうけど。
「何で、そんな危険な事やらせたんだ。何の知識を持たない奴が砂漠で探し物をするなんて自殺行為だぞ」
「本人の希望だよ。少し難しい仕事をしたいようだったからね」
それ、どっかで聞いたな。
―マリユスの件があったから、少し難しい仕事を買って出たって話しだ。
あれか。
マリユスがリリーと決闘した時の話。マリユスを停職で済ませる代わりに、ローグが何かやらされたって言ってたっけ。
「俺がやったのに」
「急ぐ仕事じゃなかっただろう。それに、今となっては運び損だ」
監視を請け負っていたレイリスは居ないけど。
「ローグのおかげで場所が解りやすくなっただろ。すぐに行ってくる。新しい魔法陣は、月の渓谷に描いて良いのか?」
「もちろん。砂漠の魔法陣は使わないと了解を得ているからね」
「わかった」
クレアが使わないなら、どこに描いても問題ないだろう。
「リリー」
名前を呼ぶと、リリーがこちらを見る。
「これから砂漠に行く。準備が出来たら、デルフィを呼んで出発しよう」
リリーが首を傾げる。
「デルフィはここに居るよ?」
「ここ?」
リリーの目の前で、デルフィが顕現する。
「今日は店を休みにしたからね。遊びに来ていたんだ」
だったら、なんで今に限って顕現してないんだよ。
「話しは聞いてただろ?今から一緒に砂漠に行ってくれ」
「良いよ。砂漠の風も嫌いじゃない。わかっていると思うけど私は君たちと同じ方法で砂漠に行くわけにはいかないよ。リリーシア。これを君に預けておくから私の力が必要になったら呼んでくれるかい」
デルフィがリリーに何か渡す。
「うん。わかった」
風の大精霊の精霊玉か。
※
魔法部隊宿舎にある魔法陣を使って、砂漠へ。
ラングリオンは涼しくなってきてるけど、こっちは相変わらず暑い。
リリーは、砂漠に来るたびに使っているローブを着ている。レイリスに封印魔法を使われているとはいえ、装備はきちんとした方が良いだろう。
「リリー。デルフィを呼んでくれ」
「わかった」
リリーが精霊玉に向かって声をかける。
「デルフィ。来て」
周囲に風が舞って、目の前にデルフィが現れる。
「魔法陣がこんなところにあるとはね。それじゃあ早速封印を解くよ」
「待て。封印を解くのは、俺たちが月の渓谷に辿り着いてからにしてくれ」
「どうして?」
「なるべく、封印を解いた状態で長く置いておきたくないんだ。デルフィが封印を解いた直後に俺が封印し直すから」
「そうなの?でもこんな何もないところで一人で待つっていうのはつまらないものなんだけどねぇ。ちょっと出かけて来ても良いかい。欲しいものがあるんだ」
本当にじっとして居られない精霊だな。ウォルカが頼まなければ店番なんてしていられないだろう。
「頼むから少し待っててくれ。俺の精霊を置いて行く」
「良いね」
『誰が残るのぉ?』
『私は無理よ。こんな熱いところでエルと離れるなんて』
『ボクも無理かな。エルの傍に居るよ』
雪や氷の精霊にとって、この場所は暑過ぎるか。
『オイラが残ろうかー?』
「ジオは俺と一緒に来てくれ。何かあった場合の連絡係になって欲しいんだ」
『わかったよー』
移動はジオが一番早いし、砂漠にも慣れてるだろう。
「ここには二人残って欲しいんだ。まず、封印の棺を見つけたら一人目を呼び出す。デルフィは俺の精霊が召喚されたら、封印を解いてくれ」
「もう一人は私の話し相手?」
「違う。もう一人は、封印解除が行われたかの確認。俺が知る限り、封印に使う魔法陣が消えても、封印の棺に見た目の変化はないんだ。時間を空けて呼び出すから、魔法陣が消えたのを確認したら俺の呼びかけに応えてくれ」
「色々考えてるんだね。どちらにしろ暇つぶしの相手を置いて行ってくれるなら大歓迎だよ」
『僕が残るよ』
アンジュ。珍しいな。
『私も残る。エル。アンジュを先に呼び出してくれ』
「わかった。アンジュ、バニラ、頼むぜ」
『うん』
『了解』
「決まったようだね。この子はエイダの精霊?よろしくね」
「エイダと知り合いなのか?」
「私の知らない大精霊なんて地上に居ないよ」
じゃあ、あの大精霊のことも知ってるのか。
今度、聞いてみよう。
「リリー」
「わっ」
リリーを抱える。
リュヌリアンは置いて来るんだったな。少し邪魔だ。
「私、歩けるよ?」
「歩いて行くわけないだろ」
「あっ。……うん」
飛んで行った方が楽。
※
小さい頃はレイリスと一緒にこの辺りまで来ていたっけ。
あの頃は、これが自分で使ってる魔法だなんて知らなかったけど。
「着いた」
月の渓谷。
巨大な月の石と、砕けた月の石が点在している場所。砕けた月の石と言っても、その大きさは手で持てるものから、人の背丈をゆうに超える巨大な岩まで様々だ。
『不思議。ちょっと楽になるわ』
砂漠なのに、暑さをあまり感じない場所だからな。
抱えていたリリーを降ろす。
目の前にあるのは白い壁。見上げても頂上が見えない程、巨大な絶壁は、すべて月の石で出来ている。人の力で上に登る方法は、今のところない。
「棺があるのは、この中だ」
「え?ここにあるの?」
「あぁ。アレクが運ばせたらしい。行こう」
「うん」
ひび割れた石の隙間をリリーと一緒に歩く。
レイリスが月から乗って来た月の石らしいけど。一枚岩であったとは思えない程、その大きさは巨大だ。浮遊大陸ロマーノと同じぐらいの大きさだって考えれば、石とか岩って言葉で表現できるような大きさじゃないのは確かだろう。
リリーが、きょろきょろと周囲を見渡す。
「どうしたんだ?」
ここには一度来てるはずだから、そんなに不思議に思うようなことはないはずだけど。
「ごめんね。なんでもないよ」
精霊にでもからかわれたのか?
月の石の隙間を通り抜けた先には、月の石でできた壁に囲われた円形の空間がある。
ここにはエイダの棺があったけど、今は、その残骸らしきものが散らばっているだけだ。リリーが壊したって話しは聞いてたけど、随分、派手にやったみたいだな。原形を全く留めていない。この分じゃ、そう遠くない内に全部砂になるだろう。
で。肝心の封印の棺はどこだ?
「エル。あの辺に斑の光が見えるんだけど……」
リリーが指した方向には砂しかない。
ちゃんと埋めてあるのか。流石、ローグだな。
リリーが指した場所に向かって月の魔法で砂嵐を起こすと、封印の棺の一部が砂から顔を出す。
「見つけた。魔法陣を描いてからアンジュを呼び出す。ちょっと待っててくれ」
杖を出して封印の魔法陣を描く。
正直、魔法陣と封印の棺を同じ場所に置いておいて良いのかは疑問が残るけど。アイフェルの言葉を信じるなら、もうアンシェラートを呼び出すようなことはしないだろう。
……完成。
「アンジュ、来い」
アンジュを召喚する。
『ただいま、エル。デルフィは、すぐに封印を解くって言ってたよ』
「ん」
封印を解くのは簡単だ。魔法陣が輝いて配列を変えて消えるだけ。
時間のかかることじゃないし、バニラなら呼びかけに応えるタイミングも心得ているだろう。
「バニラ、来い」
呼ぶと、バニラがすぐに目の前に現れる。
『封印解除は完了。デルフィは、用があるからもう行くと去って行った』
「わかった」
礼を言う暇もなかったな。忙しい精霊だ。
魔法陣に魔力を込める。
「ここに、永久の……」
『リリー!』
「!」
すぐ、隣に居たのに。
リリーが消えた。
それに、この嫌な感じは……。
『上だ!』
あいつ……!
「エル!逃げて!」
宙でヴェラチュールに捕まっているリリーが叫ぶ。と同時に、黒い槍の魔法が降ってきた。
その魔法は見慣れてる。
炎の玉を作って、黒い槍の魔法に向かって放つ。
『エル。あまり魔法を使うな』
『この後、封印するんでしょぉ?』
そうだった。
『エイルリオンを使え』
「棺の封印を解いてくれたこと、感謝するぞ」
「お前の為に解いたんじゃない。リリーを離せ」
杖を仕舞い、エイルリオンを抜く。
「剣を手放せ。戦いを望むならば、早々にこの娘は斬り捨てるぞ」
「な……」
「聞いちゃだめ!私なら大丈……」
ヴェラチュールがリリーの口を塞ぐ。
「棺を開け。そうすれば、娘は安全に帰してやる」
棺を……?
これ以上、あいつに力を与えるわけにはいかない。でも、リリーが……。
違う。
落ちつけ。
選ぶのは、棺を開くかリリーを助けるかじゃない。
「リリー!魔法を使え!」
『エルっ?』
闇の魔法で自分の体を覆いながら、エイルリオンを構えて月の魔法で高く飛ぶ。
暗闇の中、リリーの使った魔法でヴェラチュールの目が眩むのが見える。
リリーの魔法は光の魔法じゃない。あいつに有効な魔法だ。それを知らないあいつが後れを取るのは必至。
そのまま、リリーごとヴェラチュールをエイルリオンで斬りつける。
『リリー!』
「エル」
解放されたというよりは、自力で拘束を解いて逃げ出したリリーを抱きとめ、月の渓谷の上に降りる。
リリーが放った光の消えた場所で、ヴェラチュールが浮いている。やっぱり、エイルリオンだけじゃ大したダメージにならないか。
「俺は、お前の言いなりになんてならないからな」
リリーを離して、エイルリオンと慈悲の剣を構える。
「リリー。この前みたいに月の魔法で援護してくれ」
「やってみる」
リリーが祈るように手を組んだ瞬間。
周囲が輝く。
「月の女神め」
ヴェラチュールが光の外へ飛び去る。
「これは……」
月の石が輝いてる。
『月の力?』
『月の石には、月の力が蓄積されてるからねー』
「リリーが使ったのか?」
「えっ?私、月の力が上手く使えますようにって思ってただけだけど……」
「たぶん、それだ」
夜でもないのに月の女神の助力があったとは考えにくい。リリーの願いに月の石に蓄積されていた力が呼応したんだろう。
ヴェラチュールは月の女神の介入があったと思ったみたいだけど、リリーが以前、雲を突き破って月の女神の力を呼び寄せたことを知ってるなら、勘違いもするだろう。
慈悲の剣とエイルリオンを仕舞う。
「エル。ごめんなさい」
「何が?」
「また、足手まといになっちゃって……」
「どこが?」
「だって、捕まっちゃって……」
「リリーに何かあったら、俺はリリーを助けることを優先する」
リリーが俯く。
「ごめんなさい」
だから。謝って欲しいわけじゃないのに。
「足手まといだなんて思ってない。それに、今回は俺がリリーに一緒に行こうって言ったんだぞ」
「そうだけど……」
なんて言えば納得するんだ。
違うな。俺が、中途半端な態度で居るのが駄目なんだろう。
どこでも一緒に連れて行くって約束しているのに、出来れば危ないことに巻き込みたくないと思っている。
……決めないと。
「リリー。俺は、あいつを倒しに行く」
「あいつって……、あの人?」
「あぁ。でも、あいつは、アレクですら手こずるような相手だ。一人で倒せる見込みはないし、今のところ倒せる目処も立ってない。でも。俺が誰かと一緒に戦うとしたら、リリー以外には考えられない」
「え?私?」
「あぁ」
リリーがどれだけ強いかは、身に染みてわかってる。だから。
「リリー、俺と一緒に来てくれ」
もう、迷わない。
「返事は?」
「はい」
「ありがとう」
あいつを倒す方法はわからないままだけど。
リリーが一緒なら、なんとかなる気がする。
『あのさぁ。そろそろ、封印し直したら?』
そうだった。
月の石の光が消えてるし、あいつがまた来るかもしれない。
「下に行こう」
リリーの手を引くと、リリーが首を振る。
「私、一人で降りられると思う」
本当に?
「信じて」
「わかった」
月の石から飛び降りる。魔法で衝撃を緩和しないと怪我をするけど。
先に地上に着いて顔を上げると、すぐにリリーが隣に着地した。
周囲に与える衝撃も少ないし、魔法を使うタイミングも完璧だ。
「上手いな」
「私も、軽く飛ぶぐらいなら大丈夫」
降りるのと飛ぶのは違うと思うけど。
要は、魔法のセンスがかなり良いってことだろう。ちゃんと教えればかなり色んなことが出来そうだ。
さっき描いた魔法陣の傍に行く。
……もう、襲って来たりはしないよな。
リリーが空を警戒している。
もう一度来たとしても、リリーが追い払えるか。
「ここに、永久の封印を」
魔法陣に魔力を込めると、魔法陣から伸びた光が封印の棺を包む。
力が持って行かれる感じ。
封印に使う魔力が足りなくなるほど、魔法は使ってないはずだ。
……よし。間に合った。
封印が終わって、その場に膝をつく。
「エル!大丈夫?」
「平気だ。早く帰ろう」
「うん」
また、あいつが来る前に。




