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2話 コンタクト

 ここまでのあらすじ。


 ごく平凡な社会人生活を送っていた木道優魔は、唐突に現れた魔法陣によって異世界へと飛ばされてしまう。

 飛ばされた世界は初めて見る景色ばかりで、戸惑いを隠せなかった。

 「ちょっ……どうなってんだこれ」


 人や獣人が行き交う道の真ん中で、ただ唖然としていた。

 俺の目に映るファンタジー溢れるこの世界はまるで、白昼夢のようだ。

 

 そもそも本当に異世界なんだろうか……

 半信半疑ではあるが、冷静に分析できるほどまだ驚きは落ち着かない。


 まるで時が止まっているかのような俺を避けながら人々は前の人と同じ速度で進んでいく。

 ただ、俺は注目の的になっていた。

 スーツという社会人の戦闘服が物珍しいのだろう。通り過ぎるまで釘付けになっている人がいれば、二度見してくる人もいる。

 かくいう俺も、目の前の光景に釘付けになっている。

 そんな俺に、これでもかというぐらい驚きは更に畳み掛けてくる。

 ———人が空を……飛んでる……

 思わず目を見開く。

 一本のホウキに跨がり、人が走る程度の速度で、空の道中を飛行している。

 1人で飛んでる人もいれば、2、3人で一定の距離を保ちながら密集し、まるで学校帰りに談笑している男女の姿も見える。

 その姿に驚愕してるのは言うまでもなく俺だけだ。


 「すげーよ……なんだよこれ」

 ポツリと声が漏れる。


 『ドンッ!』

 固まっていた俺の身体を砕くように何かがぶつかった。

 体勢を崩しながらそちらを向くと、日差しを遮るほどの巨躯(きょく)が俺を見下ろしていた。


 「おい!兄ちゃんよ?そんなとこ突っ立ってたらあぶねーだろ!」

 

 「……え?」

 驚きを隠せなかった。

 三メートル近くある褐色の肌。ボディビルダーのように鍛え上げられた筋肉。オリーブグリーンの長いズボンを履き、土嚢(どのう)のような袋を肩から下げ、スキンヘッドに刻まれたタトゥーがさらに威圧感を増していた。


 「…………」

 ビビってるわけじゃない……と思いたいが喉が張り付いたように声が出ない。


 「聞いてんのか!そこいたら通行の邪魔になるだろ!」

 徐々に声のボリュームが上がってくる。


 「……す……すみません」

 なんとか絞り出した。

 いや……本当に怖すぎる!


 「ったくよ……」

 大男の表情が呆れ顔に変わる。

 チラッと俺の服装を見ては再び口を開いた。


 「ん……?お前この辺の人間じゃないな?」


 「あ、はい……」

 やっぱりスーツはこの世界には珍しいんだろうか。

 

 「お前どこから来たんだ?」


 「その……日本っていうところからやってきまして……」

 額横を意味もなく人差し指でポリポリとかき、苦笑いしながら正直に伝えた。


 「ニホン?聞いたことねぇ街だな」

 大男は顎下に手を添え、目線を上空にあげていかにも思考していますよというポーズをとる。

 

 日本という国が伝わらないことなど承知だが、これ以外の回答が分からなかった。

 

 「ニホンっていうのは、街の名前か?」

 

 「国の名前ですかね……」


 「そんな国は聞いたことねぇな……ま!この世界は広大だからな。俺が知らねぇ街や国なんざいくらでもあるってもんさ!」


 興味をもってくれたのか、これまで見せていた緊張感の表情が消え去り、同じ人物とは想像できないほど温かみある表現へと変わる。


 「そのニホンって国はこの辺じゃあ聞かないからな。随分遠くから来たんだろ。この街に来るは初めてか?」


 「はい……」


 「それじゃ迷子になるのも仕方ねぇってもんだ!」


 「え、迷子……?」


 「なんだ?迷子じゃないのか?」


 「あ、いや、えーと。……そ、そうです!この街広くて……どこいったらいいかわからなくなっちゃって」

 とりあえずそういうことにしとこう。

 実質、本当にこの世界で迷子になってることだし。


 大男は満更でもない様子で話し続けた。


「なら途中までになってしまうが、ギルドに続く通りを案内してやるよ!旅人も商人もまずはあそこに顔をだすからな!」


 ……ギルド?漫画やアニメでよく聞く、冒険家が集まる組合のことなのだろうか?

 ますます異世界感が増してくる。


 「遠慮なんていらねーさ!さ、いくぞ」


 俺の返答待たず歩きだしてしまった。

 困惑していた俺に気を遣って強引に案内してくれようとしてるのかもしれない。

 

 もしこれが本当に異世界召喚だとしたらこんなところに突っ立っててもどうしよもない。

 先へと進む大男の後を俺は追っていった。


 巨体な一歩は俺の歩幅と釣り合うことなく、たまに小走りしながら大男の左隣を並行にして進む。

 海外を思わせる左側通行の街道に、2人の影が重なる。

 

 「お前、名前はなんて言うんだ?」


 「木道優魔って言います」


 「珍しい名前だな……名は木道って言うのか?」


 「いや、優魔って言います」

 

 「優魔か!不思議な名前だかいい名じゃないか!俺はバリウスだ。よろしくな!」


 話せば話すほど第一印象の怖さが吹き飛ぶほど優しい人だ。

 自然と俺も安心感を抱く。


 「バリウスさん!よろしくです」


 「ガハハハハハハハ」

 腹を抱えて笑い出した。まるで漫画の擬音でしか聞かないような笑い声。

 唐突のあまり、俺はバリウスの顔を見上げる。


 「バリウスさんなんてよしてくれ!『さん』をつけられるような人間じゃないさ!バリウスでいいよ!それに……その敬語もやめてくれ!年齢は恐らくお前よりも長く生きているだろうが、偉い人間じゃねーからよ!」


 「わ、わかった……じゃあバリウスさ……あ、いや、バリウスで」

 

 「うむ!」


 この国…いや、世界にとって相手を敬うために使われる言葉もまた異世界独自のルールがあるらしい。

 なにもわからない俺はとりあえず言われた通りにするしかない。


 「そういえば、お前がどこへ行くのかはわからんが、南の街に行くのであれば護衛を連れて行くことは勧めておくぞ」


 「南の街?」


 頬の筋肉がピクリと硬直し、少し緊張感のある空気へと一変する。


 「ああ……今この街の内政は少し上手くいってなくてな……俺らがいる北の街はお前が見ての通り賑わって良い街に見えるだろうが、南の街はそうじゃない……人身売買に薬物の横行だのろくな話は聞かねぇ。それに口には出せねぇあの犯罪組織の拠点があると噂されてるんだよ」


 「な、なるほど……」

 早く地球に帰る方法を見つけなければ……


 不安げにしている俺の背中を「ボンボン」と2回ほど叩き、口元緩くして、心配するなと言わんばかりに話し続ける。

 

 「まぁそう身構えることはねぇさ!もし行くなら護衛をつけろってだけの話だ!そもそも南の街に行かなければ問題ないさ!」


 「そう…だよな!」

 ファンタジー溢れるこの世界も綺麗事だらけってわけではないのか。

 このまま帰れずこの街で過ごすことになれば間違いなく危ない目に遭うことは一回ぐらいはあるだろう。

 はぁ……嫌だな……

 大きなため息を吐き、歩き続けていると目の前には十字路が現れた。


 「悪いがここで俺は別れるぞ!この十字路を右に曲がって真っ直ぐ行けば大きな丸いタワーがギルドだ!中入って受付嬢にでも相談すればすぐ解決するだろうよ!」

 

 「あ、ああ……その……親切にありがとう」


 「気にするな!俺はまだこの街にいるから何処かで会ったときは一杯ぐらい奢れよ!じゃあな!」

 綺麗に並んだ白い歯がよく見えるように笑いながら、反対側の道へと消えていった。


 「また1人になってしまったな…」

 

 バリウスを見届け後、俺は右折して再び道中を歩き出す。

 相変わらず視線は痛いが、だいぶ周りの景色や人にも、目が慣れたきた。

 

 暫くすると、隙間なく均等に並ぶ住宅の間に裏路地が現れた。

 日差しが住宅によって遮断され、夜のような暗闇の道が続いているがそこに不気味さは感じない。

 視線を先に投げると、光が見える。

 人混みから逃れたかったのか、それともファンタジー溢れる世界を探索したかったのかはわからない。

 何故か神秘的に感じるその空間に俺は吸い込まれるように入っていった。

 

 進むごとに光の強さが増していき、目に飛び込んできたのは太陽の鋭い日差しと、箱庭のような小さな広場だ。


 住宅にぐるりと囲まれた小さな広場の中心に噴水が佇んでいる。足場は大小様々な灰色のレンガが敷き詰められ、まるで古いコンクリートの舗道を思わせる。

 噴水の縁やレンガの隙間には長い年月を物語る苔が広がっており鮮やかな緑が心地よく感じる。

 周囲の喧騒は遠く、噴水から落ちる水音だけが響いている。


 俺は噴水の前へと向かい、縁に腰を落とす。

 

 「はぁ……疲れた……なんでこんなことになったんだ……」

 

 体を支えるかのように両手を後ろに突き、天高く見上げる。


 「プレゼンの資料終わらなかった罰なのか……?それとも仕事できない罰なのか……?もう充分異世界は堪能したから、夢なら覚めてくれよ」


 夢か現かわからない現状に俺は徹夜した並に疲弊していた。時折り体に当たる風が慰めてくれるような気持ちよさを感じ、視界が次第に暗くなっていく。


 「母さん心配してるだろうな……っあ!」


 勢いよく目を開くと同時に支えていた手を離して右手をポケットに入れる。


 「携帯…⁈」

 

 感触は布越しに伝わる俺のふくらはぎのみ。

 慌てて立ち上がり、穴という穴に手を突っ込むも、望む感触は感じない。


 「あの時落としたのか……はぁ……」


 ため息と一緒に、体の力が抜けた俺は再び縁にお尻をつく。

 灰色のレンガと苔に話しかけているかのように言葉を吐いた。


 「なにをやってるんだか……お前らはいいよな……同じ場所にいれて」


 疲労が俺の思考を明後日の方向へと飛ばす。

 なにが悲しくてレンガと苔に話しかけないといけないんだか……

 今更ながらか鞄もジャケットもないことに気付く。

 もうリアクションをする元気もない……

 再度ため息をついだ瞬間———


 「お待ちしておりました」

 

 「…………っえ?」


 唐突に響いたその声。美しくもどこか力強さを感じるその声の方向に目を向ける。

 そこには3人の姿が見える。俺が逃走をしないためか、唯一の路地裏へと続く道を塞ぐように立っていた。


 3人の人物は全身真っ黒なローブで身を包み込んでいる。深く被られたフードは顔に濃い影を落とし、目元どころか表情さえ窺えない。背格好からして辛うじて人間だと分かる程度。先ほどの声からして1人は女性だと判別できるが、年齢や他2人の性別も不明だ。

 ローブの正面に大きなジッパーが一本走っており、胸元まではしっかりと閉じられているがそこからしたは開いている。両手がすぐ出せる状態になっているだろうその仕様は、まるで常に何かを備えているような不気味さを感じる。


 1人が前へ出て立ち、残る2人はまるでその人物を立てるかのように一歩後ろから付き従っている。

 後ろの2人のうち、左側の人物だけ明らかに小柄で子供とも受け取れるが何者だ……


 「あの、人間違いじゃないかな……」

 恐る恐る話しかけた。力弱い声に反応し前へ出てた人物がゆっくりと動く。


 「いいえ。人間違いではありませんよ」


 先ほどの美しい声の正体は先頭の人物。

 その声色と共に、ローブの中からゆっくりと色白の手を

出し、フードを脱ぎ去った。


 この世の人物とは思えないほどの人間離れした美しさ。

 ローブの中に閉じこまっていた艶やかな銀髪を背中いっぱいに広げた美少女。目元は紅玉の瞳と漆黒のような黒い瞳。近寄りがたい雰囲気を醸し出しているが、俺に向ける口元はうっすらと笑みを浮かべる。


 「私の名はフロリア・ネビロス・ティターニャと申します。長らくこの時をお待ちしておりました。私が生涯をかけてお仕えすべき御方。恐れながらお迎えにあがりました」


 「………………へ?」

第二話「コンタクト」を読んでいただいて誠にありがとうございます!

第一話で早速『いいね』を頂きました!

本当に嬉しく思います!引き続き皆様に楽しんでいただけるよう投稿していきますのでよろしくお願いします!


次回更新予定: 6月11日(木)

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