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1話 異世界召喚

 ———カタカタカタカタ…

 パソコンの作業音が、止まることなく小さなオフィス内に響く。

 俺、木道優魔きどう ゆうま25歳。今宵も社畜と化していた。


 「あー……まじで終わらない……」


 ツンツンとした短髪をワシャワシャとかきまくる。


 「なんだ?まだ帰れないのか木道。ここ数日残業続きだろ?あんまり詰め込みすぎると体調崩すぞ?」


 前の席の上司が、勤務用のショルダーリュックにパソコンやら資料を詰め込みながら、話しかけてきた。

 入社して、研修から社会人としてのノウハウを全て教えてくれた、唯一打ち解けて話せる人だ。


 「あ、はい……でも、明後日のプレゼン資料が終わらなくて……」


 「まだ作ってたのかよ。作り終わる頃にはプレゼンも終わってるんじゃね?」


 ニヤニヤしながらいじってくる。

 実際、俺の仕事が遅いのがいけない。

 社会人としての抜きん出た能力があるわけでもなく、むしろマイナスだ。仕事の優先順位が定まらず、いつも仕事が遅いと部長から怒られ、他責思考の俺は環境や会社のせいにして、自分をいつも守ってる。ほんとにどうしようもないと思っているのに、現状を変える行動力は持ち合わせていない。

 そんな俺を見捨てることなく一人前に育成しようとしてくれるこの人には頭が上がらない。

 

 「すみません。ほんとに……」


 「なんだよ!いつもの元気がないなぁ。まぁ、明日は業務量少ないから手伝ってやるよ!資料を早く作れるポイントも教えてやる」


 「ほんとですか⁈」


 「だから頑張れよ!」


 「はい!ありがとうございます!」


 まじで神だなこの人は。

 幻滅させないためにも頑張らないとな。


 「じゃあお先に帰るわ」


 「はい!お疲れ様です!」


 会釈を済ませた後、俺は再びパソコンに手を添えた。

 昼間のような明るさを放つ蛍光灯も、社内に1人しかいない俺には眩しすぎるくらいだ。

 

 「さてと……後2時間。頑張りますか」


 無心でパソコンと睨めっこをしながら、打鍵音だけがラジオ代わりとなっていた。


 作業に集中しすぎて時間を忘れていたが、携帯で時計をみると23時を過ぎていた。


 「やべっ!終電がなくなっちまう」


 データを保存してパソコンをパタンと閉じ、慌ただしく鞄にしまい込む。片手で鞄を持ち、椅子かけていたジャケットを腕に引っ掛ける。


 「電気も消したし、戸締りもした。あとは問題ないかな」


 周りを軽く見渡してから社内を後にした。

 俺の職場は広告代理店。と言ってもそんな大きな会社ではないため、職場は繁華街のど真ん中にある雑居ビルの一室。一歩外に出ればそこは再び昼間のような賑やかな町並みだ。

 その賑やかさがまた疲れた俺には一段と映えて見える。

 腕にかけたジャケットがすれ違う人に当たるのを感じながら人混みをよけ駅へと向かう。

 

 (人が多いな……裏道から行くか)

 

 脇道にスッと入り、歩を進める。

 そこは昔馴染みのスナックやバーが両脇に隙間なく並び続け、歪な列になっている看板が明るさを放ち、大通りとはまた違う風景を魅せている。


 「ん……?」


 ポケットからバイブ音が鳴り続けていた。

 携帯を取り出すと画面には『母さん』の文字。


 「もしもし。母さんどうしたの?」


 口も足も止めず、さらに薄暗くなっていく人通りのない道を歩き続ける。


 「どうしたもこうもないわよ!」


 「えっ……⁈」


 めちゃくちゃ怒ってるじゃん……


 「LINEしたのになんで見てないのよ!最近連絡ないからどうしてるか心配になるでしょ」


 「あ、ごめん……最近残業続きで後回しにしちゃってた。でも元気にやってるよ」


 「ならよかったけど!ちゃんと連絡返しなさいよね⁈次やったら会社乗り込むわよ」


 それは勘弁してほしい…


「わかったって!ちゃんと返すから!母さんは元気してるの?」


 「元気して……る……っ……」


 「あれ?もしもし?」


 声が急に聞こえづらくなった。耳元から携帯を離し、電波を確認するも問題はない。よくある変なWi-Fiに捕まったかと思ったけど、それもない。

 

 母さんの電波が悪いのか?


 再び携帯を耳にあてる。


 「もしもーし!おーい」


 ———その瞬間、世界の音がピタリと消えた。不気味な静寂の直後、足元がとてつもない輝きを放つ。

 白とも黄色とも言えない眩烈な光は、まるで足元で水が跳ねてるかのようだ。

 

 あまりの眩しさに携帯を取り落とし、腕で目を覆う。

 

 光はやがて地面に吸い付くかのように巨大な円形へと変化していった。

 二重の同心円の中に正三角形と逆三角形が重なり合うように浮かび上がる。中心には更に2つの小さな円が並び、中には三日月と太陽のマークが現れ、古代文字らしきものが円中の隙間を埋めるように至るところに刻まれていく。

 

 『許してくれ……』


 「えっ……?」


 老人のような低く掠れた男性の声が脳内に直接響いた。 そして、その声ともに———俺はその場から完全に姿を消した。


 光が現れてからわずか数秒の出来事だった。

 しばらくらして、固まっていた俺の身体が周囲の劇的な変化を捉え始める。

 人通りの少ない裏路地にいたはずなのに、耳の奥に飛び込んできたのは、週末の繁華街にいるような解放感に満ちた喧騒が聞こえてくる。

 鼻を突くのは、野生的な獣臭。かと思えば、どこか懐かしく、香ばしい匂いも漂ってくる。明らかに先ほど居た場所ではない。


 覆っていた腕をゆっくり下すと同時に、瞑っていた目を恐る恐る開く。

 人工的に作られた光とは異なり、太陽の自然光が目に突き刺さる。涙を滲ませながらも視界を鮮明にしていくとそこには信じられない光景が広がった。


 見たことのない街並み。まるで漫画の世界にでも入りこんだかのようだ。

 立ち並ぶ家々はまるでヨーロッパの古い絵本の世界。

 足元には不揃いな薄茶色のレンガが敷かれどこまでも続いている。トラック3台が並行しても余裕がある道幅を歩くのは美形なエルフに、隣には上半身が熊で下半身が人の獣人が楽しそうに会話しながら歩いている。極めつけは、

パカパカと走る馬車……じゃなくて、二本足でトットッと走る小型恐竜のタクシー。

 そんな街並みの真ん中に俺は圧倒されて、ただただ立ち尽くしていた。


 「これは……異世界召喚ってやつじゃないのか」


貴重なお時間を割いて読んでいただきありがとうございます!

投稿スピードにはバラツキがあるかと思いますが、作品はしっかりと完結まで執筆する予定ですので、最後までお付き合いいただければ幸いです!


次回更新予定日:6月4日(木)

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