第四十三話
春也と仲直りできるのか!? 注目の回です。
春也の告白に、春也のご両親は動揺したみたいで、言葉を失っていた。まさか反抗するは思ってもいなかったんだろう。
「何を言い出すんだ、春也!」
「そうよ、春也。今までそんなこと言わなかったじゃない!」
「言わなかったんじゃない。言えなかったんだ! それもみんな二人が俺の話を聞こうともしないからだろう!」
「春也分かっているだろう! 今プロになれるか大事な時なんだぞ! そこで醜聞なんて許される訳がないだろう!」
「我儘言わないでさっさと引っ越しの準備なさい! もう時間がないのよ!」
「ほら、やっぱり俺の話なんて聞かないじゃないか!」
どうあがいても春也の話を聞く気がないのが分かる。
子供を何だと思っているんだ。
「春也のお父さんとお母さん、春也の話を聞いて貰えませんか!?」
「聞く意味がない! ただの我儘だろう! 子供は親の言う事をさえ聞いていればいいんだ!」
「そんな! それは親のエゴですよ!」
春也の告白を我儘で片づけるの? 春也の言葉は我儘なんかじゃない。内に秘めた本音と、息子の本音と真摯に向き合おうとしないなんて。
パタパタと駆けあがる足音、この足音は? 階段を見ると秋夜が慌てた様子で階段を上って来た。
「姉ちゃん!」
「秋夜!」
「ごめん姉ちゃん! ハルにぃの両親引き止められなかった」
「大丈夫よ。気にしてないから」
「姉ちゃん、今どんな状況?」
「それは……」
私はため息を吐いた。
「春也に渡す筈だった手紙とチョコを春也のお父さんに奪われたの。それと春也の両親と会話したけど……私達のお母さん異常に手強いよ」
秋夜は、驚いた顔で春也と春也の両親を交互に見た。
「ハルにぃの両親、そんなに話通じないの?」
「うん……」
「姉ちゃん、そこまで話通じないなら強行突破するしかないよ!」
「え、どうするの?」
秋夜? 何をする気なの?
突然、秋夜が春也のお父さんに駆け寄り、何かを奪おうとしてる。あれって。手紙とチョコ?
「な、何をする!?」
春也のお父さんは必死に抵抗しているけど、秋夜が何やら喜んでいる。
「姉ちゃん、これ!」
「秋夜、あんた、これは!?」
弟から受け取ったのは、手紙とチョコだった。取り返してくれたのね。
「ハルにぃ! 部屋に入って鍵をかけて! そこなら邪魔されないよ!」
「秋夜、お前……」
「早く!」
「分かった。麻奈、こっちだ」
春也は私の手を取り、駆け足で自分の部屋に駆け込む。内側からガチャリと鍵をかけた。
「春也、待ちなさい! まだ話は終わってないぞ!」
「そうよ! 引っ越しはどうするの!?」
ドンドンと乱雑に扉を叩く音だけが響いた。
春也に手を引っ張られながら春也の部屋に入ったはいいけど、廊下にいる秋夜は大丈夫かな。あの春也の両親に詰め寄られていないといいけど……。
「麻奈……」
振り返ると、春也が気まずそうな顔で目線を逸らしている。
「春也……私」
「俺の両親が迷惑をかけてすまない」
「あ、いや、その……」
なんて言えばいいのかな。気にしていないとか言えばいいのかな。
言うべき言葉が、出てこない……。
「親父のせいでせっかくのチョコが台無しになったな、悪い」
「そんな……春也のせいじゃないじゃない」
「今日はありがとう、麻奈」
「春也……」
「今まで嫌な態度をとってすまなった。両親に急かされて焦っていたのと、麻奈に気づいて欲しくなくて、わざとああいう態度とれば諦めてくれるのではと思ったんだ。かなり傷つけたと思う。ごめん」
「そ、そんな……私は」
「さっきの返事だけどさ」
どくんと鼓動が大きく高鳴った。緊張が解けない。唾をごくりと飲み込んだ。
「俺も麻奈が好きだ。遠距離になるがそれでもいいか?」
春也……。涙がとめどなく溢れてくる。嬉しさと安堵で胸がいっぱいになる。
「うん、それでもいい! 離れていても連絡できるもん。春也、こんな私でいいの?」
「あぁ、麻奈がいいんだ。麻奈、俺を好きになってくれてありがとう。これからもよろしくな」
「春也も私を好きになってくれてありがとう。こちらこそ、よろしくお願いします」
春也はチョコのラッピングをほどき、包み紙を開けていく。箱を開けると粉々になったチョコが入っていた。やっぱりチョコは割れていたか……。
けど春也は気にしてないのか、かけらとなったチョコを口に放り込んだ。
「うん、美味い。美味しいよ、麻奈」
私は涙を服の袖で拭いた。
「そりゃあ、愛情たくさん込めたんだから美味しいに決まっているじゃない」
感謝を込めた精一杯の笑顔を春也に向けた。
私の笑顔に、春也は笑顔で応えてくれる。
「そっか……じゃあ大切に味わってたべないとな」
「そうよ、だからこそちゃんと味わって食べてよね!」
私がそう言うと、噛みしめるように時間をかけて食べてくれる。うれしい。作り直して良かった。
春也はひとかけらも残さず食べてくれた。
「ごちそうさま。美味しかったよ」
「それは良かった、作った甲斐があったわ」
「そういや廊下が急に静かになったが大丈夫か?」
そういえば……。あれほど春也の両親が扉を叩いて叫んでいたのが嘘のように何も聞こえない。
「確かに、秋夜……あの子一人で大丈夫かな」
「外出てみるか?」
「それはいいけど……気を付けてね、春也」
「あぁ」
春也が鍵を開け、扉をゆっくり開く。そこには――。
「親父にお袋!? なんでへたり込んでいるんだ!?」
私と春也の目に映ったのは、春也の両親が廊下の床にへたり込んでいる姿と、その二人を冷めた目で見つめる秋夜の姿だった。
「あ、ハルにぃに姉ちゃん。その様子だと上手くいったみたいだね」
弟の意地悪な笑顔に、私はため息を吐いた。やれやれ、いつもの秋夜に戻ったみたい。でも秋夜がいなかったら春也と二人で話せなかった。
「まぁね。でもありがとうね、上手くいったのは秋夜のおかげだから」
「あぁ、秋夜ありがとう。それと引っ越しのこと伝えなかったの、悪かった。色々迷惑かけたな」
その言葉に、秋夜は糸がプツンときれたように突然泣きじゃくった。
「ハルにぃ、ハルにぃ――――!! 本当だよ、いきなり引っ越すなんてひどいよ! 引っ越すなら一言言って欲しかったよ!」
「悪かったな。両親が『早く引っ越しして練習しまくれ』ってうるさくてそれどころじゃなかったんだ」
「ハルにぃ……」
「でも春也、引っ越しは止められないんでしょ?」
「あぁ。ここまできたら無理だろうな。諦めて引っ越しの準備をするよ」
「春也……」
「でも、新しい土地で頑張れそうな気がするよ。麻奈や秋夜の顔を見れたからな」
春也……。秋夜の方を向けると、涙は止まったみたいで一番良い笑顔を向けていた。
私は思わずクスッと笑ってしまった。
「あ、そうだ。クラスのみんなから伝言を預かってきたよ。『私達みんな春也と別れるのは寂しいけど、離れてもずっと友達だ』って伝えてほしいって言っていたよ」
「そうか。みんなそんなことを……クラスのみんなにも迷惑かけたな。友達、か。嬉しい言葉だな」
「ハルにぃは人気者ってことだよね!」
「ま、そういうことよね!」
「そういえばさ、ずっと思っていたけど、お前らどうやってここにたどり着いたんだよ」
「朱鐘君だよ。彼が『仲直りできなくていいのか』って後押ししてくれたの。それと地図も描いてくれて……」
「そうか……、あいつが。あいつにもお礼言わないとな」
そうだ、今のうちに春也に聞いておきたい事があるんだった。
「ねぇ、春也。話変わるけど、連絡教えてくれない? 離れていてもいつでも連絡出来るようにしたいの」
「教えるけど、手紙にしてくれね?」
私はスマホのつもりで聞いたんだけど、手紙にしてほしいって何かあるんだろうか。
「いいけど……どういうこと?」
両親をチラ見した春也は、私と秋夜を手招きすると、「実は……」と話を切り出した。
「両親がスマホ管理しているんだが、メールや電話が禁止で使えないんだ」
「えっ」
私と秋夜の声が重なり、悲鳴にも似た声色が廊下に響いた。まさかそこまで英才教育を施しているとは思っておらず、想像を絶する事実だった。
「そ、そうなんだ……分かった。春也がそういうなら手紙でのやりとりだね」
「ハルにぃ、色々制限されて大変だね。そこまでとは思わなかったよ……」
「悪いな。恩に着る」
「それなら私の住所を教えようか? そしたら新しい所から手紙送れるよね?」
「あぁ、そうだな。頼む」
「わかった。あ、書くもの持ってない……」
「待ってろ。俺のペンと紙を貸すから」
そう言って、自分の部屋に戻って、五分もしない内に部屋から出てきた。
「ほら、これ」
春也から渡されたのは、ボールペンとメモ帳を切り離したと思われる手のひらサイズの小さな紙。ボールペンをノックして芯を出すと、壁にもたれかかるように自分の住所を書き始めた。その時だった。
「春也……この女の子と付き合うのか?」
春也の父親から発せられる弱々しい声は、先程威勢良く私や秋夜に詰め寄った同一人物とは思えない。数分の間に何があったんだろうか。
「あぁ、止められても俺は麻奈と付き合う。もう親父達の指図は受けないからな」
「週刊誌に報道されたらどうするんだ。噂になってしまう」
「もう、いいじゃありませんか?」
その声は春也のお母さん。先程とは打って変わって優しい声で喋っている。
「由美子?」
由美子って春也のお母さんの名前らしい。春也のお父さんは自分の妻の心変わりに衝撃を受けているようだった。
「春也とあの子の会話が聞こえた時、あなたと初めてお付き合いを始めた頃を思い出したんです。初めてお付き合いした時、あなたのご両親に頑なに反対され、それでもお付き合いしていたあの頃を。思い出して気が付いたんです。あの時のあなたの両親と今の私達そっくりだなと」
「……!! それは」
「春也、色々ごめんなさいね。迷惑をかけて。もう引っ越しは止められないけど、新しい土地では無理して練習しなくていいわ。春也が体調を崩したら元も子もないもの」
「お袋……」
「そうか……俺たちはいつの間にかあの頃の親父達みたいになっていたのか。春也、色々迷惑をかけてすまなかった」
「親父……」
「麻奈ちゃんと言ったかな」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれて、春也のお父さんを見ると、しぼんだ蕾のように申し訳なさそうな顔でこちらを見ていた。
「チョコを台無しにしてすまない。傷ついただろう、大事なものを雑に扱ってしまって」
「い、いえ、そんな。気にしていませんから。それに、ちゃんと春也に気持ち伝わりましたし」
「私も思い出したよ。あの頃を。あの頃は私たちのバレンタインも春也達と似たような状況でね、規則にうるさい親父達に色々言われながらも由美子からチョコを貰った時は嬉しかったもんだよ」
春也のお父さんは秋夜の方に目を向ける。
「秋夜君と言ったかな、君の言葉は響いたよ。ありがとう。おかげで目が覚めたよ」
「え、秋夜。なんて言ったの」
「あの時ハルにぃが言ってくれた言葉をそのまま言っただけだよ。『天才を育てたい気持ちは分からなくもないけど、ハルにぃがどう思うかが一番大事じゃないの』って」
「さすが私の弟ね! かっこいいこと言うじゃない!」
私は思いっきり秋夜の髪の毛をくしゃくしゃに掻きむしる。
「姉ちゃん、髪の毛がめちゃくちゃになるって!」
「ごめん、ごめん。あ、春也。住所書けたよ」
「ありがとう。麻奈、秋夜」
私と秋夜は春也をじっと見つめた。
「改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう」
春也の言葉に、私と秋夜はお互いを見合う。そして、にっと笑い合った。そして、春也に目線を向けて。
「うん!」
こうして私の、春也の家に突撃作戦は無事成功した。
次回で最終回です。最後までお付き合いして貰えると嬉しいです。




