第四十二話
春也宅に突撃訪問回です。春也の両親ここで初登場です。
朱鐘君がくれた地図の通りに真新しい二階建て一軒家が見えた。あそこが……! 春也の家!
たどり着いた安心感と同時に、目の当たりにした光景に絶望する。
「どうしよう、朱鐘君の言う通りだったよ……」
もう既に引っ越しが始まっていた。引っ越し業者の人達が荷物を持ってせわしなく動いている。朱鐘君の言う通りだった。もう既に引っ越しが始まっていたなんて。やばい。どうしよう。
「姉ちゃん、どうしよう……」
弟の秋夜が不安そうな表情でこちらを見ている。これ以上秋夜を不安にさせてはいけない。
「こうなったら行くしかないでしょ」
家の中から私服の二人の男女が出てきた。中年の男女で、引っ越し業者に何かの指示を出している。
もしかして、あの人達……。
「秋夜、行こう。多分あの人達が春也のご両親だよ、きっと」
「うん、姉ちゃん」
私は秋夜を連れ、春也のご両親に近づいた。
「あの、すみません」
声をかけてみたけれど、無視。相手にしてくれない。もう少し大きめの声で言った方がいいのかな。
「あの! 日高春也君のご両親ですか? 私、春也君の――」
「誰かね? こんな忙しい時に」
言いかけた所で春也のお父さんに遮られた。いや、そんな事よりも。
「私達、春也君の知り合いで、春也君にお会いしたくて来たんですけど……」
春也のお母さんはあからさまに嫌そうな顔をした。
「知り合い? こんな平凡な子達が? うちの春也は他とは違うんですよ。あなた達みたいな平凡な子が相手出来る相手じゃないの。分かる?」
既視感があった。二人共、改心する前のお母さんにそっくりだった。確かに私は平凡な女の子だけど、今更ここで引き下がる訳にはいかない!
「ちょっと待ってください。春也君は普通の男の子です! その前に一人の人間です」
「普通だと!? 春也はプロテニスプレイヤーになれる素質を持った特別な人間だぞ! 他の奴らと一緒にするな!」
春也のお父さんの言葉に、今まで黙っていた秋夜が声を出す。
「ハルにぃの人生はハルにぃが決める! お前らが決めるな!」
「そうですよ!本人の意思を尊重するべきです!」
「貴方達の相手をしている暇はないの。一刻も早く春也を県外に引っ越しさせてテニスの練習をさせないとプロになれないんだから」
「手続きがあるでしょう!? それはどうするんですか!?」
「そんなものは無視だ、無視。一刻も早く春也を引っ越しさせないといけないからな」
手続き無視して引っ越しさせるなんて……朱鐘君が恐れていたことを平気でやってのけるなんて。あまりにも横暴すぎる。春也の気持ちさえ無視するなんて。
春也のお母さんが家の中を覗き込んだと思ったら。
「春也! 早くしなさい! 一刻も早く練習してもらわないといけないんですからね!」
私はハッとした。家の中に春也がいる……!
「姉ちゃん!」
秋夜!? 秋夜に目線を向けると、秋夜が「まかせて」と言わんばかりに頷いた。
「僕がこのおじさん達を足止めしているから、その間にハルにぃの所へ行って! 姉ちゃん、ハルにぃに渡す物があるんでしょ!」
「秋夜……!」
「行って、姉ちゃん!」
「秋夜、ありがとう! 家の中失礼します!」
引っ越し業者の人達が出たのを確認してから、玄関口へと進む。
外では。
「こら! 勝手に入るな!」
「そうよ! 警察に通報するわよ!」
「おじさん達、うるさい!」
秋夜が必死に止めている。
秋夜、ありがとう……お姉ちゃん、頑張ってくるね。
私は一歩、また一歩と進み家の中へと入って行った。
*
日高家の一階をくまなく歩き回ったけどどこにも春也は見つからない。リビングにお風呂場、寝室など隅々まで調べた。
春也……どこ。自分の家じゃないから広く感じる。もしかして春也、自分の部屋にいるとか? 一階じゃないなら、二階にいるのかも。
私は二階に続くであろう階段を駆け上がっていく。上った先に目に入ったのは、ネームプレートがかかった扉。ローマ字で『HARUYA』と書かれてある。ここだ!
――ここに、春也がいる。
思わず、生唾を飲み込んだ。
「……よし」
私が手を伸ばした時。
春也の部屋の扉がガチャッとドアノブが回った。扉がゆっくりと開き、中から……春也が現れた。
「春也!」
春也は驚いた表情で私を見た。
「麻奈!? なんで俺ん家にいるんだよ!」
それはごもっともです……。でもここで引き下がる訳にはいかないの。みんなに応援されたし、お父さんやお母さん、秋夜も応援してくれた。ここで仲直りするんだ!
「春也ときちんとお話したくて……あの時のことを謝りたくてここまできたの」
「今更謝りに来たのかよ」
「それは分かってる。今更なのは。でもこのまま春也と喧嘩したまま別れるのはもっと嫌なの」
「麻奈……」
「それに、自分の本当の気持ちを伝えたくて」
「本当の……気持ち?」
すぅー、と息整える。頑張れ、私!
心臓の音とか、汗とかいろいろやばいけど、今ここで言わなきゃ。
「春也……あの時『大嫌い』なんて言って、色々ひどいこと言ってごめんなさい」
「……」
「本当はね、春也の事が好き。大好き! 初めて会った時から好きです。私の気持ちです。受け取って貰えませんか?」
「俺は……」
ん? 騒がしいな。誰かが駆けあがる音が聞こえてくる。
この声は……。
「何をしているんだ! 春也から離れろ!」
「親父!?」
「春也のお父さん!?」
ってことは、秋夜は!? 辺りをキョロキョロと見回したら、春也のお母さんが階段を上がって来た。と、突然春也のお父さんがずかずかと私に近づく。
「よこせ! 春也にこんな不純な物を渡すなど許さん!」
あ! 私のチョコと手紙が春也のお父さんに奪われたしまった!
「何をするんですか! 返して下さい! 春也のことを想って用意したのに!」
「返す訳ないだろう! いいか! 春也はプロテニスプレイヤーになれる逸材だ! 一ミリも余計なことに構っている暇はないんだ! 分かったらさっさと帰ってくれ!」
「帰りません! 春也に返事聞くまで帰りません!」
「なんだと!」
「それに、春也のお父さんの考え方間違っていると思います! 春也にだって自分のペースがあります。プロテニスプレイヤーにしたいのは分かりますが、詰め込みすぎたら春也は倒れてしまいます! 春也の為じゃない、春也のお父さん、お母さんが自己満足したいが為にやっているだけです!」
「麻奈……」
春也の切なそうな声が聞こえてきた。春也に目線を移すと、今にも泣きそうな顔で私を見つめていた。初めて見る表情だった。やっぱり無理していたんだね、春也……。
「だから何だ! 我々の育成計画は完璧なんだ! 倒れても体調崩しても気にせず練習するのがプロというものだろう!」
「そんなのプロとは言わない! 本当のプロは自分の練習ペースや体調にも気を遣いながら行っている筈です! 春也のご両親がやられていることはただの暴挙ですよ!」
「私達の計画にいちゃもんつける気!?」
「そうだぞ! 俺達のやっていることは正しいことをやっているだけだ! さぁ、もういいだろう! 早く帰ってくれ! 引っ越し作業で忙しいんだ! 引っ越しの邪魔だ! 帰れ!」
「嫌です!チョコと手紙を返してもらえるまで帰りません!」
「春也も何とか言ってくれ! この女の子を早く帰らせろ!」
「……やです」
「ん? なんだ、春也。何か言ったか?」
俯いていた春也が、顔を上げた。キッと自分の父親を睨んでいる。
「嫌だと言ったんだ! 勝手に決める親父も、話を聞かないお袋も! もうたくさんだ!」
この続きはまた乞うご期待。




