第四十一話
急展開、さてさてどうなる!?
早まった……? どういうこと? 私の所だけ時間が止まったような感覚だった。
「朱鐘君、それ、どういうこと? 春也の引っ越しが早まったって」
「春也の両親が原因だよ」
「春也の両親が?」
春也の両親って確か、春也をプロテニスプレイヤーにしたくて英才教育をさせているという……。
「春也の両親の仕事が思ったよりも早く片がついたから、先に春也を県外に行かせたいらしい。さっき職員室で先生が困惑しながら対応しているのを見たんだ」
「えぇ!? 急すぎない!? 本当なら春也の転校ってまだ先だよね? それに転校手続きとかいろんな手続きしなくちゃいけないんじゃないの?」
朱鐘君は苛立ったように髪を掻きむしった。朱鐘君のこんな姿初めて見たよ……。
「あぁ、そうなんだよ。そんな手続き諸々をすっとばして『先に春也を県外に行かせたい』ってそう言って駄々こねているのが聞こえたんだ。さすがにありえねぇよ」
「じゃあ今春也はどこにいるの? まさかもう県外に……?」
「いやそれはまだらしい。お前んとこの担任が必死で止めている。転校手続きが終わるまで登校をお願いしているが……持つかどうか分からねぇ」
「まだ完全に引っ越した訳じゃないんだね……良かった」
これで引っ越ししていたなんて知ったら……喧嘩したまま別れることになっちゃうよ。それだけは絶対に避けたい。
「でもあの春也の両親のことだ。強行突破で無理矢理春也を引っ越しさせる可能性だってあるぞ」
「そんな……! もしそうなったら」
せっかくチョコと手紙持ってきたのに……全部無駄になってしまう。チョコも手紙も送れるけど、あの春也の両親がどう反応するか未知数だ。ちゃんと春也の元に届くか保障はできない。どうすれば。
頭の中がぐるぐると回って妙案が思いつかない。
朱鐘君は私をじっと見つめた後、こう言った。
「三河、お前……今から春也の家に行って来いよ」
はあぁぁぁ!?
「今から!? 無理だよ! これから授業があるのに!」
「このまま春也と喧嘩別れになっていいのか!?」
私は思わず体をビクッと震わせた。
朱鐘君は気にせず話を続ける。
「諦めるのかよ! 三河は春也と何度も喧嘩しても諦めずに声をかけていただろうが! そう簡単に諦めるなよ!」
「それは分かっているけど、ずる休みすることになるじゃない。そうなったらお父さんとお母さんに迷惑かけちゃうし……」
と、再び誰かか歩いてくる音がする。
「そういうことなら私が上手く誤魔化しておきますよ」
その声は。辺りを見回すと、梨子が眼鏡をくいっと上げながら立っていた。
「梨子!? それはありがたいけど……そんなことをしたら梨子が悪く言われちゃうんじゃあ……」
「それくらいなら構いません。それに、ようやく麻奈に罪滅ぼしができます」
「梨子……」
「そうだよ!! 梨子の言う通りだよ!」
今度は誰!? と思ったら私のクラスメイト達がぞろぞろと集まってきた。な、何事なの!?
「麻奈のこと聞かれたら私達が先生に気づかれないように言っておくから!」
「そうそう、だから麻奈は春也君ときちんと仲直りしておいで!」
「話は聞いたよ! 春也、無理矢理引っ越しさせられそうになっているんでしょ? それなら尚更だよ!」
「俺達もこのままお別れの言葉言えずに離れ離れになるのは納得できないしな」
「だから私達の分もまとめてお別れ言っておいて! 『私達みんな春也と別れるのは寂しいけど、離れてもずっと友達だ』って」
お互いに頷きあうクラスメイト達。
「みんな……」
クラスのみんなの思いに涙が出そうになった。ここで泣いちゃだめだ。今は泣く時じゃない。
「そういうことですから、麻奈。春也君の所へ行ってらっしゃい」
「梨子……」
「三河、ほらよ」
そう言って朱鐘君から一枚の紙切れを渡される。何か地図が描かれてあった。これは……?
「そこに描いたのは春也の家に行くまでの道のりだ。その通りに行けば春也の家にたどり着ける筈だ」
「朱鐘君ありがとう。梨子、みんなもありがとう。私、行ってくる!」
私は再び上履きから外靴に履き替えると、勢いよく飛び出す。
「麻奈、行ってらっしゃい!!」
みんなの言葉を背に、走り出した。春也の家を目指して。
*
いつもの通学路を逆戻りして走っている私は、周りの生徒からすれば異様な光景に見えるだろう。でもまさかいつもの通学路を逆走するとも思ってもいなかったし、このまま春也の家を目指すことになるとは思ってもいなかった。
通学している周りの生徒らは、私をチラ見すると不思議そうに首を傾げている。
そりゃあ不思議に思うよね。普通だったら登校する筈の生徒が逆走しているんだもん。それよりも、このまま走ったとして……間に合うかな。もう着いたら引っ越してましたなんてことにならないよね?
私は一度脚を止める。メモを確認して、と。
「春也の家はこっちか」
「姉ちゃん!? なんでここにいるの?」
振り返ると、ランドセル背負った弟がそこにいた。
「あ、秋夜!」
「早めに家を出たのになんでここにいるの? てか、さっき通学路逆走してなかった?」
「あ、あー。それは……」
これは実に困った。今春也の家で起きている状況を秋夜に話すべき? どうしたら……。
「あれ? 姉ちゃんが持っているこのメモ……」
「あっ、これは!」
しまった! 地図のメモ持ったままにしてた!
秋夜はメモをじっと見つめた後、ジト目で私に目を向けた。
「ハルにぃの家のメモ?どうして……? もしてかして、姉ちゃん」
「はあぁ、仕方がない。実はね――」
私はため息ついた後、今朝学校で何が起こったのか事細かに説明した。今私が春也の家に向かっている理由も含めて。
私の話を聞いて、秋夜は青ざめた表情で愕然としていた。
「えっ、ハルにぃが!? なんでそんなことになってんの!?」
「春也のご両親が暴走した結果なんだって。どうしても春也をプロテニスプレイヤーにしたいから一刻も早く県外に行かせて練習させたいのかもね」
「そんな……そんなことになっていたなんて……そこまで大変な状況だったなんて、ハルにぃ、一言も言わなかった」
「うーん、春也は自分から自分のことを話すようなことはしないからなぁ」
それを朱鐘君に話したって事は相当参っているんだな、きっと。両親が自分の気持ち無視して英才教育を施そうとしているから心が折れて辛くなったんだろうな、その気持ちすごく分かる。分かるからこそ、不安。春也、大丈夫かな。
「姉ちゃん、俺決めた! 俺もハルにぃの家に行く!」
「はあぁ!? あんた、学校はどうするの!?」
「姉ちゃんだって学校行かずにハルにぃの家に行こうとしてるじゃん!」
「それは……そうだけど」
「それに俺、ハルにぃにさよならも言わずに別れるなんて嫌だ! ちゃんと会ってお別れしたい!」
秋夜……。
「分かった。行こう。後で先生やお父さん、それにお母さんに謝らないとね」
「姉ちゃん……うん! 行こう、姉ちゃん!」
「そうだね、行こう! 春也の家へ!」
私は秋夜と共に、地図に描かれた春也の家を目指して走り出した。
次回は春也宅に突撃訪問回です。お楽しみに!




