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第三十七話

今回は秋夜君かもしれないです。ではどうぞ!

 秋夜がふらりと千鳥足のように歩きながらこちらに向かってくる。

 そして私の前に立つと、荒い息遣いで私に視線を移した。


「う、嘘だよね? ハルにぃが転校って……嘘だよね? 何かの冗談だよね? 俺、初めて聞いたよ! 引っ越すとか! ねぇ…………この町からいなくなる訳じゃ、ないんでしょ? ねぇ、姉ちゃん! そうだと言ってよ!!」


 弟の悲痛な声が聞こえる度に、胸が締め付けられる。嘘だったらどんなに良かったことか。でも何があったのか教えなきゃいけない。


「嘘だって言いたいところだけど……本当よ。ついこの間ホームルームの時間に担任の先生から突然発表されたの。二週間後にご両親のお仕事の都合で神崎町から他県に引っ越すことが決まったって」


 事実を秋夜に突きつけると、絶望した表情で呆然と立ったまま動かなくなった。


「そ、そんな……ハルにぃ。嘘だ、ハルにぃが引っ越すなんて!」

「私だって! 信じたくない! でも事実なの!」

「姉ちゃん……」


 秋夜の表情がどんどん暗くなっていく。やばい。ここは話題を変えなきゃ。


「それよりも秋夜はどうしてここにいるの? いつもは真っ直ぐ帰っているじゃない」


 私は秋夜が落ち着くまで待った。秋夜は溢れ出る涙を拭う。


「お父さんに言われたんだ……『帰る時はお姉ちゃんと一緒に帰ってくるように』って。何か大事な用事があるみたいな感じだった……」

「お父さんが?」


 大事な用事? もしかしてお母さんの事かな。


「それなら今日は早めに帰った方がよろしいかと。麻奈のお父さんが秋夜君にわざわざ言伝(ことづて)を預けるということは、何かしらの理由があるのでは? 私達の事は気になさらず帰って差し上げて下さい」

「そうだよ! よっぽど大事な用事があるんだよ! それなら私たちのことは気にしなくていいから帰ってあげて! 作戦会議は殆ど終わっているから!」


 二人共……。


「二人共ありがとう!」


 私は急いで立ち上がると、鞄を持って振り返る。


「梨子、花梨。また明日ね!」

「また明日。バレンタインのやり直し頑張って下さいね!」

「また明日~! 春也君のこと、ファイトだよ!」

「うん、頑張る!」


 親友二人に手を振った後、秋夜と一緒に展望台デッキの階段を降りていった。



      *



 空気が、重い……。何て言えばいいか分からない……。


 今こうして秋夜と並んで歩道を歩くことになるなんて。思いもしなかった。大体が秋夜が先に帰っていることが大半だったから、一緒に帰る日が来るなんて。

 そして、今日。お父さんが『帰る時はお姉ちゃんと一緒に帰ってくるように』って言うということは何からしらあるんだろうな。


 ふと横に並ぶ秋夜の横顔を見つめる。


 まさか春也、秋夜にすら引っ越しのこと伝えていなかったとは。よっぽど誰にも引っ越しのこと知られたくなかったってこと? これもご両親の仲と関係があるというの?


「姉ちゃん……」


 はっ。見つめすぎたかな。


「ううん、なんでもない」

「そうじゃないんだ、姉ちゃん」


 秋夜は突然立ち止まる。私も立ち止まり、弟の方に目線を合わせた。


「秋夜……? どうかしたの?」

「俺、やっぱり納得できないよ……なんでハルにぃ引っ越すんだよ」

「秋夜の気持ちは痛いほどよく分かる。私も納得してない。ごめんね、知らせるのが遅くなって。春也のことだからてっきり秋夜には伝えているとばかり……」

「知らないよ! 初めて知ったよ! お姉ちゃん、なんでっ! なんで、ハルにぃは転校するの!?」

「さっきも言ったけど、ご両親の仕事の都合だって担任の先生は言ってたわ」


 秋夜の目に大粒の涙がとめどなく零れ落ちていく。


「そんな……、そんな。ハルにぃ、なんで……」

「秋夜……」


 私はこの後なんて声をかければいいか分からず、私達は終始無言のまま家まで帰った。



      *



「ただいま……」


 私が玄関の扉を開けた瞬間、冷たい風が吹き抜ける。冷たい。体が冷える。急いで家の中に入ろう。


「麻奈、秋夜、二人共お帰りなさい」


 と、声をかけるのは先に帰っていたお父さんだった。その時。


「二人共、お帰りなさい」


 その声は!! もしかして。

 顔を上げると入院していたはずのお母さんが廊下の床に座っていた。


「お母さん!?」


 私と秋夜の声が見事に重なった。

 お母さんは楽しそうにクスッと笑う。


「私達も今さっき着いたところなのよ」

「お母さん、お帰りなさい!」


 秋夜が嬉しそうな顔でお母さんに抱き着いた。さっきまでの表情が嘘のようだ。少しは気分も良くなったかな。


「うふふ、ただいま。秋夜は甘えん坊さんね」

「ということは、もしかして……今日退院したの!?」

「あぁ、体調がだいぶ良くなったから主治医の先生が『自宅療養に切り替えて治療しましょう』って仰ってくれたんだ。一応退院は出来たけど、完治するまで定期的に通院しなくちゃいけなくてね。それでも退院許可は貰えたから家に帰ってきたんだよ」

「そっか、良かった……」

「それで今日はお母さんの退院祝いを祝してパーティーをやろうと思うんだけど、どうかな?」

「パーティー!? 賛成! 大賛成!」


 パーティー開催に秋夜のテンションが爆上がりした。良かった、元気になって。

 でもパーティーか。楽しそうでいいかも。


「良いね! やろうよ、パーティー!」

「せっかくだからご近所さんにも来ていただこうと思って、お父さんに頼んで事前に伝えて貰ってあるの。あなた達にはサプライズで驚かようと思って……」

「お母さんは病み上がりだし、今日の主役だからね。だから私達三人でパーティーの準備をしよう」

「うん!!」


 私と秋夜は同時に頷いた。

 さてさて、三河家主催のお母さん退院祝いのパーティー開催です!

次回は麻奈のお母さん退院祝いパーティー回です。お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
退院!! めでたいですね!! まあ一時はね、辛い事は忘れた方がいいですよね。
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