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第三十六話

いよいよ春也君の表情が暗かった理由が分かります。

 次の日の昼休み。

 自分の席から教室を見回して春也の姿を探すけど、見当たらない。昨日のテレビ番組で盛り上がっている男子達や、恋愛話で談笑している女子達しかいない。


 給食食べ終わった後、行動開始! 何人か春也と仲が良さそうな男子に聞いてみたけど、収穫はゼロだった。その代わり、みんな口々に『バレンタインの次の日から春也の様子がおかしくなった』と言ってた。何かあったことは確かなのに……。肝心なことが分からなかった。


 私は頬杖をついて、春也の席に目を向けた。当然だけど、その席に本人はいない。どこいったんだろう。

 って何考えているんだ、私。春也がいたところで今の状況で話しかけられないから考えても意味ないじゃない。


 やっぱり、バレンタインチョコを作り直し、手紙を書いて、一緒に手渡すしか仲直りの方法はなさそう……。


 はぁ、とため息を吐いた時だった。

 教室の扉が開いた音がしたので「もしかして春也!?」と思って視線を移したら、暗い表情の梨子が現れた。なんだ、梨子か……びっくりした。


 あれ? こっちにやってくる。


「麻奈……」

「梨子、どうしたの? もしかして……」


 梨子は神妙な顔で、こちらを見つめてくる。この顔は何かあった時の顔だ。


「はい、一つだけ分かったことがあります」

「ほんとに?」


 私は収穫なかったけど、梨子は収穫あったんだ!

 沈んでいた気持ちが一気に軽やかになる。


「で、一つだけ分かったことって何?」

「それは放課後の集まりの時にお話します」

「分かった、梨子がそう言うなら。でもありがとう。やっぱり梨子は頼りになるね。私じゃ殆ど情報掴めなかったし……」

「いえ、私の場合は男子テニス部のマネージャーだったから辛うじて情報を手に入れることが出来ただけですよ」


 梨子の言葉はどこか自分に言い聞かせるようなニュアンスに聞こえたけど気のせいかな。男子テニス部のマネージャーって、覚えなきゃいけないことが沢山あって大変なのに充分頑張っていると思うんだけどな。


 そこまで考えてふと思う。

 梨子の告白からずっと思っていたけど、梨子が男子テニス部のマネージャーになった理由ってもしかして……。

 考えても仕方がないので、思い切って本人に聞くことにした。


「梨子、一つ聞いてもいいかな? ずっと気になっていることがあるの」

「なんでしょうか」

「梨子が男子テニス部のマネージャーになったのって、もしかして……春也がいたから?」


 梨子は数秒黙り込んだ後、「はい、そうです」と静かに頷いた。


「少しでも春也君の近くにいたくて男子テニス部のマネージャーに志願したんですが……まさか男子テニス部のマネージャーとしての自分が麻奈の役に立てる日が来るなんて。なんと言いますか、感慨深いものがありますね」

「梨子……」

「あれから改めて冷静に自分のことを考えたんです。私は結局独りよがりに悩んで、勝手に物事を決めつけていただけなんだなとつくづく思いました。春也君が悩んでいることすら見えていなかったのですから……」


 梨子、昨日より表情が少し暗い。やっぱり春也の転校がショックだったのかな。


「今日も集まれそうですから、花梨に声をかけて作戦会議を開きましょう」

「そうだね、後は花梨も何か情報を掴んでいるといいんだけど……」



      *



「それでは! 第二回作戦会議を開きたいと思います!」


 花梨が高らかに宣言した場所は、いつもの小高い丘のベンチ。この間と同じように三人並んでベンチに座っている。放課後ここに来るのは二回目だけど、周りの人に聞かれないか毎回ヒヤヒヤするんだよね。


「まずは情報交換を始めます! トップバッターはマナからお願いします!」


 エッ!? トップバッター私からなの!?

 思わず目を見開いて花梨の方に視線を向けたら、黙って頷かれた。さっさと情報開示しなさいってことですか……。


「わ、分かった!」


 勢いよく返事をしたのは良いものの、ものすごく言いづらいなぁ。


「結論から言いますと、私の調査では情報は一つも得られませんでした……」

「えっ、一つも!?」


 花梨の視線が痛い。やめてくれ。驚いた顔でこっちを見ないで欲しい。

 何で一つも情報を得られなかったの? って言われているようで心苦しい。


「春也と仲の良い男子達に片っ端に声をかけまくってみたけれど、『何も知らない』って言われた……そういう花梨こそ、何か情報得られたの?」

「うっ、それは……」


 うーむ、ごにょごにょと口ごもる反応を見るに、情報得られなかったっぽいな。


「えっと……実は花梨も情報ゲット出来なかったんだよ、ごめんね。みんな春也君が引っ越すことすら知らなかったみたいで……『それ以上のことは知らない』って言ってたよ」

「花梨も駄目だったか……」


 殆どの生徒が知らなかったとなると、余程引っ越しのことを知られたくなかったのね。

 でもどうして? そこまでして隠したかったのは何故? 


「じゃあ、残るはリコだね! 最後お願いします!」


 後は梨子が掴んだとされる情報が頼みの綱。その情報に春也に関する何かが分かればいいんだけど。


「情報は掴んだのは掴んだのですが……」

「どうかしたの?」


 花梨の問いかけに、梨子の方は何かを振り払うように首を横に振った。


「いえ、なんでもありません。これは朱鐘(あかがね)君から聞いた話なのですが……」

「朱鐘君って……確か、春也と一番仲が良い親友の?」

「はい、そうです。春也君、どうやらご両親と仲があまりよろしくないみたいで……朱鐘君の話だと、麻奈の弟さんみたいな状況らしくて」


 梨子の言葉に、嫌な汗が額から頬に零れ落ちる。

 秋夜と似たような状況……まさか。春也も秋夜と同じようにご両親から英才教育を?


「んー、じゃあじゃあ、天才に育てたいとかそんな感じってこと?」

「理屈は合っているのですが、どうやら春也君の意思とは関係なく世界的なテニスプレーヤーになることを強要しているそうで……家では事細かな指示をしているそうです。練習内容とか、週末の過ごし方とか、全ての時間をテニスに捧げるよう春也君に言いつけているようなんです」

「えー!? それじゃあマナのところの秋夜君と同じ状況じゃない!」


 私は思わずハッとする。

 そうか……秋夜や私を助けてくれた理由は、自分も同じような状況だったから気にかけてくれたんだ。もしかして話したかったことってこのことだったの?

 でもなぁ、と考える。我が家もそうだったから分かるけど、そういう家庭で口出ししたら火に油を注ぎかねないというか……。


「でもそれを春也に追及しても返って火に油を注ぎかねないと思うんだけど……」

「ええ、私もそう思ったのですが、朱鐘君が『苦しんでいる春也を助けてやって欲しい。春也を助けられるのは三河しかいない』と麻奈に伝えて欲しいと言ってました」

「朱鐘君……」


 そう言ってくれるのは嬉しいけど、私に出来るのかな……春也を助けることが。

 と、その時。


「――嘘だっ!!」


 人気がないはずの展望台に、聞き慣れた男の子の声。

 辺りを見回すと、階段から上がってきた弟の秋夜が、鼻水を啜りながら涙を溜めて立ち尽くしていた。


 秋夜、どうして、ここに……?

第二回作戦会議でした。秋夜君登場です。どうなることやら。お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
春也の親もまた毒親だったのか(;゜Д゜) いやもう、子供をなんだと思ってんですかね。 親は子供を縛る存在じゃなくて、肩を押して、悪い事したら叱り飛ばして、そんでもしもって時は守ってあげるもんじゃない…
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