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魔法使い達2

「つまりね……おっと」


 道に突き出ている木の枝をロバートはひょいと屈んでかわした。


「ふう。えっと、何だったっけ? ああ、精霊のことだよね。彼らは魔力が大好きなんだよ。大好物といってもいいかな」

「た……食べちゃうんですか?」

「うん、まぁね。あ、足もと注意して。ーーはい、いいよ。ゆっくり降りてね」

「あ、ありがとうございます」


 また大きな木の根が地面から張り出していた。

 クリスはロバートに手を貸してもらって木の根を乗り越えると、それで? と彼を見上げた。


 ーー精霊さんに魔力を食べられちゃったら、ど、どうなるんだろ……?


 怖い想像に青ざめているクリスに気づくと、ロバートはくすくすと小さく笑った。


「そんなに怯えなくても大丈夫だよ。いくらなんでも、頭から丸かじりなんてされないから」


 ……丸かじり……


「あ、ま、待った! 冗談だから! ちょっと疲れちゃうだけだからさ! ……驚かせて、ごめん」


 半泣きになっていたクリスは、安堵の息をはいた。


(疲れちゃうだけなんだ……よかった)


 よしよし、とクリスの頭を撫でて、ロバートは真面目な顔に戻った。


「それでね、精霊達は魔力が強い人間も好きなんだ。だから、ちょっかいを出したがる」


 困ったものだよね、とロバートは苦笑した。


「もしかして、それでおばあちゃんの手紙を?」

「うん、そういう事。この森には、結界のせいでかなり精霊が集まっているから、余計にね」

「でも、ロバートさんは魔法を使ってましたよね?」

「魔法を学んだものはね、精霊の扱いも上手になるんだよ」


 君もそのうち詳しく習うよ、とロバートはクリスの頭を撫でて話を切り上げた。


「ほら、もうすぐ着くよ」


 ロバートの言葉に前へと向き直ると、木々の隙間をぬってぼんやりと柔らかな光が見え始めていた。


 それは一本の巨大な樹だった。


 天に向かってそびえ立つ堂々とした巨木は、普通の民家なら軽く二、三軒は入る幹を持ち、どんなに首を仰向けてもてっぺんが見えないほどに高く、大きかった。


「……こ、ここが?」


 しばらくの間、あんぐりと口を開けて絶句していたクリスは、ようやくのことで声を絞り出した。


「うん。僕らの家。どうかな、けっこういいでしょ?」


 子供のように、ロバートは自慢げな笑みを浮かべる。

 クリスの驚きぶりがよほど嬉しかったようで、上機嫌だ。


「は、はい。すごいです! 大きくて、とても素敵です!」


 そんなロバートの隣で、クリスはただ呆然と巨木に圧倒されていた。


 ーーほんとにすごい。


 クリスは樹を眺めながら思った。

 樹には、ちゃんとドアも窓もついていた。

 中から優しいオレンジの光も滲み出ている。

 

 つまり、この樹は中身が丸ごとくり抜かれているのだ。


「……でもこの樹、ちゃんと生きてる」


 見たこともないほど太い枝には、鮮やかな緑色の葉が青々と茂っている。


 いや、それ以上に、この樹には力があった。

 生命力に溢れた、暖かさがあるのだった。


「これも魔法なんですか?」

「半分ね。もう半分はこの樹の力。さあ、そろそろグリービーに入ろうか」

「グリービー?」

「この樹の名前。誰が付けたかは知らないけどね」


 ドアへと続く石段を登りながらロバートは樹を見上げてそう言った。

 

 後に続きながらクリスも樹を見上げる。


(グリービー。……だからこの森はグリービーウッドっていうのかなあ)


 見上げた樹は、ただ静かに佇んでいた。



 ーーどっしゃあぁあんっ! 


「!?」


 クリスはびくっと肩を揺らした。

 ドアを開けたとたんに大きな音が響いたのだ。そして、男性の声が聞こえる。


「うっわ! ちょっ! 落ち着けって、ハーバリー!」

「うるさい! 貴様、選りに選ってあの薬草を使いおってぇえ!」


 飛び交う怒声と、目の眩む閃光。


「わざとじゃねえって! 初めて客が来るっつうから、つい! いや。っていうか、俺にあれくれたのモランだぜ!?」

「オレにふんなよなー。面倒クセェ……」


 そこへ、若い女性の声がひんやりと響く。


「……あら。なら、わたくしの物に手をつけたのも、あなたの指示なのかしら? モラン」

「っ! い、いや、それは違うぜ、リリアナ。オレは聞かれたから答えただけで、責任は実行に移したこいつにある」

「あっ、ズリィ! 一人で逃げんなよな、モラン!」

「皆さん、あの、落ち着いてください。ああ……テナンド老、どうにかしていただけませんか? え? そんな事をおっしゃっらず……」


 困り切った男性の声。

 そしてまた響く凄まじい轟音。閃光と、白い煙。


「……あのさ」


 混迷の事態に投げかけられたのは、クリスの隣にいる青年の、のんびりとした声だった。


「もう、着いちゃってるけど?」


 とたんに、ぴたりと音が止んだ。


「…………」


 先ほどまでの騒乱はどこへやら、かわりに恐ろしいまでの沈黙が辺りを支配する。


「あ、え、えっと。……はじめまして」


 その場にいる全員に見つめられ、クリスはぎぐしゃくと頭を下げた。


「………………」


 再びの沈黙。

 

 閃光や煙がなくなったおかげで、そこにいる人々が見えるようになった。

 

 中にいるのは、クリスとロバートを除いて六人。


 男性が五人で、女性が一人だ。


「……ロバート」


 灰色のローブを着た厳格そうな男性が、ごほん、と咳払いして続けた。


「……五分、いや、三分くれ」



 ーーそして三分後。

 クリスはなぜかわからず首をかしげながら、再び訪問をやり直していた。

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