四
「梓乃っ!みてみて!!」
光秀との対談が終わり、彼以外の城の者から隠れるように部屋で夕餉を済ませた後。今後のことを考えながら、二人分の布団を敷いていた梓乃に、綾女が無邪気に話しかけてきた。後ろ手に何か隠し持っているらしい。あの襲撃以来、久々に見せる子供らしい綾女の姿である。
顔を紅潮させながら手を開くと、そこには色とりどりの少しとげとげした小さな粒があった。
「これ、こんぺいとうって言うんだよ!全部お砂糖で出来てるの!お玉様がね、いっぱいくれたんだ!」
金平糖といえば、この時代から入ってきた南蛮の菓子である。作るのが困難な上に、貴重な砂糖から出来ているので、当然非常に高価なものだった。その玉のような美しさに、梓乃も思わず手を止めて、その菓子を眺める。
「よかったな。あまり一気にばくばく食うなよ」
「梓乃も欲しいんでしょー。お玉様が一緒にどうぞって一杯くれたよ?」
「お玉様?ここの家の方か?」
「うん、煕子様と光秀様のお姫様」
光秀と煕子の間の娘。当たり前だが、この城の中には彼らの家族がいる。一目見て異人と分かる綾女に快く菓子をくれたということは、お玉という娘も異人に対して抵抗がないということなのだろうか。
(だとしたら、この家の人々はやっぱり変わっている)
十三で山を出てからこれまで、この綾女と二人で生きてきた。差別というものに常に晒され、それは生まれた時からずっと身近なものだった。それなのに…差別して当然の身分である光秀らが何故…。
「光秀様も煕子様も、ここの人達は皆優しいんだね。…今までと全然違う」
「あぁ…そうだな。俺達は一生分以上の恩を、この家の人達に貰ったんだ。だからこそ、生涯をかけて彼らにご恩返しをしないとな」
温かな分厚い布団に滑り込む。あるかどうかも分からないような、あの薄いボロ布ではない。それだけで、梓乃も綾女も涙が出そうなぐらい嬉しかった。
綾女がぎゅっと梓乃の体にしがみついてきた。何事だと身じろぐ梓乃に、ポツリと綾女は言う。
「梓乃が生きててくれてよかった。もう絶対、どこにも行かないで」
…何も答えられなかった。切ないその訴えに
、はっきりと断言出来ない自分が、情けなかった。
けれど、それ以上にこの身から湧き上がってくる感情は、歯がゆさではなく、愛おしむ気持ちだった。完全に縋りついて、自分を求めてくる綾女が、愛おしい。
応える代わりに、梓乃は縋りついてくる小さな体をかき抱いた。負けじと回される、細い腕。
今、はっきりと分かった。自分にとって何が一番大切で、守りたいものなのか。
それは梓乃にとって、誰よりも尊い命。




