表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/21

綾女を下女として置いてもらうこと。ここの主である光秀を見る限り、彼には異人に対する差別の意識が低い。ここで働けることが出来るのであれば、綾女は一人で生きていける。もう、自分のせいで命の危険に巻き込まれることもなくなる。


「わしがそれを了承したところで…その後、おぬしはどうするつもりなのだ?」


「暫くこの辺りに身を置き、これまでかけて下さったあなた様の情けに報いたいと思います。綾女の分も、しっかりお返しします」


金は用意しようと思えば、いくらでも用意出来る。また、仕事をやればいい。蝮たちの追跡が綾女やここの人達に向かわないよう、注意を払えば何の問題もないことだ。


「…そなた、歳はいくつだ?」


「…は?」


突然聞かれたことに対し、拍子抜けしそうになった。素性や傷を負った経緯は聞かれるだろうと思っていたが、まさか年齢を聞かれるとは。


「二十でございます」


「二十…やはりそのくらいか。なぁ若人(わこうど)よ、何故そこまでして死に急ぐ?」


死に急ぐ?

光秀の言葉が頭の中を駆け巡った。俺は…この男の目から死に急いでいるように映っているのか?困惑してどう返答して良いか分からない梓乃を、光秀は静かな眼差しで見つめている。その瞳は悲しげで、梓乃を通して何か違うものを眺めているようだった。

ますます分からない。どうして見ず知らずの下賤な男に、光秀はこんな眼差しを向けるのだ。


「お、れは…いや、私はけして、そのようなことは…」


「おぬしが己の命をどう捉えているのか、わしには分からん。だがな、人は思ったよりもずっと、長く生を全うできる生き物なのだぞ」


「生を全うする…」


「この乱世に、それを分かれと言う方が無理なことなのかもしれん。ただ、今のおぬしが命を落とすには、あまりにも勿体無いことだとは思わないか?」


今の俺が命を落とすには、まだ早いということなのか?そもそも何故、命を失くす前提で話が進められているんだ。心の底で、まさかと思っている自分がいた。先日命を落としかけたにも関わらず、だ。

この時はまだ、光秀の言葉を梓乃は理解出来なかった。


「今分かれとは言わん。そうだな…では、こういうのはどうだ?おぬしの命の捨て場所を、暫くわしに預けてはくれないか」


驚くことは続く。光秀の言わんとすることは、何となく分かった。分かったはいいが…まさかこんなことを、光秀から申し出されるとは。


「なに、せっかく拾った命を何処とも知れぬ場所で捨てられたくないだけよ。どうせ捨てるのなら、わしの目となり、足となって死ね」


「それで、俺は貴方に報いることが出来るのでしょうか?」


「さぁて、それはおぬし次第だ。わしの一存で決めることじゃあるまいし」


ニヤリと笑う光秀は、なるほど、ただの人の良い大名さまでは無いということらしい。つくづく不思議な男だ。梓乃が元々何者かも聞かずに、この光秀という男は忍びとして梓乃を使おうとしている。綾女と本心では離れたくないということも…全て、察した上で。


「…承知仕った。この命、如何様にもお使い下さい」


「あぁ、頼んだぞ、梓乃よ」



結局最後まで、光秀が梓乃に対してそれ以外のことを尋ねることはなかった…。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ