6話 計画通り
「ふふ。リリーシャがついてきてくれるなんて嬉しいわ」
演劇の開演を待つ特等席で、セリナが嬉しそうに微笑んだ。
普段貴族のイベントには必要最低限しか出ていなかった私が珍しく母のイベントについていくのがよほど嬉しいのか顔を赤らめている。
「お母さまが主催した演劇です。見てみたいです」
と、答えて演劇会場に視線を移す私。
あれから数年たち、私は15歳になった。
――大体、今日がセリナの死亡するイベントの日。この日のために備えたのですもの。参加するのは当然でしょう。
あれから、私はゲームの裏技を使って、水魔法を鍛えた。おかげで、おそらく水魔法だけなら宮廷魔術師をしのぐレベルになっているだろう。
火事が起きても対応できる。
問題はイベントだ。
この数年でわかったことは二つ。イベントは、少し予定を変えたくらいでは発生してしまう。だがイベントの結果自体は変えられた。
――そう、死亡フラグ自体は決して回避できないことじゃない。
(完璧につぶすなら、イベント自体は発生させ、そのイベントを失敗させるのが一番だわ)
私が見守る中――演劇は厳かに始まった。
そして――。
がしゃぁぁぁあん。
劇の照明の一部が舞台に倒れ――
ぼわっ!!!
火が一気に広がる。
今回の劇は、妖精の粉を演出で人体に無害な食用にもなる花の粉をまいていたのだが、それがいけなかった。
その演出の粉が会場に火が広まるのを早くしてしまったのだ。
一気に壁に炎が燃え広がる。
「きゃー!!!」
悲鳴が沸き起こり、
「大変!!レナ!!リリーシャをお願い!衛兵たちは避難経路確保を!!」
母が慌てて立ち上がる。
――が。
それより先に、私は魔法を唱えていた。
今回セリナの死を防ぐのとはもう一つの目的があった。
何度も検証したが、イベントは必ず発生してしまう。
いくらセリナが生きていても聖女と認定されてしまうイベントも避けようがないだろう。
――だったら、偽聖女と断罪されないように、優秀な聖女とここで見せたほうが得策だわ。
より多くの実績があったほうが偽聖女として断罪されなくなるはず。
私は水魔法に光をまとわせ、あたかも光魔法であるかのように装い、その魔法を完成させた。
まるで聖女であるかのように、神々しく、演出し――
「――消えなさい」
言葉とともに魔法が――燃えさかったすべてを消し去った。
「……え?」
一瞬の沈黙。
誰かの呆然とした声が響いた。
先ほどまで会場を包んでいた炎は、跡形もなく消えていた。
「リリーシャ……?」
振り返ると、そこには驚いた顔のセリナがいた。
よかった。怪我はない。
「お母さま! ご無事ですか?」
「え、ええ。私は大丈夫よ。それよりリリーシャ、今の魔法は……」
「わかりません、気づいたらできていて……怖かった」
と、セリナに抱きつく私。
ここでか弱い娘を演じておかないと、神殿に祭り上げられることになる。
公爵のセリナの庇護は必要だ。
(――それに、これで死亡フラグは折れたはずよ)
驚いた顔のセリナを見ながら、私はぎゅっと抱きつく。
大丈夫。計画通り。
――これで、もう大丈夫。
セリナが死ぬことはない。
だって、この日のためにいっぱい頑張ったのだから。




