3話 偽りの家族
イライラする。
私はメイドたちに世話をされながら、ため息をついた。
私がいくら本当のリリーシャではないと説明しても、頭を打って記憶が混乱しているで済まされてしまって進展しない。
「お嬢様、お茶が入りました」
と、子供ではないと主張する私のためなのか、大人と同じお茶を出してくれたり気を使ってくれるだけなのだ。
――ものすごくイライラする。
お茶を飲みながら、私はため息をついた。
気の使い方が、現世の義母に似ていた。
父の連れ子だった私は再婚した義母と父に育てられたのだが――。
父が浮気して蒸発した。
本来なら義母が私を育てる義理などない。
それなのに義母は――私を育てたのだ。
自分がろくに食べることもできないのに、働いて、私を大学にまで入れてくれた。
私は紅茶に映る自分の姿に視線を移す。
そこには見慣れないかわいい女の子。
偽聖女として断罪され、回帰して本当の聖女として活躍するAIチャットゲームの主人公。
(……親不孝として断罪されろってことなのかしら?)
―――やっと、お金を稼げるようになって、孝行できると思ったのに。
―――こんなの育て損じゃない。あの人の人生なんだったのよ。
そう思った瞬間。
「リリーシャ、起きていたのね」
そう言って部屋に現れたのは――私の体の主の母親。
ミラカルト公爵 セリナだった。
「ほら、綺麗でしょう?」
そう言ってセリナが連れてきてくれたのは、綺麗な花畑だった。
ここは、主人公リリーシャが母親によく連れてきてもらった花畑。
リリーシャが家族との思い出として大事な場所で、イベントにもよく出てくる。
つまり、記憶を取り戻せるかもしれないと、わざわざ連れてきたのだろう。
(――かわいそうな人)
とっくに中身は別人になっている。
どんなに努力したところで無駄なのに、勘違いしたまま実の子だと思って接している。
まるで現実世界の母を見ているようで――。
「はい。綺麗ですね」
イラついてそっけなく答えてしまう。
セリナはそれでも笑顔のままで、悲しそうな顔をすることもない。
気を使っているのがはっきりとわかるのだ。
それがまた母と重なってイライラしてしまう。
(――私なんかによくしたって、どうせ不幸になるだけなのに)
この人も数年後、イベントで死んでしまう。
主人公はセリナの庇護があったからこそ、平穏な生活ができていた。
母が死んでから一気に転落人生を歩むことになる。
そう――彼女は 主人公を不幸とするための舞台装置として殺されるのだ。
それがまた、心をざわつかせる。
――いっそ、嫌ってくれた方が楽なのに。
これなら冷遇される主人公のほうがマシだったわ。
思っていると。
「奥様!!お嬢様!!!」
従者の慌てた声に――振り返ると、そこには大きな魔物が襲い掛かってくる姿があった。
時が止まったように感じた。
牙をむき、こちらへ飛びかかってくる魔物。
逃げる暇なんてない。
そう思った瞬間――。
「リリーシャ!!」
セリナが私の前に立った。
「え――」
ざしゅっ!!
次の瞬間、横から飛んできた魔法が魔物を吹き飛ばす。
大きな体が地面を転がり、従者たちが慌てて取り押さえに走った。
「リリーシャ大丈夫!?」
セリナが私の両肩を掴んで、傷がないか慌てて確認する。
必死に私を確認するセリナのドレスは袖が裂け、白い肌に赤い傷が走っていた。
おそらく私を庇ったとき魔物の爪がかすったのだろう。
「血……」
「これくらい平気よ」
「……どうして」
「え?」
「どうして、私なんかを庇ったの!!」
思わず声が震えた。
実の娘じゃない。
何度説明しても誰も信じてくれない。
「私は本当の貴方の娘じゃないのに!!!」
セリナは少しだけ目を見開いた。
それから――困ったように笑った。
そして腕をそっと差し出し。
「リリーシャ。
貴方が、記憶が混乱して、私を実の母親だと思えなくても」
「それでも――貴方は大切な、私の娘よ」
優しく包む。
そのぬくもりが温かくて、嬉しくて、
余計心が痛んだ。




