13話 逆転?
綺麗に咲き誇った花に歓声があがる中――アリアナはうつむいた。
そう――今頃あの女は勝ち誇っているだろう。
本来だったらゲームでは起こるはずの断罪劇を回避したと。
けれど――それは私も想定内よ。
先輩がまだ覚醒してないはずの聖女の力を偽れるのなんてこっちだって知ってるのですもの。
そう思って、アリアナがユリウスを見ると、ユリウスも目を細めてリリーシャの方を見ている。
そこに焦りはない。
彼の想定通りなのだから。
***
「さて、皆さま、今、この瞬間。聖女様の素晴らしい力が証明されました。
不届きにも彼女の力を疑問視する人々がいましたが――私が証明いたしましょう」
ユリウスが手を大きくあげ、民衆の気分を盛り上げる。
沸く歓声。
聞こえてくる喜びの声。
誰もがリリーシャを聖女と賞賛した。
その様子に―― 一瞬リリーシャが怪訝な顔になるのをユリウスは見逃していなかった。
おそらく、リリーシャも自分がアリアナと通じていることには気づいている。
だからこそ、何か仕掛けてくると警戒しているのだろう。
そして案の定、対策がしてあった。
――警戒自体は間違いではなかった。
が、彼女が予測してくることはこちらも把握済み。
彼女の行動を調べさせてもらったが、彼女はとても人心を掌握することに長けている。
些細な疑惑を追及したところで、周りに守られて終わってしまう。
――ならば、擁護も難しい状態に追い込めばいい。
彼女の思いつかない方法で。
「そして――ここで問題があります」
ユリウスが声音を変えて言うと、ざわりと周りの空気が変わる。
「なんだ?」「どうした?」
雰囲気が変わったことがわかり、民衆のトーンがしぼむ。
「最近、帝都では、謎の麻薬による暴力事件や窃盗・強盗などの被害が出ているのはご存じでしょう?」
その声に民衆の顔色が変わった。
最近ちまたで流れる噂で治安が悪くなり、麻薬汚染が進んでいると不安視する声が街中を埋め尽くしている。
不安が恐怖となっているのだ。
正直な話、実際犯罪率が増えているわけでも以前より麻薬汚染が進んでいるわけでもない。
小さな事件を繰り返し取り上げ、まるで帝都全体で犯罪が急増しているかのように印象づけているだけ。
単に噂を広めて不安を煽ったにすぎない。
それでも民衆の恐怖と不安を煽るには十分だった。
「それが聖女様の儀式となんの関係があるんだ?」
「大神官様は何をおっしゃりたいのだろう?」
ざわざわと民衆が騒ぐ。
「私は、なぜこのような急激な治安悪化を招いたのか、その疑惑に調査をおこないました。
調査した結果――このような悲劇が起きたのはベルノア草の麻薬の蔓延です」
その言葉に会場が揺れた。
ベルノア草は一時期帝都が滅ぶのではないかといわれるほど帝都を汚染し、禁止された薬物だ。
その時の惨状を知っている者も多いだけに、憎悪の対象でもある。
「何を言っている!そんなものが普及しているなどという話は聞いたことがない!」
皇子が言うが、ユリウスは首を振る。
「我々神殿の調査に異議を唱えると?」
重く――低い声。
その声に皇子が黙る。
いくら帝国皇帝といえども神殿を黙らせることはできない。
あとも継いでない皇子となればなおさらだ。
「それに――こちらにはちゃんと証人もおります」
呼ばれて現れたのはケルタ族の長。
森の中に住まい、神殿の神とはまた別の神を祀る希少部族。
麻薬の原料は彼らだけしか手に入れることができない。
そして――ケルタ族は皇族や神殿にも屈せず、彼らが慕うのは聖女のみ。
「――まさか」
皇子がたじろいだその瞬間。
「さて、族長、貴方が取引をしている聖女はどちらの聖女です?」
そう聞いた瞬間。
ケルタ族の族長がゆっくりと指さしたのは
――リリーシャだった。




