11話 追及
「確かに。彼女の力は、聖女の力ではない可能性があります」
大神官室。そこでユリウスは、アリアナの前に現場から持ち帰った破片を差し出した。
「こちらをご覧ください」
アリアナがユリウスに渡されたルーペを覗き込む。
石の表面には、肉眼では気づかないほど小さなぶつぶつが確認できた。
「これが何か?」
「聖女の力で消したのなら残るはずのない跡です。これだけで聖女じゃないと見る者が見ればわかるでしょう」
(やったわ!!)
アリアナは、思わず頬を緩ませる。
(さすが作中でも頭がいい設定のユリウス! 頼りになるわ。ヤンデレになるのが怖くて、今まで好感度を上げる薬を使わなかったけど……もっと早く使っておけばよかった)
「ありがとうございます、ユリウス様」
「いえ。しかし――」
ユリウスは破片を机に戻すと、静かにアリアナを見る。
「彼女はいったい、なぜ貴方を追い落とそうとしているのでしょうか? 何か心当たりはありますか?」
「え、えっと……それは、先輩が嫉妬しているから……」
「先輩?」
「あっ、いえ! 違うのです。私の可愛さに、やきもちを焼いているみたいで……」
その言葉を聞いたユリウスが、一瞬だけ眉をひそめた。
けれど――。
ふっと、その瞳から生気が消える。
「……ああ。なるほど。そうですか」
そして何事もなかったかのように、納得したようにうなずいた。
どうやら彼に不信感を持たれてしまったようだが、それを好感度MAXの力が都合よく彼の記憶を書き換えてくれたらしい。
(よし。ちゃんと効いてる)
アリアナは内心でほくそ笑む。
好感度MAX状態なら人を殺せなどのよほどの地雷案件でなければそうそう不信感を持たれることもないだろう。
「ですが、これだけではまだ証拠が足りません」
「え?ですがさっき聖女ではありえないって……」
「はい。ですがこうも言わせていただきました。
見る者が見ればわかる。
逆に言えば、よほど魔法学に詳しい者でなければ単なる難癖にしか見えないところです。
聖女ではない証拠として出すには弱すぎる」
「では、どうすればいいのでしょうか?」
「彼女自身と接触し、聖女の力を偽っていることを証明する必要があります」
「どうやって?」
わざと瞳を輝かせ、上目遣いで可愛らしく尋ねる。
するとユリウスは、わずかに頬を赤らめた。
「方法は……あるにはあるのですが」
ユリウスは困ったように眉を下げる。
「さすがに、あまりフェアな方法とは言えません」
と、渋り始めた。
(ちっ)
アリアナは心の中で舌打ちした。
(そういえば、このキャラくそ真面目だったわ)
頭がよく、正義感が強い。そのうえ、目的のためだからといって、卑怯な手段を簡単に選ぶ性格ではない。
(なら、仕方ないわね)
アリアナは小さく息を吐いた。そして――。時を止める。
一瞬で、世界から音が消えた。動きを止めたユリウスの前に、ゲームのステータス画面を呼び出す。
(残忍さを上げるのは駄目。そんなことしたら、私にまで酷いことをするかもしれないもの)
並んだ項目を、一つずつ確認していく。
そして――。
【目的達成のための手段許容値】
という、開発者にしか変えられないメニューに目をつけた。
(これね、さすが開発者権限のあるアカウントは優遇されてるわ)
アリアナは笑った。
(少しくらい上げるだけなら、問題ないでしょ)
数値を書き換え、クロスボタンを押す。時が動き出した瞬間、ユリウスがはっとしたように息を飲んだ。
しばらく考え込んだあと、静かに口を開く。
「……フェアな方法ではありませんが、貴方のためなら仕方ありません。正義のためです。その方法を使いましょう」
「どうやるのでしょう!?」
アリアナは身を乗り出す。
(やっと、あの邪魔な先輩を追い落とせる!)そう思うだけで、胸が躍る。
「まず、彼女は皇子の婚約者という立場を利用し、すでに皇室内の人心をかなり掌握しています」
「え?」
ユリウスの言葉にアリアナは固まった。
(まじで!? どうやったのよ!?)
課金ショップの鍵はアリアナが持っている。
(先輩は課金アイテムを買えないはずなのに、なんでそんなことできるのよ!!)
「ですから、状況証拠だけで彼女を追い詰めるのは難しいでしょう。多少の疑惑なら、皇室の力を使ってのらりくらりと躱されてしまう」
「では、どうするのですか?」
「先に、人々の目を彼女へ向けます」
「人々の目?」
「ええ。他の罪と連動させて追い詰めるのです」
ユリウスがアリアナを見つめた。
「そんなことが可能なのですか?」
「彼女は聡い。一筋縄ではいかないでしょう。ですが、調査させたところ、彼女が娼館へ通っているという密告がありました」
「娼館!?」
アリアナは目を見開く。既婚者が浮気なんて速攻アウトじゃんと。
「そんなスキャンダルがあるなら、それだけで十分追い詰められるのでは?」
「いいえ。それだけでは難しいでしょう」
ユリウスは淡々と首を振った。
「古来より帝国では、婚外子が生まれる心配がないことから、女性が女性相手の娼館へ通うことは暗黙の了解として黙認されてきました。皇室も公には認めていませんが、実質的には見て見ぬふりをしています」
「……そんな」
(なんで女娼館ならOKなんて設定があるのよ!?)
そこまで考えて、アリアナは固まった。そして 思い出した。
(そういえば、百合萌えもしてもらえるって、みんなの反対を押し切ってその設定を詰め込んだの私だったわ!? 何やってるのよ私!!)
頭を抱える。
「ですが――」
ユリウスが続ける。
「その娼館には、不正売買の温床になっているのではないかという疑惑もあります」
「不正売買?」
「ええ。ですから、その噂を利用しましょう」
「不正売買への関与を問い詰めると?」
「いいえ」
ユリウスは静かに首を振る。
「問題は、彼女が本当に不正売買へ関与しているわけではないことです。罪がないなら問いようがない」
「じゃあ、打つ手がないと」
「いいえ、手はあります。関与していなくても、関与しているように見せかけることはできる」
ユリウスの言葉に アリアナが息を飲む。
「彼女が不正売買に関わっていると疑わせる証拠を整えればいい。まず別の罪で人々の不信を煽り、そのうえで偽聖女である証拠を突きつける」
ユリウスはそこで言葉を切った。
「罪を連動させて、一気に追い落としましょう」
そう言って――。ユリウスは目を細めた。




