9話 開戦
じゃらり。
鎖が揺れる。
「今日はよくできたじゃない?これからもお願いね?」
足を組み、少女が笑った。
その笑みはどこか妖艶で――狂気を感じ、皇子は一瞬びくりとなる。
「は、はい……」
おとなしく首に鎖をした状態で、皇子はびくびくとうなずいた。
少女――リリーシャはワイングラスに視線を落とし、皇子に部屋から出ていくように命令すると、一人部屋の窓辺によりかかる。
来賓者がよく見える部屋。
この日のためだけにリリーシャが用意した部屋だ。
「きっと貴方は課金ショップという優位性を手に入れたことで勘違いしているのでしょうけれど――」
と、視線を帝城から帰る支度をはじめている神官たちの馬車に向ける。
その中には金髪の聖女――アリアナの姿があった。
「世界の仕組みを細かく設定したのは、私なのよ?」
そう言って 一瞬だけ瞳に狂喜をたたえると、ドパドパとワイングラスに注がれたワインを床にこぼした。
***
(まさか先輩、この世界で生き残るつもりなの!?)
婚約式を終えて、自らの部屋に戻ったアリアナは歯ぎしりした。
課金アイテムを使って、聖女になるために神殿の地位を着々と固めていた。
聖女の力だって、本物よりは弱くても、課金ブーストで手に入れている。
(私がこの時間軸の世界では聖女になるはずだったのに――)
冗談じゃないわ。
課金アイテムを使ったとしても所詮はブーストでしかない。
本物の聖女が存在しては存在そのものがかすんでしまう。
――いっそ先輩を殺す?
その考えが頭に浮かぶ。
でもダメ。いろいろ実験してみたけどゲームの強制力は確かにあるもの。
イベントは形を変えたとしても発生する。
ゲーム開始前に偽聖女として殺されるというフラグを無視して予定外の殺し方をしたら何が起こるかわからない。
――先輩にはちゃんと偽聖女呼ばわりされながら死んでもらわないと。
ちゃんと偽聖女として断罪される状態だけは何とか作り出さないといけない。
(でもどうやって?)
皇子にあれだけ認められていたら、いじめるなんて不可能に近いわ。
魔法でも使わないと。
本来なら無理だ――本来なら。
でも……。
アリアナは鍵を取り出した。
課金ショップに行くための特別な鍵。
そう――これがある。
鍵はこの世に一つしかない。
私が手に入れた以上、先輩は手に入れられていない。
これがあるなら勝てる。
まずは、優秀な手ゴマを手に入れないと。
そう言ってアリアナは窓の外を見る。
そこに立っているのは大神官ユリウス。ゲームのヒーローだ。
本来なら大神官になるのは回帰後だ。だが、先代の大神官はアリアナの転生したキャラを脅してあれこれ命令する設定があったため、ネームドで性格の悪いモブの神官を課金アイテムで好感度MAXにして殺させた。そのため今は繰り越されたのかユリウスが大神官になっている。
(本当はユリウスを好感度高くすればよかったんだけど、キャラ的に殺せは頼めないし、何より設定が面倒なのよね)
殺すこと自体は無理じゃない。が、本来そのキャラが絶対やらないような設定はいくら魅了していても言うことを聞いてくれないのだ。
品行方正の彼では人殺しを頼んだ時点で好感度が爆下がりして魅了自体解けてしまう。
それにユリウスは心優しい神官設定で恋愛面でも優しくて申し分はないのだが、他の男性と一定以上仲良くしすぎると激重のヤンデレ化してしまうため、怖いため避けていた――。
(元から性格の悪い地位の低いモブ神官じゃ、物理的に殺すことはできても、断罪イベントにもっていくのは無理だわ――)
そう考えて、アリアナは課金アイテムの鍵を握りしめた。
(まずはユリウスを使って、先輩が偽聖女だと認定しちゃえばいいのよ。
だって、回帰前は聖女の力を使えないのだから、この世界線なら嘘にならない。
ユリウスはヒーローとして優秀だもの)
――待っててくださいね先輩?
そう言ってアリアナは笑った。




