01 これもすべて殿下のおかげです
あっという間に三週間が経ち、三日間の試験は無事終了した。
教室内には焦燥しきった顔の生徒で溢れており、中には泣いている生徒もいた。今日は試験結果の公開日だったのだ。
「あった……殿下、やりました!! 落第回避です」
「そうじゃなきゃ困るだろう。それにしても、上位にいるんだな。弓術の試験はギリギリの通過と聞いていたが……それ以外の相対的に試験が難しかったんだろうな」
廊下に張り出された成績表には上から数えて二十位以内に僕の名前があった。
一番は殿下で、二番目がリュシアン。そこに続くようにジゼルやレリア嬢の名前も書いてあった。彼らは成績上位常連組なのだろう。もちろん、不正などしていない努力で勝ち取った席である。
殿下の言葉が正しいのなら、今回の中間テストは実技試験も高難易度の魔法や技術が求められ、座学も範囲が広くなおかつ難問が出されたのだろう。
魔法の実技試験も、二年生にしては出された魔法が難易度が高く、失敗するものも多かった印象だ。ただ、今回の常連は難なくクリアしていたところを見ると、魔法は才能と努力を重ねて磨くものなんだなと改めて思った。
本当に弓術の点数はギリギリだったが、他でカバーできたこともあり上位に名前が載っているのだろう。こうして自分の名前が記載されているのを見ると少し感動してしまう。順位がつく競争社会は苦手だが、頑張った分だけ形として残るのは嬉しい。
三年生の成績表を見ると、一番に王太子殿下の名前を発見した。これも見慣れた光景なのだろう。
殿下は一通り成績を確認し終えると、その足で食堂へ向かった。僕もその後をついていき改めて彼にお礼を述べた。
「ありがとうございました。殿下」
「なにがだ」
「なにがって……弓術の練習に付き合ってくれたことですよ。あれがなかったら、今頃僕ここにいません」
「その後も練習したお前の成果だろ。手がボロボロになっている」
「あ……あはは、気づいてたんですか」
「同室だろ。嫌でも見える」
言葉はそっけないが、どこか嬉しそうな横顔を見ると安心する。
はっきりと言葉にはしてくれないが、僕が受かったことを喜んでくれているようだ。そう思うことにしよう。
「シリル。あの日は流したが、今回試験を頑張ったのは俺のためと言っていたな。どんな心境の変化があったんだ」
「え? あ、ああ~~~~」
「なんだ、その『あ~』は」
あの日は、リュシアンになんかいろいろ言われてカッとなっていたのもあった。柄にもないことを殿下に口走ってしまった気がする。本心だったのは覚えているが、なにを言ったかまではっきり覚えていない。
僕がすすす~と視線を逸らせば、視界の先にグッと端正な顔を潜り込ませてきた。顔面の暴力が過ぎるからこれ以上視界に入らないでほしい。銀色の髪がダイヤモンドよりも激しい光を放っている気がする。
「殿下近いですって。歩きづらいですし……!!」
「『貴方の隣に胸を張っていられる人間になりたい』だったか? まるでプロポーズを受けたみたいだった」
「くっ……うぅ~~~~」
そんなつもりじゃなかった。でも、殿下のいい声で言われたらプロポーズみたいに聞こえる。
この人に出会ってから僕は変わった気がする。
胃薬はあのあと返してもらったが、確実に量は減っているし、引きこもっていたときよりも肌艶がよくなっているように思う。アイデンティティの消失を感じつつも、ジゼルのように普通の人間の生活ができているんだとちょっとした感動はあった。
「お前さえよければ、ずっと俺の隣にいてくれてもいいんだぞ」
「だだだ、だめです!! 殿下!! そんな、結婚なんて!!」
「は?」
「え?」
大声を出したため、廊下を歩いている人の視線が一気に集まった。僕はひぃっと悲鳴を漏らし、壁際まで寄って殿下を見る。
「……俺もお前も家を継ぐ必要はないから別に構わないが」
「違います。違いました!! すみません、早とちりです」
「お前が俺の従者になったという噂が流れているのだろう? それを現実にするのはどうかと提案しようと思っていた。俺の従者になれば今よりも大きい温室を建てよう」
「今よりも大きな、温室……!?」
「それとは別に研究室も作るか」
「おまけまで!? う、そうやって僕を釣ってうまく利用するつもりですね! 実家に持ち帰って検討します」
「公爵は、お前が独立するならいいと言いそうなところだがな。シリルが決めることだ。いい返事を待っている」
やっぱり嬉しそうな顔をしている。
口角が上がっていて、目元が優しく歪められていた。いつも冷たく、退屈そうな顔をしているのに今は雪が溶けて出てきた花のような美しさがある。
そんなに嬉しそうな顔をされてしまうと断りづらい。もう確定事項のようなものじゃないか。
それだけおまけがついてきたら僕も言うことはなにもない。
「引きこもりでも雇ってもらえるんですか」
「お前は努力ができる人間だ。俺はそこを評価している。それに、お前は俺とならちゃんと目を見て喋れるだろ?」
透き通った氷のような目が僕を射抜く。
きれいだな……。
自信にあふれた瞳、その奥には青い炎が揺らめいて見えた。




