02 順風満帆な学園生活
「まさか、シリルさまとお近づきになれるなんて」
「モリス、また"さま"がついてる。も、もう友だち……なんだから、シリルでいいってば」
午前の授業が終わり、一緒に食堂でご飯を食べた。
モリスは魔法学に興味があり、勉強熱心ということもあってすぐに意気投合した。きっかけは些細なことだったが、十七年生きてきて引きこもってた僕にも初めての友だちができた。
彼は、僕の家のことを気にして一歩引いているようだが、好きなことになると敬語も抜けるくらい熱く語ってくれる。それを聞いているのも面白いし、僕の研究対象である魔法植物の話をしたらぜひ温室に行きたいとも言ってくれた。今度グラース子爵家に招待状を書こうと思う。
「いいんですか!? ぼくなんかが、あの天才魔導士のシリル・アルヴェス公爵子息さまのお友だちに!?」
モリスは「友だち」の単語を聞いてメガネが落ちる勢いでのけぞった。
「モリス、声が大きいよ……も、もう友だちだと思ってたんだけど。ダメ?」
「だだだだだ、だめじゃないです!! むしろ、お願いします。よろしければ未来永劫」
「あはは、未来永劫、ね」
ちょっとオーバーで変なところもあるけど、多分父上から見た僕もこんなふうに見えているんだろうと思ったら軽く流せた。
彼は「おぉ、神よ……」と手を組んで虚空に向かって祈りを捧げていた。道行く人はそんなモリスを二、三度見ていたが、とくにこれと言ってなにも言わなかった。
僕も気分がいい。今日は人生で初めての友だちができたから胃薬はいつもの半分で足りそうだ。
「そうだ、シリルさま。今日は第二王子殿下と一緒じゃないんですね」
「ディオン殿下……?」
なぜそこで彼の話が出てくるんだ。
僕の反応にモリスは首をかしげている。
「シリルさまは、第二王子殿下に気に入られて従者に選ばれたと噂を聞いたので。シリルさまは魔法の天才ですし、殿下の右腕にふさわしいお方だと負いますから……それに! お二人はいつも一緒にいるじゃないですか!! シリルさまが編入してきたときからもうぴったりくついていて!!」
「それは……深い事情が……」
モリスにはどうして彼と一緒にいるのかその理由を話せない。
これは公爵家とディオン殿下との間で秘密裏に捜索している事件だ。事情を話すということは彼を巻き込むことにもつながる。
それに、彼が犯人という可能性も捨てきれない。人畜無害そうにみえて実は……という可能性もまだ残っている。
僕はなんでもないよ、と返答し、従者になったというのは噂で実際は違うと伝えた。
「その噂、なんでそんなに出回ってるの?」
「第二王子殿下に直接聞いた人がいたみたいで。誰かはわかりませんが……」
「あのディオン殿下に!?」
その人は勇者か、なにかだろうか。
勇気ある行動には恐れ多いが、それでディオン殿下がなんと答えたのか。
モリスは「殿下が肯定も否定もしなかったから、そうなんじゃないかって」と信じ込んでいるような口ぶりで言う。
それもそうか。ディオン殿下はこれまで人をわざと寄せ付けないように横暴……冷徹に振舞ってきた。そんな彼の側にいきなり僕が現れたから、みんな、僕のことをディオン殿下の従者だと勘違いしたのだろう。目立つのは嫌いだが、ディオン殿下の側にいるのが一番安全だ。彼は、この噂をきっとうまく利用するだろう。
シリルさま? と、声をかけられ我に返る。
噂の出どころはわからないが、犯人捜索に当たってなんの支障もない。このまま放っておいても大丈夫だろう。
王族の従者になったなんてとんでもない。僕は一生公爵家で魔法の研究をしてのんびり暮らしたいのに。
「なんでもないよ。そういえば午後の授業ってなんだっけ?」
「午後の授業は歴史と魔工学ですね。どちらの授業も非常に厳しい先生なのでくれぐれも居眠りをしないよう気を張って臨みます」
「魔工学か気になる分野だな」
「そうだ。シリルさまさえよければ、放課後図書館に一緒に行きませんか? プリムヴェール学園は王国内にある図書館の中で三番目に広いので。シリルさまも興味あるかなと」
「いいの? ぜひとも」
公爵家の書庫もかなりの広さだが、プリムヴェール学園の図書館はそれの二倍ほどだとジゼルが話していた。一度行ってみたかったから、この際初めての友だちと行くのもいいだろう。
新しくできた予定に胸が弾む。
最初こそ学園で上手くやっていけるだろうかと不安だったが、モリスのような人に巡り合えてよかった。授業も新鮮だし、人が多いのはまだ慣れないけどなんとなくやっていけている気がする。
ジゼルとはクラスが違うため、この広い校内ですれ違うのも数回程度。
また、レリア嬢が王太子殿下の婚約者になったのではないかという噂も広まっていた。公表していないが、二人が一緒にいるところを目撃した人も多いため確実と言ってもいいだろう。
犯人を捜しつつ、学園生活を満喫する。週末は温室に戻って魔法植物の世話。うん、完璧なルーティーンだ。
そうこうしていると、チャイムが鳴り、僕とモリスは慌てて教室に駆け込んだのだった。




