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8.思った通りにいかないのが人生


「写真はない。うちや、うち」


 ニッコリ笑顔を浮かべたまま、自身を何度も指さす獣人族さん。思ってもいなかった提案に、俺とナツキは顔を見合わせる。


 二人の驚きを見ても、獣人族さんは気にせず言葉を続けた。


「うち、こう見えて結構戦えるんよ。前衛はもちろん、弓とかも使えるから後方に回ることもできるし。あとほら、おっぱいもまぁデカくてあんさんの願いも叶っとるやろ? ほらほら」


 自身の胸を両の手で持ち上げて、何度も何度も上下に揺らす。たゆんたゆんと何度も跳ねる。全くけしからん。いいぞもっとやれ。ではなくて……。


「あの、おっぱいを全面的に押し出すのはやめてもらってもいいですか? 俺のイメージが、その……」

「ハルトさん、先ほどからおっぱいおっぱいばかり……! これからはおっぱい星人と呼ばせていただきます」

「ダメです。許しません」


 冷たくなっていくナツキの視線を受け流し、俺は再度獣人族さんを見つめる。


 獣人族の身体能力は、俺たちを遥かにしのぐ。ほとんどの者は片手でリンゴを軽々潰せるほどの力をもっており、文字通り獣のように素早い。俺がガチガチに装備を整えたとしても、一対一では戦いたくない……そう思えるほどの戦闘能力を彼女たちはもっている。が、しかし……。


「あの、申し出はとても嬉しいんですけど……俺たち、今そんな手持ちなくてですね……」

「金のことやったら気にせんでええで〜。おもろいもん見せてもろたし、それで充分やわ」


 獣人族さんは先程の俺たちのやりとりを思い出したのか、顔を伏せてまた小さく笑い始める。


 戦力はお墨付きでお金もいらない。それに性格もまぁ悪くなさそうだし、初対面の俺たちともコミュニケーションはしっかり取れているし……おっぱいも、大きい。断る理由がどこにある!


「俺は大歓迎ですよ! むしろ、俺の方からお願いしたいです!」


 俺は笑顔を向けて手を差し出す。獣人族さんもニコッと笑みを強めてくれて「よろしくなぁ〜」と言葉を添えて俺の手をギュッと握りしめてくれる。


 可愛い。よかった、酒場に来て。今日の不運な出来事が全て吹き飛んだ。


「あれ? そちらさんはあかんのか?」


 笑顔を消して、俺の背後に視線を送る獣人族さん。俺も視線を追ってみると──背後にいたナツキは、俺とは真逆、不安そうな表情で顔を俯かせている。


「ナツキ、どうした? もしかして、お前は嫌なのか? 獣人族さんが仲間になるのが」

「だって、その……獣人族さん、ハルトさんと初対面なのにすごく仲良さげに話してて……。このまま一緒に行動するようになったら、ますます仲良くなって、イチャイチャして、恋仲になって……! 私、け者になるじゃないですか! 邪魔者扱いされたくない! 捨てられたくないぃぃ!」

「お前もしかして、そんな理由で捨てられたこともあるの……?」

「なっちゃん安心しいや〜。うち、男よりも女の子の方が好きやねん。やから、なっちゃんが思っとるようなことにはならんならん」


 ホッと安堵の息を吐き出すナツキ。俺は悲しみの息を大きく吐き出した。


 これ、逆に俺がパーティから追い出される可能性があるのか……? 頼むからそれだけはやめてくれ……!


「うち、アキっていうんや。これからよろしくなぁ〜」

「よろしくお願いしますアキさん! あ、でも、その、アキさん」

「どないしたんや、なっちゃん?」

「あの、その……お、お店はどうするのですか? 私たちについてくるってことは、ここを開けないとじゃないですか」

「あぁな。心配せんでも大丈夫やで〜。うち、こう見えて冒険者やっとんねん。一人での冒険に飽きたから、仲間探しとる途中やったんや。んで、ただ待っとるだけやと暇やで、ここで働かせてもらいながらにしとったんや」

「そうでしたか! それならば安心です!」

「んじゃ、準備してくるから、ここで待っとってなぁ〜」

「は〜い!」


 軽く手を振り尻尾を振り、カウンター奥の扉へと姿を消したアキ。ナツキは扉が閉まった後も笑顔で手を振り続けている。


 俺が落ち込んでいる間にスイスイと進んでしまったお話。

 このままでは俺は邪魔者になるのではないか? やばい、どうしよう。


「アキさん、すごく強そうで頼りになるだろうし、それに優しいから逃げても怒らなそう……! えへへ……!」

「ナツキ、わかってると思うが、アキがお前を甘やかせば甘やかすほど、俺は厳しくなるからな」

「やだやだやだやだぁぁぁ! ハルトさんも優しくしてくださいぃぃぃ! 怖いのは嫌なんですぅぅぅ!」

「甘えるなっ! 言っておくが、俺はお前が一人でも生きていけるようになるまでは絶ッッッ対に離れないからな! そういう約束だからな! 恨むならば捨てないでとすがってきたあの時の自分を恨むんだな!」

「やだやだやだぁぁぁ! 甘やかしてくださいハルトさぁぁぁん!」


 瞳を潤ませ、俺に縋り付いてくるナツキ。


 あの時多少の後悔をしていた約束が、まさか自分が追放されないよう縋り付ける素晴らしい鎖となるとは。いやはや、人生とは何が起こるかわかったものではないな。


 うんうんと一人頷きながら、俺はナツキのお願いを母から受け継いだ鋼の精神でシャットアウトし、カウンターに置かれたメニュー表を開き、浮いたお金で何食べようかなぁ〜と考え始めた。


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