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6.自分の才能は自分じゃ気づかない


 ドンッゴロゴロゴロドガシャァァン!


 着地、回転、衝突を派手にきめた俺は、その場に倒れ込んだまま動けない。


 どうして俺ばかりこんな目に遭うのだろうか……? 一体俺が何をしたというんだ……? ただおっぱいが大きい子をお願いしただけじゃないか……男の子は皆おっぱいが好きなんだよバカヤロウ……!


 しかしながら、理解できない出来事はそれだけではない。


 誰が俺を殴ったんだ?


 今この酒場には、俺、ナツキ、獣人族さんの三人しかいない。獣人族さんは写真の準備でカウンター下へ潜り込んでいる。俺を殴れるわけがないし、先ほどの一撃は村一番の怪力と言われていた母にぶん殴られた時の記憶が蘇ってくるほどの威力だった。ナツキにそんな威力のパンチができるとは思えない。つまり、俺を殴った第三者がここにいる。もしや、魔物か⁉︎


 大慌てで顔を上げて、周囲をこれでもかと見回す。


 しかしながら、魔物の姿などどこにも見当たらない。視界に映るのは、カウンター下でゴソゴソ音を立てて呑気にしっぽを揺らしている獣人族さんと、顔を真っ赤に染めて、小さく震え、右拳を丸めて、右腕を振り抜き終わった後のような仕草で動きを止めているナツキ……ん?


「……ま、まさか……ナツキ……お前、なのか……?」

「エ、エエエエエッチなのは、ダメ! 絶対にですっ!」

「お前なのか……? 魔法使いである、お前が──」

「エッチです! エッチすぎますハルトさん! そんなエッチなことで仲間を決めるだなんて、絶対にダメです!」


 会話が噛み合ってはいないが、俺を殴ったのはナツキであることがここにきて判明。雷に打たれたような衝撃が、全身を駆け巡る。


「ナ、ナツキ!」


 俺は痛みを全て忘れて勢いよく立ち上がり、ナツキの元へと駆け出す。

「へ?」と戸惑いを見せるナツキを気にすることなく、真剣な眼差しで、彼女の両の手を、強く握りしめた。


「へ⁉︎ ちょっ、ハ、ハハハハルトさん⁉︎」

「ナツキ、俺はお前に伝えたいことがある」

「つ、伝えたいこと……? も、もももも、もしかして⁉︎」

「ナツキ、お前は──」

「いやいやいやいや待ってください待ってください! わ、私たち、出会ってまだそんな経ってないじゃないですか! それなのに、その……は、早すぎますって! ハルトさんはダメダメな私を見捨てないでくれる優しくて素敵な方だと思ってはいますが、そういう関係になるのはまだやっぱり……き、嫌いではないです! 嫌いでは! なので、もう少し──」

「お前は、格闘家に向いているぞ!」

「ですから、私たちが格闘家として生きていくのは、もう少し互いの……格闘家?」


 猛スピードで吐き出されていた言葉はピタリと止まり、ナツキはパチパチと大きく二度瞬き。

 俺はナツキとは違い表情を変えることはなく、真剣な眼差しを崩さないまま再度口を開く。


「先ほどのパンチ、とてもよかったぞ! 魔法使いとして後ろで置いておくには勿体無い! ナツキ、お前も前に出て共に戦おう!」

「……はい?」

「大丈夫、安心しろ! 俺は体術もそこそこできる男だ! わからないことがあれば遠慮せず聞いてくれ! お前はこれから、魔法も使えるスーパー格闘家として、この世に名を知らしめるほどの素晴らしい冒険家になること間違いなしだ! 謙遜けんそんするなよ、ナツキ! 自分の才能に、誇りを持て!」

「あ、あの、勝手に話を進めないで──」

「よし、そうと決まればまずは武具屋に行こう! 今の手持ちとナツキの魔法使いセットを売れば、装備は買えるだろうしな! すいませーん、武具屋ってどこにありま──」

「待ってください待ってください待ってくださいって! 話を勝手に進めないでください! 私、格闘家になるなんて一言も言ってません! 絶対に嫌です!」

「じゃあ魔法使いとして逃げずに俺のサポートしますか⁉︎ 逃げずにちゃんと戦いますか⁉︎」

「あ、う、うぅ……そ、それは、時と場合によると言いますか──」

「はいダメェ! 格闘家決定! 前に出て戦いなさい! お前が前に出ることにより、逃げようとしてもすぐにわかる! 素晴らしい打撃を活かすことができる! いいことずくめ! やらない理由が見つからないだろ! さぁ、武具屋に──」

「嫌です嫌です絶対に無理ですぅぅぅ! 無理無理無理無理絶対に無理ぃぃぃ!」

「やる前から無理無理言ってんじゃないよ! 何事もまずは挑戦! さぁ、観念して──」

「私が前に出たって何もできません! できるとしても、肉壁となってハルトさんを守ることくらいしかできません!」

「例えが恐ろしすぎるだろ! 『怖くて動けなくなっちゃいますぅ〜!』とか『泣いちゃいますぅ〜!』とか、そういう可愛らしい例えに──」

「ゴブリンとかそこら辺の魔物にも簡単にやられてそのまま巣へとお持ち帰りされて四肢ししを千切られはらわたを抉り出されて頭もその勢いのまま──」

「やめろやめろやめろぉぉぉ! 想像しちゃったじゃんかバカァァァ! そんなむごたらしいとこ見ちゃったら、俺立ち直れる自信ないよぉぉぉ!」

「では、私の格闘家転職は無かったことにしてください! ハルトさんのためにも! 私のためにも!」

「それとこれとは話が別だ! お前が逃げ回ってると、俺が惨たらしいことになるかもしれないでしょうが! だから絶対に──」


 パンパンッ!


 俺たちの声量に負けない乾いた音が酒場一杯に広がり、俺とナツキは言葉を止めてカウンターへと視線を向ける。


「まぁまぁお客さんら、その子の転職どうこうは募集見てからでええんとちゃうんか〜?」


 手を叩いた獣人族さんは、のほほ〜んとした表情を崩すことなく、俺に声をかける。


「それもそうですね」


 俺は一言吐き出し、ナツキの手を離してカウンターに向かう。「私は絶対に格闘家にはなりませんからねっ!」と強い言葉を吐き出すナツキを無視して、カウンター席に腰掛けた。


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