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5.男はみんな『あれ』が好き


「こんにちはー」


 俺は挨拶を口にしながら、街の中心──ではなく外れにある小さな酒場の扉を開けた。


 思った通り、近くを通るだけで賑やかさが店外まで漏れ出していた酒場中央店とは違い、こちらは扉を開けても静けさに包まれている。これならば肌着状態であっても冷たい視線を感じることなく話を進められる……んだけども……。


 店の扉を静かに閉めて、俺は周囲を見回す。

 真っ昼間という時間だからだろうか、客は一人も見当たらない。客どころか、お店の人も見当たらない。店の人がいないのは想定外すぎる。どうやって営業してんだ、ここ? もしかして、中央店に客全部取られて潰れたのか? やっぱ中央店に行って冷たくて痛い視線を肌に突き刺しながら話を進めないとダメ? 神様、もっと俺に優しくして。


「ハ、ハルトさん……!」

「ん? なに?」

「ハ、ハルトさんハルトさんハルトさん……!」

「だから、なに?」

「あ、あれ……あれ……!」

「あれ?」


 目を大きく開いて指を指すナツキ。指先を視線で追ってみる。


 店内の細長いカウンターの奥──もっふもふの緑色の毛をした何かが、ゆらりゆらりとうごめいている。


 もしかして、魔物か? だとしたら、ナツキが逃げる。それはいけない。


 ガタガタ大きく震えているナツキ、逃げ出さぬよう首根っこをガッチリ掴んだ。


「いや、ちょっ、ハルトさんハルトさん離してください離してぇぇぇ!」

「大丈夫大丈夫。なんかあっても俺がなんとかしてやるからさ」

「ハルトさん今武器何も持ってないじゃないですかぁぁぁぁ!」

「そういやそうだった。よし、逃げよう」

「そうしましょうそうしましょう! さっさとここから逃げましょうぅぅぅ!」


 意見を一致させ、その場から勢いよく逃走しようとした瞬間──カウンター奥のもふもふはピタッと動きを止めて、カウンター下へと姿を消し──


「いや〜すまんすまん。お客さん来とんの気づかんかったわ〜」


 もふもふの代わりにひょこっと下から顔を見せたのは、頭上に立派な耳を生やした女の子。胸元あたりまで伸びた襟足の髪をぴょんと跳ねさせ、あはは〜と軽く笑いながら、先ほどのもふもふのしっぽを背後でゆらりゆらりと動かしている。


「な、なんだぁ……魔物じゃなくて、獣人族の方でしたか……」


 ホッと大きく息を吐き出したナツキ。俺はナツキの首根っこから手を離して、カウンターへと歩を進める。


「らっしゃいらっしゃい。ええ酒揃っとるでぇ〜。街ん中央にドンッと建っとる店にも負けん、ええもんがいっぱいあんでぇ〜。どれにするどれにするぅ〜?」


 獣人族独特の話し方で、カウンター下からボトルを取り出して俺の前に軽く置く。


「今日はお酒飲みに来たんじゃないんです」


 否定の言葉を耳にした獣人族さんは、パチパチと大きく二度瞬きを繰り返した後、垂れ気味のお目目をまたニッコリと形変え、「ほな、こっちかぁ〜」と言いながら軽く二度手を叩いた。


「らっしゃいらっしゃい。うちにもええ子いっぱいおりますでぇ〜。身長高い子から低い子、おっぱい大きい子、お尻の大きい子、筋肉モリモリ、いろんな子紹介できまっせぇ〜」

「あの、できれば剣士とか格闘家とか魔法使いとか、職業で教えていただけるとありがたいのですが……とりあえず、おっぱい大きい子でお願いします」

「あいあい〜。写真準備するから、ちょいと待ってなぁ〜」


 ニコニコ笑顔を崩すことなく、またカウンター下へと消えていく獣人族さん。


 この酒場で、一体どんな子と出会うことができるのだろうか? ワクワクが止まらないぞ。いやしかし、あの獣人族さんもなかなか素晴らしいものをお持ちで、正直目のやり場に困ってしま──


 右頬に強い衝撃が走る。刹那、俺の視界は回転を始め、身体は宙へ軽く浮き上がった。


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