3.やりたいこととやるべきことは似て非なるもの
俺がナツキと出会ったのは、二週間ほど前──そろそろ仲間が欲しいかもと思い立ち寄った街で、パーティから追放され大泣きしている彼女を見つけたのだ。
先に言っておくが、ナツキに声をかけたのは決して『可愛いから』ではない。仮にナツキが筋骨隆々のおじさんだったとしても、俺は手を差し伸べていたはずだ。たぶん。
ナツキは、あぁ見えて魔法使いとしての技量はかなりある。本人曰く、小さい頃から本が友達状態だったため、暇あれば魔導書を読み一人黙々と練習を繰り返してたらこうなったとのこと。
攻撃魔法はもちろん、回復魔法も使えて、さらに使い手が限られている上級魔法までも習得していて、プラス可愛らしい見た目……どうしてこんな彼女が追放されるのだろうか? 女の嫉妬か? いやはや恐ろしい……なんて思っていたのだが、蓋を開けてみれば追放が納得の『特性 逃げ足』
そうとも知らず、詳しく事情を聞かずに鼻の下伸ばして仲間にしたあの時の自分をぶん殴ってやりたい気分だ。
男性諸君、くれぐれも俺のようにならないよう気をつけたまえ。
「ハルトさん、これからどこにいくんですか?」
体力が回復して歩き出した俺に、りんごが入った紙袋を抱えたナツキが問いかけてくる。
逃走中に炎魔法で衣服を燃やされ現在肌着状態の俺は、一刻も早く服屋へ駆け込んで周囲から放たれる冷えた視線から肌を守りたい気持ちなのだが……それ以上にやらなければいけないことが、俺にはある。
「今から、酒場にいく」
「酒場にですか? もしや、お酒を飲むのですか⁉︎ 真昼間からお酒だなんて、ハルトさん悪ですね!」
「仲間見捨てるお前のが悪だよ」
ナツキの額に、軽くデコピン。「あうっ!」と可愛らしい言葉を漏らすナツキを気にすることなく、俺は言葉を続ける。
「酒場はな、酒を飲むだけの場所じゃねぇの。酒場には、人がたくさん集まるだろ? もちろんその中には、冒険者だっている。その冒険者たちに、自分を雇ってくれって売り込みにくる奴らも結構いるんだよ」
「へぇー。そうなんですね」
「そうなんですねって……あなた仮にも冒険者でしょ? なんでこんな初歩的なことも知らないの?」
「私、そういったことは全部お任せしていましたので。えへへ」
「えへへじゃないわ」
もう一度、軽くデコピン。今度は「はうぅ⁉︎」が飛び出す。
「酒場に来る冒険者たちは、基本的に仕事終わりで気が緩んでることが多いからな。そこに酒もプラスされれば、勢いですぐに話がまとまることが多いんだ。だから、酒場には自然と雇ってほしい奴らがいっぱい集まってくるってこと」
「なるほどぉ。つまり、今から酒場にいくのは、仲間集めってことですか?」
「その通り。俺たち二人だけだと、ナツキが逃げ出した後に俺一人になるだろ? 俺もまぁ腕っぷしには自信あるけど、流石に一人で複数人相手とか、今回みたいに格上相手になるとキツいからさ」
ナツキには申し訳ないが、現状ナツキは食費とか宿代とか出費が増えるだけの、いわゆるお荷物状態。二人分の生活費を稼ぐとなると、報酬金は良いが危険度が高い依頼を受けていかなければいけない。野宿生活を削減するためには、一刻も早く仲間を集めて──
ボトボトボトッ!
後方から物が落下する音が耳に届き、俺は足を止めて振り返る。
目を大きく見開いた状態でなぜか動きを止めているナツキ──抱えていた紙袋は地面に落ち、中に詰め込んでいたりんごが四方八方に転がっている。
改めて思うが、りんご買いすぎじゃない? りんご好きだけど、三食りんごは流石に嫌だぞ。
「ナツキ、一体どうした──」
「ず、ずでないでぐだざいぃぃ……!」
「……え?」
りんごを拾う手を止めて、視線を上げる。
目の前の少女は、りんごにも負けぬ大粒の涙をなぜかこぼしている。
俺は一体何をしてしまったんだ……?
「あ、あの……ナツキ、さん……? ど、どうして泣いていらっしゃ──」
「わ、わだし、いっばいいっばい頑張りまずがらぁぁ……! だ、だがら、だがらぁぁ……!」
「えっと……何を? 一体何を頑張るのかな……? というか、どうしてこんなことになっているの……? お願いだから俺に教えて……! お願いだから、理由を──」
「やだぁぁぁ! みずでないでぇぇぇ! うわぁぁぁぁぁぁん!」
鼻水まで垂らし俺に縋り付く目の前の少女。
ナツキの言葉から察するに、彼女は多分『仲間を探す=捨てられる』と解釈し、捨てられたトラウマが蘇り、こちらの声が聞こえないほど焦っている状態なのだろう。
こんな時、どうしたらいいのだろうか? 女性経験が全くないと言っていい俺にはさっぱりわからない。
このまま声をかけ続けてもいいのだろうか? 落ち着くまで待ったほうがいいのだろうか? とりあえず場所変えたほうがいいのか? 放っておいてりんご集めしたほうが?
この後の行動を決められず、ナツキ同様に焦りを見せ始める俺──の肌が、急速に冷え始める。この街へ逃げ帰ってきた時よりも、冷たい視線が、次々と……!
このままでは俺は『魔族倒してきますよと意気揚々出て行って速攻逃げ帰ってきた哀れな剣士』+『可愛い女の子を泣かせるクズ剣士』+『肌着で街をうろついている変態』という不名誉な称号を手に入れてしまうことになる……! 一刻も早くなんとかせねば!
ナツキの嘆きが大きくなるほど、周囲のざわめきも強まっていく。
俺は大慌てで落ちたりんごをかき集め、袋に詰め、袋をナツキに無理やり抱かせ、泣き止まないナツキを抱え、事態の沈静化を図るためにその場から逃走した。
これ、傍から見たら『少女を連れ去る肌着姿の変態男』に見えてないかな? 大丈夫かな? この街を出禁になりませんように。




