表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/9

2.逃げたやつと逃げたやつ


「はぁ、はぁ、はぁ……! し、死ぬかと思った……!」


 洞窟から街へと駆け戻った俺は、情けない言葉をボソッと吐き出しながら、人目気にせず倒れ込んだ。


 ぜぇはぁと息を乱しに乱して倒れ込む男に対して、通りかかる街の人たちは心配の声をあげない。むしろ冷たい視線を俺の身体中に突き刺してくる。


 まぁでも、『洞窟に住む魔族のやろうは、この俺がなんとかしてみせますよ!』と強気な発言をして出ていった男が数時間もしないうちに肌着状態で逃げ帰ってきたんだから、そうなるのも無理ない。俺が街の人だったとしてもそういう反応するもん。いや待て、俺は心優しい男だから心配するな。辛そうにしている人を見捨てるなんてできない。だから、誰でもいいから心配してくれ。優しい言葉を俺にくれ……。


「ハ、ハルトさん!」


 願いが届いたのか、前方から俺を心配してくれる可愛らしい声が耳に届く。


 しかし、俺は喜ばない。聞き覚えしかない声は俺の眉間にキッとシワを寄せ、目を鋭く細めさせる。疲れは怒りで上書きされ、俺は勢いよく顔を上げた。


 心配してくれた人物は予想通り、洞窟内で俺の背後にいたはずの魔法使い。俺を見捨てたことをすでに忘れているのか、茶色の紙袋を両の腕でしっかりと抱き抱えながら、トトトッと俺の元へと駆けてくる。


「よ、よかったぁ……! 無事だったんですね……!」

「お前、人のこと見捨てたくせによくもまぁ『すごく心配してました!』顔で近寄ってこれるな……! その度胸だけは褒めてやる……!」

「え、あ……ありがとう、ございます……! 私、褒められることなんて滅多にないので、嬉しいです……! えへへ……!」

「好意で言ってんじゃねぇよ! 素直に受け取るな! お前、なんで俺を見捨てて逃げたんだよ! 俺のこと嫌いなの⁉︎」

「そ、そんなことないです! 嫌いじゃないです! あの、その……こ、怖くて……!」

「怖いはこっちのセリフだよ! 魔族相手に一人取り残される俺の気持ちをお前は考えたことあるか⁉︎ 今すぐに考えろ!」

「も、もちろん考えましたよ! きっと戻ってくる頃には体力がすごく減っているだろうなと思って、私いっぱいりんごを買ってきて……って、よく見たらハルトさん、すごく軽装になってませんか? 装備はどうしたんですか?」

「捨ててきたんだよ! 鎧も、剣も、プライドも、走るのに邪魔なものは全て捨ててここまで全速力で逃げてきたんだよ!」

「あ、そ、そうだったんですね……」

「ルージェイさんめちゃくちゃ怒ってたからね! プライドないのか貴様とかこのゴミ糞虫がとか、めちゃくちゃ言われたんだからな! 走ってる途中で何度泣きそうになったことか!」

「……あの、すみません、ルージェイさんってどなたですか……?」

「お前も戦う予定だった魔族の方だよ!」

「ぴぃ⁉︎ すみませんすみませんんんん!」


 涙目になってペコペコ頭を下げるナツキ。その姿を見た街の人々は、冷たい視線を俺にぶつけてくる。


 理由も知らない街の人から見たら、俺は可愛い子を怒鳴り怯えさせるクソ男に映ってしまっているだろうからな。しかし、本当のクソ男というのは『実はこの子はこんなことしてたんですよ〜!』と周囲に言いふらし自分は悪くないですよアピールをする者。俺はそんなことはしない。俺は、いい男なのだ。


 俺は周囲の冷たい視線に苛立つことなく一呼吸置き、ナツキの紙袋からりんごを一つ取り出してかじりついた。


 う〜ん、シャリシャリしてて甘くて美味しい! 体力が回復した。


 落ち着きを取り戻した俺は、「これ美味しいぞ」と口にしながら、齧りついていない方をナツキに差し出す。


 ナツキは周囲の人間とは違い、肌着状態である俺に嫌な顔一つも見せずに近づいてくると、躊躇ためらいもなく差し出されたりんごに齧りついた。


「んっ! 本当です! すごく美味しいです!」


 シャリシャリと咀嚼そしゃくしながら、ニッコリ笑顔で俺にご報告。不本意ながらも、この可愛らしい笑顔に癒された。このままでは逃亡したことを水に流し、今後も同じことを繰り返してしまいそうだ。


 しかし、俺は優しくもあり厳しくもあるできる男だ。甘やかしたい気持ちをグッとこらえ──


「次は私の番です! ハルトさん、どうぞ!」


 ニッコリ笑顔を浮かべたまま、紙袋から新しいりんごを取り出して「はい、あ〜んっ!」と可愛らしい言葉と共に俺の口元に近づけてくる。


 周囲の男たちから浴びせられていた凍てつくような眼差しが、嫉妬や羨望せんぼうが混じってそうな熱いものへと変化していく。先ほどまで地の底へと落下していた俺の地位が急上昇したようでとても気持ちがいい。


 しかしながらナツキよ、申し訳ないがこのようなことでお前を甘やかし続けていたら、お前のためにならない。だからここは心を鬼にして……あれ、おかしいぞ? このりんご、さっきよりも甘く感じる。すごく美味しく感じちゃう。ナツキの笑顔が三割り増しで可愛く見えちゃう。


 どうやら俺は、走ってる最中に『強い意志』も捨ててきてしまったようだ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ