第7話 『りんの独白』
「リンってさ、油断してるよね。ひよりがリンを好きなこと、絶対揺るがないと思ってるでしょ。そういうの、いつか後悔するよ」
ある日、ありすにそう言われた。
うるさい、と返そうと思った。
でも、その日はうまく言えなかった。
そうだ。
ひよりはずっと、わたしを見ていた。
昼休みも、帰り道も、どうでもいい話の途中でも。
それが変わらないものみたいに、わたしは勝手に思っていた。
でも、そんなわけがない。
時間は進むし、人も変わる。
もし、ひよりがわたしを見なくなったら。
そう考えたとき、最初に浮かんだのは、ひどく小さいことだった。
昼休みに、わたしの弁当を勝手にのぞきこむやつがいなくなる。
帰り道に、どうでもいいことで話しかけてくる声がなくなる。
それだけのことなのに、たぶん教室は変に広い。
資料室で、ひよりの膝に頭をのせたとき、思った。
このままキスされても、べつにいいかもしれないと。
あれが何だったのか、まだわからない。
好奇心だったのか、雰囲気に流されただけなのか。
でも、ひよりの瞳を見ながら、少しだけ待っていたのは本当だ。
なのに、ひよりは何もしなかった。
ただ、わたしの前髪を撫でて、笑って言った。
「今日は、ずいぶん無防備ですね」
もし、あのときキスしていたら。
そういう「もし」は、ひとつ思いつくと、次々に増える。
もし、ひよりがわたしを見なくなったら。
もし、今みたいな昼休みが終わったら。
もし、帰り道がただの道に戻ったら。
もし、ひよりが、わたしの知らないところへ行ってしまったら。
今のわたしには、この「もし」の意味さえ、まだちゃんと捕まえられない。




