第6話 『ひよりの独白。本気の告白』
小さいころから、世界と歩幅が合わなかった。
みんなが自然に笑うところで、どうして笑うのかわからなくなることがあった。
どうでもいいことに心が引っかかって、いつまでもそこから動けなくなることもあった。
逆に、みんなが大事にしていることが、わたしには少し遠く見えるときもあった。
だから、まわりからは変わり者だと言われていた。
天然とか、ふわふわしてるとか、何を考えているかわからないとか。
わたしは、世界の中にいるのに、いつもほんの少しだけ外側にいた。
ちゃんと立っているつもりなのに、地面にうまく足がついていない。
みんなと同じ教室にいて、同じ制服を着て、同じ時間を過ごしているのに、どこかだけ少しずれている。
そのずれを、自分でも知っていた。
知っていたから、最初からあまり期待しないようにしていた。
どうせまた、うまく溶け込めないのだろうと。
どうせまた、少し不思議な子のままなのだろうと。
リンと出会ったのは、高校の入学式の日だった。
後ろの席だった。
たったそれだけのことなのに、わたしはいまだに、その日の光の色まで覚えている。
リンは、ごく普通に話しかけてきた。
変なものを見るみたいな目ではなかった。
面白がる感じでも、気をつかう感じでもなかった。
ただ、後ろの席の子に話しかけるみたいに、普通に話しかけてきた。
その普通が、わたしには少し眩しかった。
わたしのずれを、矯正しようともしない。
名前をつけて安心しようともしない。
なんとなく変でも、そのまま受け流してくれる。
その雑さが、わたしには救いだった。
それから少しずつ、リンはわたしの世界に入ってきた。
リンとの出会いは、折り合いのつかない世界との、架け橋だった。
辻褄の合わなかった日々に、一本だけ通った細い線だった。
そのころ、ありすがよく、わたしをからかった。
リンのこと好きなんでしょ、みたいに、彼女はすぐ言う。
わたしは、あえてそこに乗った。
冗談みたいな顔をして、ほんとうのことを隠した。
ありすのちゃかしに紛れてしまえば、この気持ちも少しだけ軽く見える気がしたから。
好きになったのは、たぶんそのあとだ。
資料室のあのとき、たぶんキスしようと思えばできた。
リンは逃げなかったと思う。
拒まなかった気がする。
少なくとも、あの一瞬だけは。
でも、しなかった。
怖かったから。
そんなことをしたら、少し曖昧で、少しずるくて、それでもたしかに存在したこの時間が、もう元の形を保てなくなる。
このまま、昼休みに話して、帰り道を歩いて、どうでもいいことで笑っていられるなら、それでいい。
足りないまま続く幸せのほうが、壊れてしまう真実より、わたしにはずっと大事だった。
だから決めた。
この気持ちに、名前をつけるのはやめよう。
この気持ちに、蓋をしよう。
この気持ちは、誰に知られるわけにもいかない。
そう。
だから。
だから、わたしは、本気の告白はできない。




